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プレスリリース

2020年 4月 6日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

2019年スーパーインド洋ダイポールモード現象の予測成功の鍵は
熱帯太平洋のエルニーニョモドキ現象

1. 発表のポイント

2019年に過去最強クラスの正のインド洋ダイポールモード現象が発生した。
本現象は過去最悪と言われる豪州の山火事や東アフリカで食糧不足を招くバッタの大量発生、日本の記録的暖冬の一因になったとも指摘されている。
スーパーコンピュータを使った数理予測シミュレーションでは、前年の秋から、その予測に成功していた。
予測成功の鍵は、熱帯太平洋で発生していたエルニーニョモドキ現象であった。

2.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是、以下「JAMSTEC」という。)付加価値情報創生部門アプリケーションラボの土井威志研究員らは、2019年に発生した過去最強クラスの正のインド洋ダイポールモード現象(※1)が、前年の秋から予測可能であったのは、熱帯太平洋のエルニーニョモドキ現象による影響が大きかったことを示しました。

インド洋ダイポールモード現象は、世界各地で異常気象を引き起こします。例えば、東アフリカでは平年より雨が多く、インドネシアや豪州では雨が少なくなります。そのため、同現象の発生を高精度に予測することは、自然現象の科学的理解にとどまらず、社会・経済的な視点からも非常に重要です。しかし、夏から秋にかけて発生する同現象を、冬を跨いで前年の秋から予測することは非常に困難であることが知られていました。

JAMSTECアプリケーションラボでは、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使った数理予測シミュレーション「SINTEX-F」(※2) に基づき、毎月準リアルタイムに、同現象の12ヶ月先までの予測情報を配信しています。しかし、上述の通り、前年の秋から実施した予測の精度は低いのが現状です。それにも関わらず、2019年の同現象の発生予測は的中しました。そこで、その理由を検証したところ、熱帯太平洋のエルニーニョモドキ現象(※3)の発生が重要な鍵であることを突き止めました。

この成果を契機に、インド洋ダイポールモード現象と太平洋のエルニーニョモドキ現象の相互関係の理解が進むと共に、それらの予測情報を基盤とした農業や感染症等に関する研究が展開されることも期待されます。

本成果は、米国地球物理学連合の「Geophysical Research Letters」オンライン版に4月2日付け(日本時間)で掲載されました。

タイトル:Predictability of the super IOD event in 2019 and its link with El Niño Modoki
著者:
土井威志1、スワディヒン・ベヘラ1、山形俊男1
1. JAMSTEC付加価値情報創生部門アプリケーションラボ

3.背景

インド洋ダイポールモード現象は、JAMSTECの山形俊男博士、Hameed Saji博士を中心とした地球環境フロンティア研究センターの気候変動プログラムの研究者らによって発見されました。それからちょうど20年目に当たる2019年、過去最強クラスの正のインド洋ダイポールモード現象が発生しました。5月頃から急成長し、11月には最盛期を迎え、12月には衰退し始めたもののその残滓はあり、年が明けてようやく終息しました。典型的な事例と比べ、数倍程度の強さで発生期間も長かったことから、1994年や1997年と並び、スーパーインド洋ダイポールモード現象と呼ぶことができるでしょう(図1a)。過去最悪と言われる豪州の山火事や、東アフリカで食糧不足を招くバッタ大量発生、日本の記録的暖冬の一因にもなったと指摘されています。

JAMSTECアプリケーションラボ では、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使った数理予測シミュレーション「SINTEX-F」に基づき、毎月準リアルタイムに、同現象の12ヶ月先までの予測情報を配信しています(最新の予測情報はhttp://www.jamstec.go.jp/aplinfo/sintexf/seasonal/outlook.htmlを参照してください)。このシミュレーションでは、エルニーニョ現象やインド洋ダイポールモード現象などの発生に加えて、それに伴う季節不順などを数ヶ月前から予測しており、先駆的な成果を上げてきた実績があります。

しかし、インド洋ダイポールモード現象は、最先端のシミュレーション技術でも、数ヶ月前から予測することが難しいとされています。特に、夏から秋にかけて発生する同現象を、冬を跨いで前年の秋から予測することは非常に困難であることが知られており、「冬の予測バリアー」とも呼ばれています。これは、インド洋は夏と冬で風系が逆転するため、前年の情報が引き継がれ難いからかもしれません。ところが、2019年のスーパーインド洋ダイポールモード現象は、前年の秋の時点で予測が的中しました (図2a)。

何故、2019年の事例は、そのように長いリード時間で予測が可能だったのでしょうか?その理由を探索するため、予測アンサンブルメンバーの「共変動」に注目しました。すなわち、アンサンブル手法(僅かに条件が違う予測実験を複数回繰り返す手法)を使った予測シミュレーションの各々の結果のバラツキ(つまり、将来起こりうるパラレルワールドの揺らぎ)に対し、何らかの物理的構造や制御プロセスを持つ「共変動」が無いかを調べました。

4.成果

比較的ゆっくりと変動し且つ予測がしやすいエルニーニョモドキ現象が、インド洋ダイポールモード現象の予測の成否に重要であることがわかりました(図1b, 2b)。エルニーニョモドキ現象が強く表れる予測シミュレーションでは、インド洋ダイポールモード現象も強く表れたのです。これは、1.太平洋でエルニーニョモドキ現象が発生し、2. インドネシア(海洋大陸)付近が高気圧性になることで、スマトラ島沖合で東風偏差が形成され、3.正のインド洋ダイポールモード現象を励起した結果と考えられます(図3)。2019年のインド洋ダイポールモード現象の長期事前予測を可能にしたのは、熱帯太平洋で発生したエルニーニョモドキ現象であり、その強い影響力により、「冬の予測バリアー」を打ち破ったものと考えられます。

エルニーニョモドキ現象も、JAMSTECの山形俊男博士、Karumuri Ashok博士、Swadhin K. Behera博士を中心とした地球環境フロンティア研究センターの気候変動プログラムの研究者らによって発見された現象です。2019年の異常な季節不順の多くは、これらJAMSTECで見出された2つの気候変動現象が大きな役目を果たしていたと考えられます。

5.今後の展望

近年、世界各地で極端な季節不順が頻発しています。そのいくつかは、地球温暖化の進行で、従来の乾燥(湿潤)地域がさらに乾燥(湿潤)化しつつある状況下で、エルニーニョ現象やインド洋ダイポールモード現象などの数年に1度、自然発生する気候変動現象による影響が、重畳することで生じていると考えられます。また、別の事象である地球温暖化とインド洋ダイポールモード現象ですが、前者が後者の発生を極端化・頻発化させてきたとの報告もあります。従って、進行中の温暖化を背景として、数ヶ月から1年程度先の気候変動現象の発生やそれに伴う季節不順を予測する技術(季節予測と呼ばれます)は、ますます重要になってきました。JAMSTECアプリケーションラボでは、季節予測を基盤とした適応研究を展開し(例えば、農業や感染症など)、人々の安全・安心に資するために、社会の活動に具体的に貢献することを目指しています。(詳しくはアプリケーションラボ のHPをご覧ください。http://www.jamstec.go.jp/apl/j/)

なお、本研究で用いた数理予測シミュレーション「SINTEX-F」では、2020年夏にも中程度の正のインド洋ダイポールモード現象が発生する可能性が比較的高いと予測しています。最新の予測情報は以下のサイトをご確認ください。
http://www.jamstec.go.jp/aplinfo/sintexf/seasonal/outlook.html

[補足説明]

※1 インド洋ダイポールモード現象: 熱帯インド洋で見られる気候変動現象で、5、6年に1度程度の頻度で、夏から秋にかけて発生する。ダイポールの名前は、海面水温、外向き長波放射、海面高度などの大気海洋場の異常がダイポール(双極子)構造で持っていたことに由来する。ダイポールモード現象には正と負の現象があり、特に正の現象が発生すると、熱帯インド洋の東部で海面水温が平年より低くなり、西部で高くなるために、通常は東インド洋で活発な対流活動は西方に移動し、東アフリカのケニヤ周辺やその沖合で雨が多く、逆にインドネシアやオーストラリア周辺では雨が少なくなる。また、大気循環の変動を通して、西日本では雨が少なく、気温が高めに推移する傾向がある。このように、インド洋ダイポールモード現象は、インド洋周辺国だけでなく、欧州や東アジアの天候の異常に影響する。さらに、東アフリカで発生したマラリアなどの感染症の大流行や、オーストラリアの小麦の凶作(詳しい解説はhttp://www.jamstec.go.jp/apl/j/topics/20151203.html)などを引き起こし、私達の安全・安心を脅かす程甚大な被害を与えることがわかってきた。
(詳しくはこちら: http://www.jamstec.go.jp/aplinfo/climate/?page_id=112)。

※2 SINTEX-F季節予測シミュレーション:JAMSTECアプリケーションラボ(前身は地球フロンテイア研究システム気候変動予測領域)では、数ヶ月から数年スケールで発生する気候変動現象の解明及びその予測研究のため、気候モデルを基盤としたダイナミカルな季節予測システムであるSINTEX-Fを、日欧研究協力に基づき「地球シミュレータ」を用いて開発および改良してきた。気候モデルとは、大気-海洋-陸面-海氷の物理に関する微分方程式群で構成されており、地球を3次元的な格子状に分割し、それぞれの格子に対して方程式を時間方向に数値積分するプログラム群を指す。現在の観測情報(季節予測では、熱容量の大きい海水温の情報が特に重要)を気候モデルに教え込み、その時間発展をスーパーコンピュータで計算することで、エルニーニョ現象やインド洋ダイポールモード現象などの発生や、それに伴う季節不順などを数ヶ月前から予測する。
(詳しくはこちら: http://www.jamstec.go.jp/aplinfo/sintexf/seasonal/overview2.html)。

※3 エルニーニョモドキ現象: 熱帯太平洋で見られる気候変動現象で、エルニーニョ現象と似ているが、その世界各地への影響はかなり異なり、現在、活発に研究されている現象。エルニーニョ現象は、熱帯太平洋の東部で海面水温が平年より高くなるが、エルニーニョモドキ現象は、熱帯太平洋の東部と西部で海面水温が平年より低くなり、中央部で海面水温が高くなる。この現象は、世界各地の天候や海面水位の変動に影響を与えることが知られている。例えば、エルニーニョ現象が発生すると日本の夏は冷夏傾向になるが、エルニーニョモドキ現象の時はむしろ猛暑になることが報告されている。エルニーニョモドキ現象は、エルニーニョ現象で冷夏と思われた2004年の日本の猛暑の原因を調べる過程で発見された。
(詳しくはこちら: http://www.jamstec.go.jp/aplinfo/climate/?page_id=115)

図1

図1:(a)衛星観測データから計算した、1983年から現在までのインド洋ダイポールモード現象の指標(海面水温の偏差(平年からの異常値)に注目し、インド洋熱帯域での東西差を示す数値。単位は°C。図2aの模式図参照)。0.5°Cを越えると、正のイベントが発生していたと考えて良い。1994年や1997年と並び、2019年に過去最大クラスの正イベントが発生していたことがわかる。
(b) エルニーニョモドキ現象の指標(熱帯太平洋の東部と西部で海面水温が平年より低くなり、中央部で高くなる3極構造を捉えた数値。単位は°C。図2bの模式図参照)。0.5°Cを越えると、正のイベントが発生していたと考えて良い。2018年から2019年にかけて正イベントが発生していたことがわかる。

図2

図2:(a) インド洋ダイポールモード現象の指標。黒い線が観測値。2018年11/1時点で予測したのが色線(水色の線: アンサンブルメンバー各々の予測値、青色の線:アンサンブルメンバーで平均した予測値)。青色の線と黒い線の軌跡がよく似ており、大まかには、予測が成功していたことがわかる。また、水色の線をみると、ダイポールモード現象の発生を過大評価しているメンバーや予測していないメンバーなど、アンサンブルメンバー同士でバラツキがあることがわかる。
(b) (a)と同様だが、エルニーニョモドキ現象の指標について。(a)と同じく、アンサンブルメンバー同士でバラツキがある。本研究では、このバラツキが、インド洋ダイポールモード指標の予測のバラツキと、共変動していたことを見出した(図無し)。

図3

図3: エルニーニョモドキ現象が正のインド洋ダイポールモード現象を励起するメカニズム(模式図)。1.エルニーニョモドキ現象が発生すると、熱帯太平洋中央部で高温・低気圧性になる一方で、2.インドネシア(海洋大陸)付近では、低温・高気圧性になる。すると、インド洋東部のスマトラ沖では東風偏差が形成されやすくなる。その東風偏差は、3.正のインド洋ダイポールモード現象を励起する。すなわち、東風偏差により、インド洋東部では湧昇が促され低温化が進み、西部では暖水が吹き寄せられ高温化が進む。東(西)部では低(高)温化により高(低)気圧性が強化され、それに伴い東風偏差も強化され、更に西高東低の水温コントラストが強化されていく(大気海洋相互作用における正のフィードバックが働く)。

(本研究について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
アプリケーションラボ 研究員 土井 威志
(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
海洋科学技術戦略部 広報課
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