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スーパーエルニーニョ現象のこれから
〜2016年後半にはラニーニャ現象が発生か〜

2015年11月4日
アプリケーションラボ

春過ぎに熱帯太平洋に出現したエルニーニョ現象は、当ラボの予測通りに、1997年に発生した最強現象と同程度にまで発達しています。このスーパーエルニーニョ現象は、インド洋にこれも予測通りに出現したダイポールモード現象と共に、世界各地に異常気象をもたらしています。今年のエルニーニョ現象はSF映画の影響もあって海外ではゴジラエルニーニョとも呼ばれ、注目されています。本コラムでは、このスーパーエルニーニョ現象と今後の推移について考察します。

1. スーパーエルニーニョ現象は予測できたか?

エルニーニョ現象が発生しているかどうかを判断する際に、「Nino3.4」と呼ばれる指標が使われることが多々あります。「Nino3.4」は、熱帯太平洋東部で領域平均した海面水温の平年値からの差で定義されます。「Nino3.4」が0.5°Cを超える期間が一定以上続く場合にエルニーニョ現象の兆しがあると見なされます。この「Nino3.4」の推移を図示したのが(図1a)です。2015年の春過ぎから、海面水温の平均値からの差は1°Cを超え、その後急速に発達し、9月現在は2°Cを超えるまでになっていることがわかります。この指標から、今年のエルニーニョ現象が、「スーパーエルニーニョ」と呼ばれた1982/83年や1997/98年のエルニーニョに匹敵する規模だと言えます。

(参考)「スーパーエルニーニョ」という用語は学術論文でも使われ始めました。
Hong et al. 2014 参照)

図1:
(a) エルニーニョ指標「Nino3.4」 (熱帯太平洋東部で領域平均した海面水温の平年値からの差。単位は°C)。青線が観測データ、赤線がSINTEX-F予測システムによる2015年5月1日に行った予測値。予測には、アンサンブル手法(初期値やモデルの設定を僅かに変えた予測計算を複数回実施する手法)を使っている。赤線は9つのアンサンブルの平均値。灰色線は各アンサンブルの値。
(b) (a)と同様。しかしこちらの対象はインド洋ダイポールモード現象 [西インド洋と東インド洋の海面水温偏差の東西差で定義。単位は°C]。0.5°Cを超えた場合に正のインド洋ダイポールモードが発生したと判断する。
図(a), (b)共に2015年5月1日の未来予測が実際の現象の進展をよく捉えている。

JAMSTECのアプリケーションラボ(その前身の地球フロンテイア研究システム気候変動予測領域)では、2005年にSINTEX-F 季節予報システム(注1)」のプロトタイプの開発に成功し、異常気象をもたらす気候変動現象の予測を毎月実験的に行い始めました。その予測情報の世界発信を開始して今年はちょうど10年になります。2015年5月1日の初期条件で行った予測では、今年のエルニーニョ現象が「スーパーエルニーニョ」と言われるまで強く成長することを的確に予測することに成功しました(図1a)。
わが国に冷夏をもたらす原因となるエルニーニョ現象とは逆に、猛暑をもたらす原因ともなるインド洋のダイポールモード現象の正イベントが発生していますが、その予測にも成功しています(図1b)。今年の日本の夏にはインド洋のダイポールモード現象と太平洋のエルニーニョ現象の相反する影響が顕れました。

(参考)インド洋ダイポールモード現象については、コラム「予測通りにインド洋ダイポールモード現象が発生か?-これからの季節はどうなる?」をご参照ください。

2. これからどうなる?

SINTEX-F予測システムによる最新の予測計算(2015年10月1日からの未来予測)では、現在の強いエルニーニョ現象は晩秋にピークを迎え、その強さを保ったまま、冬まで持続するという結果が得られました(図2a)。その影響で、日本の冬は暖冬傾向になると予測しています(図3)。
詳しくは「最新の季節予測情報」を参照して下さい。予測情報は毎月中旬頃に更新予定です。

図2:
(a) 図1aと同様だが、2015年10月1日からの予測値を表す。
(b) (a)と同様だが、史上最強と言われる1997/98年のエルニーニョ現象が対象。赤線は1997年10月1日の初期値で行った予測値を表す。このように既に終わっている現象について、それ以前の初期値を用いて行う予測実験をハインドキャスト実験と呼ぶ。
図3:
今年の冬(2015年12月から2016年2月の平均)を2015年10月1日から予測した値。
(a)海表面水温の平年値からのズレ(°C)。暖色が平年より暖かく、寒色が冷たいことを示す。
(b)地上気温の平年値からのズレ(°C)。暖色が平年より暖かく、寒色が冷たいことを示す。
(c) 降水量の平年値からのズレ(mm/day)。緑色が平年より多雨、茶色が少雨傾向を示す。
強いエルニーニョの発生に伴い、日本を含む世界の大部分で、平年より暖かくなると予測している。一方、ヨーロッパ北部、ロシア北東部、中国南部、米国では平年より寒くなると予測している。また、オーストラリア、アフリカ南部、ブラジル、東南アジアで、平年より少雨傾向になる一方、ヨーロッパ北部や米国(特に東部)では平年より多雨になると予測結果している。特に、米国東海岸の多雨傾向はカリフォルニアニーニャ現象の影響もあるかもしれない。

3. 来年後半にラニーニャ現象が発生か?

SINTEX-F予測システムの計算結果によると、現在の非常に強いエルニーニョ現象は、春から急激に衰退し、来年の冬(2016年12月-2017年2月)には、熱帯太平洋東部の水温が平年より冷たくなるラニーニャ現象が発生すると予測しています。世界の現業予報機関は半年から1年程度先のエルニーニョ予報を実施していますが、アプリケーションラボのSINTEX-F予測システムではエルニーニョ・ラニーニャ現象を2年前から予測することに成功しており、世界で唯一2年先のエルニーニョ予測情報を毎月配信しています。1997年のスーパーエルニーニョ現象は、1998年の春に急激に衰退し、1999年1月にはラニーニャ現象が発生しました。SINTEX-Fはその予測にも成功しており(図2b)、来年のラニーニャ現象の発生予測の信頼性が高いといえます。ラニーニャ現象が発生すると、日本は冬らしい冬になるとされています。
1998年に始まった「温暖化の停滞(Global Warming Hiatus)(参考はこちら、あるいはこちら)」は2014年に終了し、地球温暖化が強く顕れる10年スケールの新しいフェーズに入ったと考えられますが、ラニーニャ現象の発生に伴い来年(2016/17年)の冬は一時的に暖冬とはならない可能性があります。参考までに、来年の冬(2016年12月から2017年2月平均)の気候予測図を図4に示します。予測アンサンブル間でのバラツキがあるため、不確実性が大きいことに注意してください(特に日本付近の予測ではアンサンブル間のバラツキが大きいので、結果の解釈には注意が必要です)

図4:
図3と同様だが、来年度の冬(2016年12月から2017年2月の平均)を2015年10月1日から予測した計算結果。ラニーニャ現象の発生に伴い、米国は暖冬で少雨傾向になると予測している。特に、東海岸の少雨傾向はカリフォルニアニーニャ現象の影響もあるかもしれない。一方、アフリカ北部やユーラシア大陸南部(インドを除く)、ブラジル北部で厳冬になると予測している。

(注1)「SINTEX-F季節予測システム」
エルニーニョ現象の発生やインド洋ダイポールモード現象の発生、およびそれに伴う世界各地の季節の異常性(平年からのズレ)を、数ヶ月前から最大で2年先まで、コンピュータで事前予測するためのシステム。大気-海洋-陸面の物理に関する方程式群(モデル)で構成されており、地球を3次元的な格子状に分割し、それぞれの格子に対して方程式を時間方向に数値積分するアルゴリズム。観測から得られた現在の状況(初期状態)が、その後どのように時間発展するのかを計算する。日欧協力によって開発された大気海洋結合大循環モデルSINTEX-Fを基にしており、 JAMSTECが有するスーパーコンピュータ・地球シミュレータで計算している。本システムは2005年に開発され、その後モデルの高度化を図りながら、準リアルタイムに実験的に運用してきた。エルニーニョ現象やインド洋ダイポールモード現象の予測において世界最先端の実績がある(参考:Jin et al. 2008 Climate Dynamics)。
毎月準リアルタイムに季節予測実験の結果を以下のウェブサイトで世界に配信している。

リンク先:季節予測

最近では、大陸西岸で発生する沿岸ニーニョ現象の予測可能研究を検証し、中緯度域の季節予測研究に対して新たなパラダイムを提言した。

(参考)
コラム:“沿岸ニーニョ現象”が切り開く季節予測の新展開
コラム:ニンガルー・ニーニョ研究の最先端

JAMSTECでは以下の講演会を企画しています。エルニーニョに関する観測の現状や研究の発展、予測の可能性などをお話します。

第12回 地球環境シリーズ講演会「エルニーニョを読み解く」(開催日:12/4)

(ご注意)
本コラムはJAMSTECアプリケーションラボで実施している研究の成果と季節予測実験の紹介をするものです。当研究プログラムは、利用者が本サイトで公開している実験結果等を利用することで直接・間接的に生じた損失や損害に関していかなる場合も一切の責任を負うものではありません。