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話題の研究 謎解き解説

全生物の共通祖先は、混合栄養生命だった?
生命誕生に迫る始原的代謝系を発見

【目次】
最初の生命は、従属栄養か独立栄養か?
始原的な微生物Thermosulfidibacter
全ゲノム解析から出てきた謎
どのようにして炭素固定をしている?
混合栄養生命説

どのようにして炭素固定をしている?

従来とは違う反応が起きていると直感されたのですね。

Thermosulfidibacterどのように炭素固定をしているのか。もしかしたら、別の未知の方法を使っている可能性も捨てきれません。そこで、TCA回路が具体的にどのように回っているのか調べることにしました。

ところがこの菌は増殖しにくい性質があります。微量サンプルでは分析が困難です。ここで突破口となったのが、力石嘉人招聘上席研究員(写真4)が技術開発を進めていた「微量アミノ酸メタボローム解析」でした。従来の技術では必要だった多量の菌体を必要とせずに、新しい未知の微生物代謝の探索を可能とする技術です。


写真4 力石嘉人招聘上席研究員

有機物が含まれない培地や、異なる有機物を加えた複数の培地を準備し、安定同位体で印を付けた炭素を含む培地でThermosulfidibacterを培養しました。TCA回路に取り込まれた、印付きの炭素は、ピルビン酸、オキソグルタル酸の中に入り、やがてアミノ酸に取り込まれます。ということは、アミノ酸を解析してどこに印付き炭素があるか探し出せば、そのアミノ酸を作る材料となったもともとの物質が、TCA回路の中をどの向きに回ってきたのかがわかります。これを手掛かりに、ThermosulfidibacterがTCA回路で炭素固定をするのか、するのならばどのように炭素固定をしているのか調べるというわけです。もしアミノ酸に印付き炭素が無ければ、その印付きの物質はTCA回路に取り込まれていないことになります。

結果はいかがでしたか。

北海道大学と分析した結果、有機物が無いと、TCA回路は反時計回りに回って炭素固定をしました。有機物を添加した混合栄養条件にすると、加えた有機物の種類により、一部で有機物を取り込んだり、一部で炭素固定をすることを確認しました。また、場合によっては、全く炭素固定をしなくなることもわかりました。有機物の有無や、種類に対応して、TCA回路の反応の方向が複雑に切り替わったのです。

有機物の有無と種類に応じて方向が切り替わるなんて、TCA回路は柔軟ですね…!

最後に、これまで反時計回りのTCA回路(還元的TCA回路)では働かないとされてきたクエン酸合成酵素が本当はクエン酸分解にも働くことができるのか。京都大学とクエン酸合成酵素について解析しました。その結果、Thermosulfidibacterのクエン酸合成酵素は、クエン酸分解にも充分に適した性質を持っていることが確認されました。即ち、TCA回路は、同じ酵素で、時計回りも反時計回りにも反応が進むことが確認できたのです(図5)。


図5 ThermosulfidibacterのTCA回路は、同じ酵素群でどちらの方向にも回る。

これまでの常識では、TCA回路の向きが変われば酵素のセットも一部は入れ替わるという考えでした。同じ酵素群でどちらにも回ることがわかったのは、初めてです。

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