撮影エピソード 〜吉梅「しんかい6500」元潜航士に聞く

映画の作成、撮影にどんな協力をしましたか。

昨年の夏に「日本沈没」の助監督さんから広報課を通じて「台本の内容確認をしていただきたい」というのが 「日本沈没」との関わりの最初です。次に、実際にJAMSTECの潜水船整備場で撮影が行われるので、潜水船についていろいろ教えて欲しいという要望にはじまり、潜水船内部の紹介、写真撮影の協力、そして俳優さんへの動作指導といろいろな協力をさせていただきました。 実際に台本の第一稿が送られてきて、潜水船に関わるシーンの台詞や背景となるストーリーについて読んだときには困ったなあという状況でした。「もしこうだったら潜水船はどうなりますか」とか「もしこんな状況だと実際はどうなりますか」といった、今まで「経験のない状況について考えて欲しい」というものがほとんどだったので、現役のパイロットにも相談しながら台本の内容を吟味しました。
また、俳優さんへの「演技指導」ということになっていますが、実際の撮影では「普段潜水船ではどのような状態で過ごしているのか、どのような方法で船内の機器をそうさするのか」ということについて説明するのが主な役割でした。映画中における俳優さんの演技は操縦などに関する実際の動作に基づいて監督と俳優さんがイメージを膨らませたものです。もちろん私が直接演技について指示するようなことはありません。

整備場でのシーン。

潜水船前で草なぎさんが整備を行なっているシーンで、初めはドライバーを持って整備する芝居をされていたのですが、我々が通常行う整備とはあまりのもかけ離れていたので、私の方で急遽、固定されていた潜水船の電線を取り外し、電線の確認作業をする芝居をご提案させていただいたら、「このリアルティだ」と樋口監督にはからかなり喜んでいただけました。なんでも電線を引っ張り出す雰囲気が良かったとか。 でも、電線のコネクターを外すという行為は、ちょっとしたコツが必要なので、草薙さんは台詞との咬み合わせが上手く行かず、カメラリハーサル中には苦戦されてましたが、本番では問題なく作業をされていました。
完成した映画ではほとんど映っていませんでしたが・・

潜水船内のシーン。

及川さんと草なぎさん、豊川さんの3人で乗っているのを撮影用のモニターで拝見させていただきましたが、セットとはいえ、実際に潜水船同様、狭苦しい感じと緊迫感ががよく表されていたと思います。 しかしこれらは乗船経験のある人でなくてはなかなか判らないので、劇場で見る人には上手く伝わりにくいかもしれません。
草薙さんか及川さんかはっきりと記憶にないのですが、船内の撮影中に「息ぐるしい」と訴えていました。ひょっとするとお二人のうち一人は狭いところが苦手なのかもしれませんが、こういう環境に慣れていないために余計に狭く感じられたのかもしれません。いずれにしろこのような形で潜水船の潜っている様子を多くの人に知ってもらうには良い機会だと思います。 船内の様子がフィクションと思われると困りますが台詞や動作以外、乗船している様子は概ね映画の通りです。

心配だったことはありますか。

豊川悦司さん演じる田所博士が潜水船の中で手に持っているもの。実際には有り得ないので気にしないでください。何を持っているかは実際に映画でご確認ください。 本物の潜水船では乗船前に確認するので決してこのようなことは出来ません。これから乗船を予定している研究者の方、くれぐれもお間違えのないように。







「しんかい6500」のパイロットの仕事 〜引き続き吉梅元潜航士に聞く

どんな訓練をしてパイロットになったのですか 。

「しんかい2000」建造当時は操船訓練のためのシュミレーターがありましたが、現在運航中の「しんかい6500」にはそのようなシュミレーターはありませんので、実際の潜水船について、整備士として船体の細かい構造について学びながら仕事をし、先輩から座学を受けたりして、ある程度潜水船に関する知識が備わったところでコパイロット(副操縦士)として訓練潜航や、実際の調査潜航などの機会に潜水船に乗船します。そこでパイロット(主操縦士)から操船や運航、機械操作に関する技術を習得しながら徐々に潜水船について学び、潜航長(パイロット全員の長)と司令(潜水船運航チームの総括責任者)から認められてからやっと「パイロット」として乗船することになります。 実際にはコパイロットよりも責任が重いパイロットになってからの方が大変で、潜水船に乗船してくる研究者の要望を限られた時間の中で如何に達成するか、プレッシャーを感じることは多々ありました。 ※多くの場合整備士と潜航士(パイロット)は兼務です。

深海に潜るのは怖くないですか。

潜水船に乗ることが怖いかと聞かれれば怖くないと言わざるを得ません。パイロットを含む整備士が自分たちで整備作業を行っていますので、その辺についての心配はありません。これが怖かったら自分の仕事(整備)に自信が無いと言ってしまっているようなものですから。「深海にもぐる」ということに関しても未知な部分が多く傍から見ると恐怖に感じる方も居るかもしれませんが、私の場合、好奇心のほうがそれに勝っている状態でした。だから乗船中は“仕事”というより“趣味”に近かったかもしれません。



トイレはどうされているのですか。

トイレはカー用品店で売られているような簡易型の小便器(男女兼用)が備え付けられています。初めは人前で(船内には隠れる場所は無いので)用を足すことについて抵抗がありますが、乗船される方には無理をして体調を崩すこがないよう、積極的に使う用に(男性に限り)お奨めしています。何度も潜水船に乗船して慣れてくると「用を足さずにはいられない」人もいるようです。




撮影協力について〜地球内部変動研究センター 巽プログラムディレクターに聞く