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話題の研究 謎解き解説

11億年前の海洋生態系の復元
独自の微量同位体分析技術で先カンブリア代の海洋環境を明らかに

先カンブリア時代にあたる5億4,000万年前以前の海には、どのような生態系が広がっていたのか。特に、現在の植物プランクトンにあたる一次生産者は、どのような光合成生物だったのか。こうした謎を明らかにする手掛かりが、このたび11億年前の地層から見つかりました。かつて光合成生物が持っていたクロロフィルの化石にあたる、「ポルフィリン」です。JAMSTECが独自に開発してきた世界に誇る分析技術によって、そのポルフィリンを混合物中から単離精製し、精密に分析することに成功しました。

11億年前の海洋生態系の復元
~微量の化学化石の同位体分析技術が先カンブリア代の海洋環境を明らかに~

論文タイトル:1.1 billion years porphyrins establish a marine ecosystem dominated by bacterial primary producers

  • 11億年前の地層から、当時の光合成生物を知る手掛かりとなるクロロフィル化石「ポルフィリン」が抽出された。
  • JAMSTECが開発してきたポルフィリンの分析法と極微量な窒素安定同位体比測定により、ポルフィリンを精密に分析することに成功した。
  • 一連のデータから、11億年前の海洋の主な光合成生物は、シアノバクテリアだったことが示された。

この技術開発の中枢を担ってきた大河内直彦分野長に話を聞きます。

【目次】
オーストラリアの研究グループによる、世界最古の「ポルフィリン」抽出
独自の分析技術で、ポルフィリンを単離精製!
独自の分析技術で、微量な窒素安定同位体比を測定!
小さくておいしくないシアノバクテリアが、海洋生物の進化を遅らせた?
良い試料を、自分にしかできない技術で測る

オーストラリアの研究グループによる、世界最古の「ポルフィリン」抽出

11億年前の海洋生態系について研究をされたそうですね。そのカギを握った「ポルフィリン」とは、何でしょうか。


写真1 大河内 直彦 生物地球化学研究分野長

光合成を行う生物は緑色のクロロフィルを持っていますが、これが堆積物の中に埋もれて徐々に続成作用(堆積した物質が堆積物中で脱水や化学反応によって別の物質や鉱物に変化すること)を受けて変質すると赤いポルフィリンに変わります(図1)。


図1 緑色のクロロフィルの1種、クロロフィルaが続成作用を受けて赤色のポルフィリンに変わる

ポルフィリンを調べると、その起源であったクロロフィルの種類、さらにはそのクロロフィルを持っていた光合成生物の種類まで推測でき、当時の海洋表層環境の復元に役立ちます。

ポルフィリンを調べると、その起源である光合成生物の種類まで突き止めることができるのですね。

しかしながら、堆積物中に残るポルフィリンは極めてわずかです。普通はなかなか見つかりません。ところが2013年にオーストラリア国立大学の研究チームによって、アフリカ北西部に位置するモーリタニア(図2)にある11億年前の地層から採取した試料から、ポルフィリンの存在が高速液体クロマトグラフィーによって確認されたのです。


図2 モーリタニア

これまで堆積物中のポルフィリンは5億年前の地層では発見されていましたが、今回はそれより6億年古く、現時点では最古のポルフィリンと言えます。

最古のポルフィリンとはすごいですね!

地層が高温・高圧環境にさらされずあまり強い変性を受けなかったためにポルフィリンが残ったと考えられます。

ただ、極微量しかない特定のポルフィリンだけをきちんと単離精製し、その安定同位体比を分析するにはとても高度な分析技術が必要です。そこで、世界で唯一、ポルフィリンの分析法と極微量の安定同位体比を測定する技術を持っている我々に、連絡が来ました。メールで「一緒に研究しないか」と。11億年前のポルフィリンという言葉に、面白そうだと思いました。

世界中で大河内さんのラボだけが持っている分析技術が求められて、共同研究の声がかかったのですね。