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JAMSTECニュース

大量絶滅の引き金とされる小惑星衝突が
生物にもたらした意外な作用か
~IODP第364次研究航海「チチュルブクレーター掘削計画」の分析速報~

2016年10月14日

2016年4月から5月にかけて、国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)(※1)の一環として、欧州が提供する特定任務掘削船(※2)により6600万年前に起きた小惑星衝突の跡とされるチチュルブクレーターの掘削が行われました(図1)。このクレーターはメキシコ・ユカタン半島に位置し、過去の小惑星衝突が、当時繁栄していた恐竜や爬虫類などの生物の大量絶滅を引き起こし、哺乳類が栄えるきっかけを作ったと考えられています。掘削により得られた海底下506mから1,335mの岩石コア(※3図2)を、ドイツ・ブレーメンで日本人研究者4名を含む31名の国際研究チームが分析を進めた結果について速報いたします。

掘削航海では、99%以上という非常に高い回収率で目的のコア試料を採取することができ、現在研究チームによって詳細な分析が行われています。その目的は、この小惑星衝突が地球上の生命にどのような影響を及ぼしたのかを具体的に理解する端緒を掴むこと、また、小惑星衝突という現象が惑星にどう作用するかを知るための事例研究とすることです。

分析の結果、コアには、6600万年前から5000万年前の間に堆積した120mの石灰岩層が含まれるほか、同じく120mに及ぶ、砕けて溶けた岩石が降り積もったクレーターのピークリング(※4)が含まれていました。また、ピークリングを覆う岩石周辺の分析により、衝突の直後に活発な熱水活動が存在していたことを示す多くの証拠が見つかりました。当時の地球上の生物の75%が絶滅した原因とされる小惑星衝突であるにもかかわらず、海中の微生物が多孔質な岩石や化学反応に富む環境を巧みに利用していた可能性もあると研究チームは示唆しています。

さらに、今回クレーターを覆う堆積物が、小惑星の衝突後から海洋生物が回復するまで連続的に長期間にわたり得られている点にも研究チームは注目しています。

※1 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)
平成25年(2013年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、日本、米国、欧州(17ヶ国)、中国、韓国、豪州、インド、NZ、ブラジルの25ヶ国が参加。日本が運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。

※2 特定任務掘削船
IODPに用いる科学掘削船のうち、欧州が提供する特定任務掘削船は研究テーマや掘削海域に適した掘削船を傭船し、運用している。通常、傭船される掘削船に搭載されるのは最低限の研究設備のみのため、掘削されたコア試料のうち、船上ですぐに分析が必要なコア試料以外はそのままの状態でブレーメン大学にあるコア保管庫に移送され、航海終了後、ブレーメン(ドイツ)のコア保管庫においてコア試料の基礎的な記載・分析やサンプリングを行う。

※3 コア
掘削調査で採取される円柱状の岩石や土壌などの地層サンプルのこと。

※4 ピークリング
クレーターの内側に、その中心部を囲むようにできるもう一つの環状の盛り上がりのこと。衝突の衝撃による反動によって形成されると考えられている。


図1 本研究航海の掘削サイトの位置(ECORDウェブサイトより引用)

図2 衝突メルト角礫岩(J. Morgan氏提供)

お問い合わせ先:
国立研究開発法人海洋研究開発機構
研究推進部 研究推進第1課 高橋 可江 TEL: 045-778-5703