【目次】
▶ ふつう起こらないはずの地域に火山活動が存在するカムチャッカ半島北部
▶ 溶岩試料を、徹底分析
▶ 火山活動の原因は、沈み込んだ海山だった
▶ まずは直感、そして現地へ足を運ぶべし
2013年9月に、カムチャッカ半島のEC地域にサンプリングに行きました(写真2)。車、ヘリコプター、徒歩を組み合わせて移動し、大自然の中をキャンプしたりしながら溶岩試料を探しました。
溶岩試料は風化するので、岩石をハンマーで割りながら変質の少ない試料を探します(写真3)。割ってすぐに新鮮な部分が出てくることもあれば、深く割り削ってもダメな時もあります。
この時は、8つの火山で、18種類の新鮮な溶岩試料を採取できました(図6)。
溶岩試料は日本に持ち帰り、X線をあてたり同位体を測ったりして、どんな成分がどれだけ含まれるのか組成を分析しました(写真5)。この分析はヒトの血液検査に似ています。血液を調べれば、体内で何が起きているのかわかりますよね。溶岩のもとはマグマで、まさに血液にあたります。
この分析を大学院生の西澤達治さんが精力的に進めると、狭い地域なのに様々な組成の溶岩試料があるとわかりました。「なんか変だな」と思いました。違う時代にできたものかと考えましたが、溶岩試料ができた年代を測るとおよそ同じ時代でした。
そんな時、溶岩に含まれる鉱物結晶もつぶさに調べていた西澤さんが、「6,300ppmのニッケルを含むカンラン石結晶が溶岩に入っています」と驚きながらやってきました。
ニッケルはマントルからマグマに抜け出てきにくい元素なので、普通のカンラン石では3,000ppmが上限です。最初は、何かの間違いかと思い、「分析は確かなのか」と何度も確認しました。しかし6,300ppmを最高値として、5,000ppmを超えるカンラン石が多数、確かに含まれていることがわかりました。こんな高濃度は初めてで、とても驚きました。もともとニッケルの高い物質が関与しているのか、あるいは深部で特殊な反応が起こったのかなど、多くの可能性を調べる必要がありました。
分析で得られた組成の溶岩ができるにはどんな現象が起きたのか。それを知るために、コンピュータを使ってシミュレーションをしました。太平洋プレートが運び込む物質や水の量、それらの物質とマントルが反応してとける条件などをとっかえひっかえ試行錯誤しました。一つの溶岩に対して1億~10億通りの計算を行い、現象とそれに関わった物質を探りました。