平成11年9月1日
海洋科学技術センター
世界初の深海底長期地震・地殻変動観測研究の開始について
−三陸沖地震の発生メカニズムの解明を目指して−
海洋科学技術センター(理事長 平野拓也)は、9月2日より三陸沖地震発生帯に近い水深約2,500m及び2,700mの2地点の掘削孔内(海底下約1km)に設置した深海底長期地震・地殻変動観測装置の動作開始作業に着手します。
今回の動作開始作業では、当センター所有の深海探査機「ドルフィン-3K」を使用し、海底下に既に設置されている観測装置の電源投入と動作確認を行います。
動作確認が成功すれば、これまで世界で最長4ヶ月であった記録(1981年ハワイ大学)を上回る、長期にわたる地震観測が可能となり期待されます。また、地殻変動を目的とする深海底観測として世界で初めての試みとなります。
観測装置は、掘削孔内の体積歪計、傾斜計、広帯域地震計と海底にある機器制御・データ収録装置から構成されており(図1)、微小地震の多発している地震活動度の高い地域と微小地震の発生していない地震活動度の低い地域の2ヶ所(図2)の設置場所は、海半球ネットワーク(注1)の観測点となります。また、この2地域での観測結果を比較することにより、地震発生にとって重要な地殻内応力の変化、海洋性地殻の運動と地震発生との関係等について明らかにすることが期待されます。
また、観測海域となる三陸沖のような、たびたび被害地震が発生した場所で深海底の掘削孔を利用する高精度観測を開始することにより、「三陸はるか沖地震」に代表される海溝型地震(注2)の発生メカニズムの解明を目指します。
なお、本観測機器の製作から本年7月から8月にジョイデス・リゾリューション号で行った同海域への設置作業は、当センター、米国に本部のあるODP運営計画管理機構(注3)、米国カーネギー研究所、東京大学海洋研究所,東京大学地震研究所の多機関との共同研究により実現しました。
注1:文部省の科学研究費により国内の大学で運営される海洋部分の地球物理観測ネットワーク.島への機器設置,海底へ の機器設置,設置する機器開発,解析手法の開発研究という4つのグループからなる.
注2:海溝からその陸側に傾斜する面で接する2つのプレートの動きによって生ずると考えられる逆断層型の地震のこと.
注3:ODPはOcean Drilling Programの略,ODP運営計画管理機構は英名のJoint
Oceanographic Institutions Incorporated.
問い合わせ先:海洋科学技術センター
深海研究部 三ケ田、末廣 TEL:
0468-67-3983
普及・広報課 他谷、野口 TEL:
0468-67-3806
1. 今回の作業及び調査にあたって
当センターでは、海溝域で発生する地震の研究のため、これまで日本海溝周辺での地震反射法や爆破地震動を利用した構造探査を他機関とも共同して行って来ました。
日本海溝では,太平洋プレートが年間9-10cmの速度で日本の下に沈み込み、この運動が三陸はるか沖などの大地震の原因と考えられています。しかし、こうした大地震だけではプレートの沈み込みによる歪の蓄積を約1/3しか解消できません。約2/3のエネルギーは、地震以外の現象で消費されていることになります。こうした現象は、地震計では捕えられないゆっくりとしたプレートの滑りなどであろうと思われています。三陸沖で度々発生する地震と太平洋プレートの動きとの関係を明らかにするため、本年7月及び8月に広帯域地震計・傾斜計・体積歪計を深海底の掘削孔内に設置しました。今回、これらの機器の設置状況把握及び動作開始のための作業及び調査を行います(図1)。
2. 観測開始までの経緯
海溝で生じる地震の研究には、詳細な地下構造を推定する研究と長期にわたる地震及び地殻変動観測による地震活動度と地殻応力の分布及び時間変化に関する研究が必要です。後者の長期観測は、深海底にある海溝付近で行うための観測機器の問題、そして深海底に厚く堆積している未固結堆積層の影響を取り除くための設置場所の問題により長い間課題とされてきました。観測機器に関して、海洋科学技術センター、東京大学海洋研究所、米国カーネギー研究所の協力で深海底の掘削孔で使用するための体積歪計が製作されました。設置に関して、ODP運営計画管理機構、東京大学海洋研究所、東京大学地震研究所の協力で日本海溝に近い海底での1kmを超える掘削及びその孔内への機器設置が行われました。観測開始に着手するためには、電源の投入及び設置された機器の動作確認という作業・調査を残すのみとなります。今回、この作業・調査を行います。
3. 観測概要
三陸はるか沖では、地震活動度の高い領域と地震活動度の低い領域が北緯39度付近で隣り合せにあり(図2)、この2つの領域の地震活動度の差異を調査することが、日本海溝におけるプレート沈み込みと地震発生の関係を明らかにすることにつながります。体積歪計は10のマイナス11乗(1万klの大きさの中の1ccの変化:地球潮汐は10のマイナス7乗程度)、傾斜計は10ナノラジアン(100km先の1mmの高さ)、地震計は広帯域(直流成分-数10Hz)加速度計で感度10のマイナス9乗m/sec/sec(重力の100億分の1の大きさ)と、各々超高感度を持ち、海溝付近に発生する小さな地震による地震動・地殻応力変化を捕えることが期待されています。深海底の掘削孔内での地震観測は、1981年ハワイ大学の短周期地震計による4ケ月、1998年スクリプス研究所による高感度広帯域地震計で3ケ月という記録がありますが、歪計や体積歪計による観測は世界で初めて行うことになります。
4. 期待される成果
今回設置された機器は、地震活動度の高い領域と地震活動度の低い領域双方であることから、近接したこの両地点のデータを比較することにより、下記の成果が期待されます。
(1)地震発生域と地震空白域の地殻応力変化の差異とその原因の解明。
(2)地震空白域での歪の時間変化とその周辺地震との関係の解明。
(3)プレートの沈み込みと地震発生のダイナミクスの解明。