2007年11月14日
独立行政法人海洋研究開発機構
海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)地球深部探査センター グレゴリー・モーア、平朝彦、倉本真一らは、平成18年4月から5月まで紀伊半島沖熊野灘において実施された三次元反射法音波探査(平成18年4月6日プレス発表:参考)のデータ解析により、海底下の三次元地質構造を明らかにしました。この解析の結果、プレート境界面から派生する巨大分岐断層がこの海域で起きた巨大津波の原因であることが結論づけられ明らかとなりました。
本成果は、11月16日(日本時間)米国科学誌サイエンス電子版に掲載されます。
津波発生の根本的要因は、海底地形の急激な垂直変化によります。それはプレート境界から海底近傍まで貫く断層活動によって引き起こされると考えられています。南海トラフ付加体(*1)では、沈み込むプレート(フィリピン海プレート)と上盤側のプレート(ユーラシアプレート)との境界断層から派生する、巨大な分岐断層が発見されていました。この巨大分岐断層が、海底地形に重要な変動をもたらし、津波を起こす原因となっているのかどうかについては議論の的となっていました。
これらの解析結果から、熊野灘の巨大分岐断層の活動が海底地形に重要な変動をもたらしていることがわかりました。また、巨大分岐断層がプレート境界から派生していること、その活動は非常に活動的で最近活動した痕跡を残していることから、この巨大分岐断層は現在も活動的であり、歴史的な津波、例えば1944年の東南海地震(マグニチュード8.1)の時に発生した津波等を引き起こした原因であると考えられます。
駿河湾から東海沖-紀伊半島沖-四国沖-九州沖まで続く南海トラフ(トラフとは海底の細長い凹地を指すが、ここでは海溝を意味する:長さ約770 km程度)は、南からフィリピン海プレートが、西南日本列島の地下に沈み込んでいくところである。ここでは海洋のプレートの上に堆積した堆積物(一部火成岩も)がはぎ取られ、陸側のプレートに付加していく地質現象が起こっている。このプレートの沈み込みに伴い形成された地質体を付加体と呼んでいる。付加体の発達は造山運動の基本的なプロセスとして重要であると認識され、また巨大地震の発生場所としても、第一線の研究がなされている。
【図-1の説明】
調査海域図。右上の図は広域のプレート配置を示します。黒い枠は三次元反射法音波探査の調査範囲を示しています。赤い枠は図-2の範囲を示し、赤い矢印は図-2の視線方向を示しています。三次元反射法音波探査の調査範囲内の赤線は図-3の位置を示します。青の三角ケバ線は巨大分岐断層が海底に現れているところを示しています。
【図-2の説明】
プレート境界から派生した巨大分岐断層は、海底まで突き抜け、海底地滑りを発生させるような、海底地形に著しい変動をもたらしています。この断層が歴史的な津波を引き起こしてきた原因であると考えられます(図の左側が海溝側、右側が陸側)。
※デコルマ面:海洋プレートの沈み込みに伴い発達する水平滑り面
※縦軸「往復走時(秒)」:音波が海底下から反射して再び海面まで戻ってくる時間を縦軸として表示している。これは反射法地震波探査記録の一般的な表現方法であるが、地層の正確な音波伝播速度の構造が求められれば深度を縦軸として表現できる。
【図-3の説明】
巨大分岐断層は斜面堆積物を切り、海底近傍まで連続していることがわかります。この断層は、付加体の古い断層を切り(より新しい活動を示す)、かつ海底近傍の新しい堆積物を切っていることから、比較的新しい断層活動であることがわかります。