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話題の研究 謎解き解説

赤道上の成層圏を吹く不思議な風の、崩壊現象の再現に成功【後編】

【目次】
大気の層を薄く切ることがカギ
2つのモデルのハイブリッドとして開発したJAGUAR
季節予報を改良する新たなオプション

2つのモデルのハイブリッドとして開発したJAGUAR

JAGUARはどのように開発されたモデルなのですか?

JAGUARは、もともとは東京大学大気海洋研究所(旧・気候システム研究センター)、国立環境研究所、海洋研究開発機構(旧・地球環境フロンティア研究センター)が共同開発した大気・海洋結合気候モデル「MIROC」(ミロク)の大気大循環モデル「CCSR/NIES/FRCGC AGCM5.7b」と、九州大学が開発した大気大循環モデル「Kyushu-GCM」という、独自に開発された2つの大気大循環モデルを元に、両者のハイブリッドとして開発したものです。

それぞれどのようなモデルだったのですか?

CCSR/NIES AGCMは、1990年代後半に、世界で初めてQBOの再現に成功したモデルです。なお、その成功を収めたのは、東京大学の高橋正明先生でした。このとき高橋先生は、QBO再現のカギは大気の層を薄く切ることだと見出し、当時の従来モデルの層の切り方が厚さ数㎞だったところを500mまで薄くしたのです。その後、多くの学生や研究者たちによって様々な改良が加えられるとともに「地球シミュレータ」のような大規模ベクトル並列計算機を用いて高解像度で高速計算ができる仕組みが備わりました。そこから私がモデルの上端を高度約80kmまで拡張し、JAGUARの前身となる成層圏・中間圏までを含んだモデルを完成させました。

一方、私の出身でもある九州大学のKyushu-GCMは、先に説明したモデルの高度約80㎞よりも高い約150㎞まで、つまり対流圏・成層圏・中間圏に加えて下部熱圏までを含みます。高層大気に特有の放射過程や分子粘性などの物理過程も考慮した上で、地表から高度100km以上までの様々な現象のつながりを見ることができました。

CCSR/NIES/FRCGC AGCM5.7bにKyushu-GCMの高層大気特有の物理過程を組み入れたことにより、JAGUARは中層・高層大気の研究に特化した高解像度気候モデルになっています(図4)。JAGUARの頭文字JはJapaneseで、このモデルが独自に開発された2つの国産モデル、そして先人たちの研究の系譜(血筋)を継いだハイブリッドであることを示しています。


図4 従来モデルとJAGUARの比較

自ら開発したモデルで、世界初の成功を納められるなんて、感無量ですね。

ところが、最初の感想は、あまりハッピーではありませんでした。低解像度のモデルで散々挑戦してうまく行かなかったので、高解像度にすれば何回かに1回は成功するだろう、つまり、失敗から得られるものと、成功から得られるものの、両方を期待して挑戦したわけです。少しずつ条件を変えて通算150回ほど実験を行ったのですが、大雑把に言ってだいたいが成功してしまいました。なんだ、解像度を上げた「良いモデル」を使えば成功するなんて、拍子抜けだな、と。

そうだったのですね。

しかし、冷静に考えてみると、たくさん行った予測がほとんど成功することにも、物理的な意味があるわけです。今回の場合は、QBOを崩壊させたロスビー波の通り道が、少なくとも実験で注目した期間に関しては、比較的長い期間かけてゆっくりと変化する性質を持っていたために、だいぶ前から予測が可能だった、ということです。そして、ロスビー波が狭い高度範囲に集中して作用するためには、モデルの層を薄く切らないとうまく行かないということも経験的にわかりました。