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 コラム"ピカソ"が海をのぞいてみたら・・・・・
 深海生物追跡調査ロボットシステム「PICASSO(ピカソ)」

ここに散りばめた幻想的ともいえる写真の数々は、深海生物追跡調査ロボットシステム「PICASSO(ピカソ)」が撮影した深海の生物たちだ。
「PICASSO(ピカソ)」は、深海の生物を調査するために海洋研究開発機構(JAMSTEC)が開発した小型無人探査機。2007年2月24日から3月4日にかけて相模湾初島沖と駿河湾富士川沖で、初の海域試験が行われた。画家ピカソのように、普段ものを見ている目ではなく、新しい目で周りを見る――そんな想いを込めて「PICASSO(ピカソ)」と名付けられた。「PICASSO(ピカソ)」の“目”は3種類。放送局用ハイビジョンカメラ、あるいは深海現場調査用実体顕微鏡(VPR:Visual Plankton Recorder)を、3台のビデオカメラで形 成されるパノラマ式カメラシステムと合わせて機体に搭載できる。そのなかで“新しい目”として特に期待されているのがVPRだ。
水深200〜1,000mの深海には、さまざまなプランクトンが多く棲息しているが、特にそのなかのゼラチン質プランクトンと呼ばれる仲間の情報は、驚くほど少ない。体がもろいのでネットでの捕獲が難しく、海中で調査しようにも体長が1cmにも満たないものが多く、その上に体が透明なので、うまく観察できないからだ。VPRの目的は、そのプランクトンを生きたまま撮影すること。VPRは、いわば水中顕微鏡で、2本のアームの先端に光源とカメラが付いている。透明なプランクトンに正面から光を当てて撮影すると背景に溶け込んでしまうが、VPRでは光がプランクトンを周囲から照らすように工夫してあるため、輪郭がきれいに浮かび上がる。VPRを使った初の海域試験では、数百点ものプランクトンと、数千点にも及ぶマリンスノーの画像を撮影することに成功した。
長さ2mとコンパクトな「PICASSO(ピカソ)」は、小型船舶にも搭載できるため、運用経費を抑え、その分、調査の回数を増やすことができる。プランクトンを認識し、自動で追跡して撮影できる機能も開発中だ。
(取材協力:ドゥーグル・リンズィー研究員 極限環境生物圏研究センター 海洋生態・環境研究プログラム)

※右写真
「PICASSO(ピカソ)」に搭載されたVPRによって撮影されたさまざまな深海のプランクトン(合成写真。縮尺は同じではない)。水中を漂って生活する浮遊生物をプランクトンと呼び、小型の甲殻類、クラゲ、魚類の幼生など、さまざまな種類がある


VPRを搭載した「PICASSO(ピカソ)」。向かって右のアームに光源、左にカメラが付いている。1秒間に15枚の撮影が可能(撮影:峯水亮)

ハイビジョンカメラを搭載した潜航中の「PICASSO(ピカソ)」。本体は長さ2m、幅0.8m、高さ0.8m。母船とは直径1mmの細い通信用光ケーブルでつながれているだけなので、海流などの抵抗を受けにくく、生物を追跡しながら調査するのに適している。最大潜航深度は1,000m (撮影:新田末広)



※本ページの内容は、海と地球の情報誌『Blue Earth』2007年5-6月号より抜粋しました。
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※関連リンク
>> 地球情報館公開セミナー: 「プランクトン追跡・観察ロボット“ピカソ”の今とこれから」(開催日:2007/9/29)
>> プレスリリース:深海生物追跡調査ロボットシステム「PICASSO(ピカソ)」初の海域試験に成功 〜小型船舶にも搭載可能、深海生物研究の発展に期待〜(3月19日掲載)