トップページ > JAMSTECニュース > 2018年

JAMSTECニュース

東南海地震の想定震源域におけるリアルタイム地殻変動観測網の構築

2018年5月22日

1. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」)は、平成30年3月15日から30日にかけて、東北海洋生態系調査研究船「新青丸」による研究航海を実施し、地球深部探査船「ちきゅう」により東南海地震の想定震源域である紀伊半島沖の海底下の掘削孔に設置した3基目の長期孔内観測装置(※1)を、同海域において国立研究開発法人防災科学技術研究所により運用されている地震・津波観測監視システム(※2、以下「DONET」)に接続しました (図1)。これにより、観測装置で取得したデータをDONETのケーブルを介して陸上でリアルタイムに受信することを実現し、データ品質に問題がないことの確認作業を完了しました (図2)。さらに、受信したリアルタイム観測データについて、JAMSTECが運用する地震研究情報データ提供システム(J-SEIS, https://join-web.jamstec.go.jp/join-portal/)を通じたweb公開を開始しました。

2. 背景

長期孔内観測装置は、掘削孔内の安定した地層内にセメントで固定されており、大きな地震動に加えて、陸上や海底面で設置する観測装置では捉えにくい微小な地殻変動を観測することができます (図3)。これまで設置していた2基の孔内観測装置による長期連続観測の結果から、巨大地震の準備過程から発生に深く関係すると考えられる「ゆっくり滑り」(※3)が南海トラフ巨大地震発生を引き起こすプレート境界断層で繰り返し発生し、さらに、それらがプレート境界断層で蓄積される歪 (ひずみ) エネルギーの一部を解放していることが初めて明らかになりました (平成29年6月16日JAMSTECプレスリリース)。この結果は、最新の海底測地観測の結果と合わせると、「ゆっくり滑り」が地震発生帯固着域で進行している歪エネルギー蓄積のプロセスと深い関係があることを示唆する重要な成果です。一方で、この「ゆっくり滑り」 が、プレート境界断層のどこの部分まで発生してるかなど、より広域での発生を定量的に議論するためには、さらなる観測点の構築が必要でした。

3. 今後の展望

今回設置・接続を行った3基目の孔内観測装置は、これまでの2点よりさらにトラフ軸側、プレート境界断層先端部に位置しています (図4)。この孔内観測装置での観測により、これまでの孔内観測装置で観測されている「ゆっくり滑り」が、プレート沈み込みの先端部まで起こっているのかどうかを確かめることができるデータが得られます。得られたデータは、地震を起こすプレート境界断層広域での歪エネルギーの蓄積状況など、プレート境界地震発生メカニズムを理解する上で非常に重要な示唆を与えるものと期待されます。今後、DONETの海底観測点と長期孔内観測装置による観測データを合わせた三次元的な統合解析を行うことで、東南海地震の発生時期の予測の高度化に貢献できる可能性があるほか、地震発生メカニズムの解明に資するデータを取得し、またweb公開することで、様々な防災・減災対策に貢献することを目指します。

※1 長期孔内観測装置
海底下の掘削孔に複数のセンサー(温度計、歪計、地震計、傾斜計、水圧計等)を設置固定した観測装置 (図3)
1基目であるC0002地点 (図4) の長期孔内観測装置は、平成25年1月にDONETに接続し、現在リアルタイムでデータを取得している (平成25年2月5日既報)。平成28年6月には、2基目の長期孔内観測装置C0010地点 (図4) をDONETに接続した (平成28年7月7日JAMSTECプレスリリース)。さらに、平成30年2月には、3基目の長期孔内観測装置を地球深部探査船「ちきゅう」によりC0006地点 (図4) に設置している (平成30年2月8日JAMSTECプレスリリース)。
※2 地震・津波観測監視システム(DONET)
海域で発生する地震・津波を常時観測監視するため、JAMSTECが開発し南海トラフ周辺の深海底に設置した地震・津波観測監視システム。紀伊半島沖熊野灘の水深1,900~4,400mの海底に設置した「DONET1」は、22の観測点から成り、平成23年に運用を開始している。また、紀伊水道から四国沖の水深1,100~3,600mの海底に設置した「DONET2」は、29の観測点から成り、平成28年3月末に整備を終了した。
DONETは、DONET2の完成をもって平成28年4月に国立研究開発法人防災科学技術研究所へ移管された。DONETで取得したデータは、気象庁等にリアルタイムで配信され、緊急地震速報や津波警報にも活用されている。
※3 ゆっくり滑り(地震)
地下の断層がおよそ一日以上の期間をかけてゆっくりと滑る地殻変動現象。近年、様々な場所で発生することが知られるようになってきており、巨大地震の発生に関係するプレート固着域での歪エネルギーの蓄積状況と深い関係があると考えられている。南海トラフでは、陸上に展開された稠密なGNSS測地網や歪計観測網、さらには海域での長期孔内観測装置での観測により、沈み込むプレート深部から浅部まで広範囲で発生していることが明らかになりつつある。
図1
長期孔内観測装置 (C0006) のDONETへの接続状況。海底に設置した孔口装置に接続された孔内インターフェース装置と展張ケーブルボビン。展張ケーブルボビンは約5.5 km 離れたDONETノード (ノード1C) と接続されている。
図2
C0006地点の長期孔内観測装置で観測された傾斜計・孔内歪計・水圧計・海底水圧計の変動記録(上:2日間)広帯域地震計で観測された遠地地震記録(下:2時間)
図3
長期孔内観測装置概念図 (C0006設置)
図4
DONET1及び長期孔内観測装置(C0002地点、C0010地点、C0006地点)位置図。白矢印は、沈み込むプレートの方向、赤線はDONET海底ケーブル、赤丸はDONET各観測点、三角は孔内観測点の位置を示す (今回追加したC0006観測点は黄色で示す)。

参考リンク