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JAMSTECニュース

予測通りにインド洋ダイポールモード現象が発生か?
-これからの季節はどうなる?-

2015年7月24日
アプリケーションラボ

太平洋のエルニーニョ現象の影響で、台風11号は、通常より東に寄った日付変更線に近い海域で発生しました。フィリピン周辺海域の海面水温は低く、太平洋高気圧の西への張り出しは弱くなっています。台風11号は、この太平洋高気圧の西縁を北上し、本州中央部を直撃、各地に洪水を起こすなど、大きな爪痕を残しました。台風12号も同じようなコースを取りそうです。今回のエルニーニョ現象は、かなり強いものになることが予想され、その影響は世界各地で顕著になってくるでしょう。このような太平洋の状況だけでなく、私たちはインド洋にも着目してきました。私たちのチームの予測通りに、インド洋熱帯域でダイポールモード現象が発生し始めたようです。このダイポールモード現象も日本を含む世界各地に異常気象をもたらします。今回のコラムでは、このインド洋のダイポールモード現象の発生状況と今後の見通しについて解説します。

1. 現在の状況

7月上旬の海面水温の偏差(平年値からのずれ)を見ますと、熱帯インド洋の西部で海面水温が平年に比べて暖かく、東部で冷たくなっていることが分かります(図1)。このような海面水温の偏差パターンをもつ現象を正のインド洋ダイポールと呼びます(注1:インド洋ダイポール現象とは?)。正のインド洋ダイポールが現れると、熱帯インド洋の西部では上昇気流が強まり、低気圧が発達、ケニアを含む熱帯東アフリカでは降雨量が増加し、洪水が頻繁に発生します。

図1:
2015年7月12-18日で平均した海面水温の異常値(IRI Map Roomより)。暖色が平年より暖かく、寒色が冷たいことを示す。

一方で、インド洋東部では下降気流が強まり、高気圧が発達、インドネシアやオーストラリアの北部では干ばつ傾向になります(注2 :オーストラリア気象局による解説など)。太平洋にエルニーニョ現象が発生していない場合には、この高気圧から吹き出す風の影響を受けて、フィリピン近海では上昇気流が強まり、積雲活動が活発化します。この下降気流域となる日本付近では、太平高気圧の西縁に位置する小笠原高気圧が発達し、猛暑となる傾向があります。また、ベンガル湾北部でも対流活動が強化され、その下降気流域となる地中海周辺は猛暑になり、その影響がアジアジェットに沿って東進し、丈の高い高気圧が西日本を猛暑にすることがあることがわかっています。1994年は正のダイポールモードによるこうした影響が顕著に見られ、典型的な猛暑の年になりました。最近では2012年の夏に、日本はダイポールモードの影響で猛暑に見舞われました(注3 :気象庁の発表より)。

2. 今後の見通し

JAMSTECのアプリケーションラボでは、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使って、エルニーニョ現象やインド洋のダイポールモード現象などの気候変動現象の発生や、それに伴う世界各地の季節の異常を数理的に予測するシステム(SINTEX-F 季節予報システム, 注4)を2005年に開発し、モデルの高度化を図りながら実験的に運用しています。
このシステムは、エルニーニョ現象の発生を1年以上前に予測することができます。ダイポールモード現象の予測は、インド洋の気候の複雑さによる困難はあるものの、1、2シーズン前に予測することができます。これは世界最高の精度を誇っています。実際、今夏から秋にかけて正のインド洋ダイポールモードが発生することは、2015年3月の時点で予測し、JAMSTECアプリケーションラボ(APL)のウェブサイトから配信しています(図2, 注4)。

図2:
2015年3月1日の時点で、SINTEX-Fシステムで予測した海表面水温の異常値。暖色が平年より暖かく、寒色が冷たいことを示す。熱帯インド洋西部が平年より暖かく、東部が平年より冷たい典型的な正のインド洋ダイポールモード現象の構造が確認できる。

これは実験的な予測ですが、農業をはじめとする世界の実業界ですでに活用されているところです。今回の予測も見事に成功したと言えるでしょう。今後、正のインド洋ダイポールモードは、更に発達し続け、10-11月にピークを迎えると予測しています(図3)。オーストラリアの小麦収量の減少、インドシナ半島やインドネシアなどにおける干ばつ、熱帯東アフリカにおいては10月から11月の雨季に洪水が起きることが危惧されます。
現在、太平洋で発達中のエルニーニョ現象は日本の夏を不順にする傾向がある一方、通常よりも遅く発達を始めた今年の正のインド洋ダイポールモード現象は日本の残暑を厳しくする可能性があります。熱帯太平洋のエルニーニョ現象だけでなく、正のインド洋ダイポール現象の発達にも、今後注意する必要があります。これからの季節は熱帯海洋から目が離せません。

図3:
インド洋ダイポールモード現象が発生しているかどうかの指標[西インド洋と東インド洋の海面水温偏差の東西差で定義, °C]の推移。0.5°Cを超えると典型的な正のインド洋ダイポールモードが発生していると言える。青が観測データ、赤が2015年7/1時点のSINTEX-Fによる今後の予測値。灰色は、各アンサンブルの予測値(設定を少しずつ変えて何回か予測を行う集合的予測のことをアンサンブル予測と呼ぶ)。このグラフは正のインド洋ダイポールモードが更に発達を続け、10-11月にピークを迎えた後、本年末に終息すると予測している。

注4:SINTEX-F季節予測システム;季節の異常性(平年からのズレ)を数ヶ月前からコンピュータで事前予測するためのシステム。大気-海洋-陸面の物理に関する方程式群(モデル)で構成されており、地球を3次元的な格子状に分割し、それぞれの格子に対して方程式を時間方向に数値積分することで、観測から得られた状況が、その後にどのように時間発展するのかを計算する。日欧協力によって開発された大気海洋結合大循環モデルSINTEX-Fを基にしており、JAMSTECが有するスーパーコンピュータ・地球シミュレータで計算している。本システムはエルニーニョ現象やインド洋ダイポールモード現象の予測において世界最先端の実績がある(e.g. Luo et al. 2008. Geophys. Res. Lett.; Jin et al. 2008 Climate Dynamics)。毎月準リアルタイム季節予測の結果を以下のウェブサイトで世界に配信している。
(最新の季節予測情報 : http://www.jamstec.go.jp/frcgc/research/d1/iod/seasonal/outlook.html)。