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【コラム】インド洋に正のダイポールモード現象、太平洋にエルニーニョモドキ現象が久しぶりに同時発生か

2018年6月6日
アプリケーションラボ
 

昨年からラニーニャ現象(エルニーニョ現象の逆位相の現象, 詳しくはこちら)が発生していましたが、春になり徐々に衰退し、現在、熱帯太平洋はほぼ平年並みの状態です。しかし、これからの季節は、世界各地で異常気象が多発する可能性が出てきました。それは熱帯インド洋に正のダイポールモード現象が、熱帯太平洋にはエルニーニョモドキ現象が発生する可能性が高まっているためです。

2005年から改良を重ねつつ予測実験を続けているアプケーションラボのSINTEX-F予測シミュレーションシステムは、この夏に熱帯インド洋ではダイポールモード現象の正のイベントが、熱帯太平洋ではエルニーニョモドキ現象が発達すると予測しています。(詳細は季節ウオッチの最新記事をご参照ください)。予測通りに進行するならば、インド洋東部から海大陸周辺にかけて、海水温が低下し、対流活動が抑制されて、インドネシア、オーストラリアでは干ばつが発生し、水不足による農業への影響や山火事の多発による煙害などが危惧されます。正のダイポールモード現象とエルニーニョモドキ現象の組み合わせの典型的な夏は1994年です。この年の日本は記録的な猛暑でした。

インド洋のダイポールモード現象とは?

インド洋のダイポールモード現象は、熱帯インド洋で見られる気候変動現象で、5-6年に1度程度の頻度で、夏から秋にかけて発生します(Saji et al. 1999, Nature)。ダイポールモード現象には正と負の現象があり、特に正の現象が発生すると、熱帯インド洋の東部で海面水温が平年より下がり、西部で高くなるために、通常は東インド洋で活発な対流活動は西方に移動し、東アフリカのケニヤ周辺やその沖合で雨が多く(例えば、Behera et al. 2005)、逆にインドネシアやオーストラリア周辺では雨が少なくなります(詳しくはこちら) 。また、大気循環の変動を通して、特に西日本では雨が少なく、気温が高めに推移する傾向があります(詳しくはこちらの動画2)。

エルニーニョモドキ現象とは?

エルニーニョモドキ現象は、熱帯太平洋で見られる気候変動現象で、エルニーニョ現象と似ていますが、その世界各地への影響はかなり異なり、現在、活発に研究されている現象です(Ashok et al. 2007)。エルニーニョ現象は、熱帯太平洋の東部で海面水温が平年より高くなりますが、エルニーニョモドキ現象は、熱帯太平洋の東部と西部で海面水温が平年より下がり、中央部で海面水温が高くなります。この現象は、世界各地の天候や海面水位の変動に影響を与えることが知られています。例えば、エルニーニョ現象が発生すると日本の夏は冷夏傾向になりますが、エルニーニョモドキ現象の時はむしろ猛暑になることが報告されています(例えば、Weng et al. 2007)。又、エルニーニョ現象の時にはアメリカ西海岸は多雨傾向になりますが、エルニーニョモドキ現象の時は、少雨傾向になります。また、インドや南アフリカの降水や、中央太平洋の島々の海面水位変動に影響を与えることが報告されています。エルニーニョモドキ現象はエルニーニョ現象で冷夏と思われた2004年の日本の猛暑の原因を調べる過程で発見されました。
(詳しくはこちら)

インド洋ダイポールモード現象やエルニーニョモドキ現象の発生は事前に予測できるか?

これらの現象は、最先端の科学技術でも、数ヶ月前から事前に予測することが難しいとされています。その中で、アプケーションラボのSINTEX-F予測シミュレーションは、スーパーコンピュータ”地球シミュレータ”を使って数ヶ月前からインド洋ダイポールモード現象やエルニーニョモドキ現象の発生予測に成功しています。例えば、準リアルタイムで、2006年に発生した正のインド洋ダイポールモード現象の発生予測に成功し、国内外においてインド洋ダイポールモード現象の予測研究を活性化する先駆的成果をあげました(Luo et al. 2008)。その後も、インド洋ダイポールモード現象やエルニーニョモドキ現象の予測精度を向上させるベく、予測システムの改良を続けています。例えば、従来のモデルを高度化(海氷モデルの導入、高解像度化、物理スキームの改善等)した第二版となるSINTEX-F2システム(Doi et al. 2016)や、海の内部の3次元の水温/塩分の海洋観測データ [海に浮かべてある係留ブイ(例えばJAMSTECのTRITONブイ)、国際協力で海に投入されているARGOフロート、船舶観測など] を予測初期値に取り込んだSINTEX-F2-3DVARシステムを開発しました(Doi et al. 2017)。例えば、SINTEX-F2システムでは、2009年に発生したエルニーニョモドキ現象の予測精度が向上、SINTEX-F2-3DVARシステムでは、インド洋ダイポールモード現象の予測精度が向上しました。

従来のSINTEX-Fに加えて、モデルを改良したSINTEX-F2や、海洋初期値作成プロセスを高度化したSINTEX-F2-3DVARを使って、今夏から秋にかけてのインド洋ダイポールモード現象の発生を、2018年5月1日時点で予測したのが、図1です。また、同様にエルニーニョモドキ現象の発生を予測したのが図2です。強さの不確実性は残るものの、この夏にはインド洋ダイポールモード現象の正のイベントとエルニーニョモドキ現象が同時発生する確率がかなり高いと予測しています。

図1
インド洋ダイポールモード現象の指数DMI(西インド洋熱帯域の海面水温偏差の東西差を示す数値で単位は°C)。0.5度を越えれば正イベントが発生していると考えて良い。黒が観測。2018年5/1時点で予測したのが色線。従来のSINTEX-F(赤色の線:アンサンブル平均値、橙色の線: 各予測アンサンブルメンバー)、モデルを改良したSINTEX-F2(緑色の線:アンサンブル平均値、黄緑色の線: 各予測アンサンブルメンバー)や、海洋初期値作成プロセスを高度化したSINTEX-F2-3DVAR(青色の線:アンサンブル平均値、水色の線: 各予測アンサンブルメンバー)の結果。紫色の線は全ての予測アンサンブルの平均値。このように、気候モデルを用いた数理的な予測実験ではそれぞれの予測システムで初期値やモデルの設定を様々な方法で少しずつ変えて、複数回予測を行う(アンサンサンブル予測と呼ぶ)。これらの手法は、インド洋ダイポールモード現象の予測の不確実性を議論するために有効である。
図2
図1と同様だが、エルニーニョモドキ/ラニーニャモドキ現象の指標EMIについての図(単位は°C)。0.5度を超えればエルニーニョモドキ現象が発生していると考えて良い。

インド洋ダイポールモード現象は、インド洋周辺国だけでなく、欧州や東アジアの天候の異常に影響します。さらに、東アフリカで発生したマラリアなどの感染症の大流行(Hashizume et al. 2012)や、オーストラリアの小麦の凶作(Yuan and Yamagata 2015:詳しい解説)などを引き起こし、私達の安全・安心を脅かす程甚大な被害を与えることが解ってきました。エルニーニョモドキ現象も、例えば、エルニーニョのときはアメリカの西海岸では雨が多くなりますが、エルニーニョモドキのときは雨が少なくなります(例えば、Weng et al 2008)。最近の研究によれば、ENSOモドキに付随するテレコネクションはインドと南アフリカの降水に影響を与えることが報告されています(例えば、Ratnam et al. 2010)。これらの現象が同時発生すると、複雑に影響し合うことが予想されます(例えば、Tozuka et al. 2008)。特に、インドネシアの少雨傾向が極端化される可能性が心配です。
今後も、熱帯太平洋、熱帯インド洋の状況に注意していく必要があります。アプリケーションラボのSINTEX-F予測の最新情報は、SINTEX-F website (研究向け)や季節ウオッチ(一般向け), 新しい可視化サイト APL-virtualearthをご参照ください。

参考文献:

  • Saji, N. H., B. N. Goswami, P. N. Vinayachandran, and T. Yamagata, 1999: A dipole mode in the tropical Indian Ocean. Nature, 401, 360-363.
  • Ashok, K., S. K. Behera, S. A. Rao, H. Weng, and T. Yamagata, 2007 : El Nino Modoki and its possible teleconnection. J. Geophys. Res., 112, C11007, doi:10.1029/2006JC003798.
  • Behera, S. K., J.J. Luo, S. Masson, P. Delecluse, S. Gualdi, A. Navarra and T. Yamagata 2005: Paramount Impact of the Indian Ocean Dipole on the East African Short Rains: A CGCM Study, J. Climate, 18, 4514-4530.
  • Zhu J., B. H., A. Kumar, and J. L. Kinter III, 2015a: Seasonality in Prediction Skill and Predictable Pattern of Tropical Indian Ocean SST. J. Climate, 28, 7962–7984, DOI: 10.1175/JCLI-D-15-0067.1.
  • Luo, J.-J., S. Behera, Y. Masumoto, H. Sakuma, and T. Yamagata 2008: Successful prediction of the consecutive IOD in 2006 and 2007. Geophys. Res. Lett., 35, L14S02.
  • Doi, T., S. K. Behera, and T. Yamagata, 2016: Improved seasonal prediction using the SINTEX-F2 coupled model, J. Adv. Model. Earth Syst., DOI: 10.1002/2016MS000744
  • Doi, T., A. Storto, S. K. Behera, A. Navarra, and T. Yamagata, 2017: Improved prediction of the Indian Ocean Dipole Mode by use of subsurface ocean observations, J. Climate, 30, 7953-7970
  • Hashizume, H., L. F. Chaves, and N. Minakawa, 2012: Indian Ocean Dipole drives malaria resurgence in East African highlands. Sci. Rep. 2, doi:10.1038/srep00269.
  • Yuan, C., and T.Yamgata, 2015: Impacts of IOD, ENSO and ENSO Modoki on the Australian Winter Wheat Yields in Recent Decades. Sci. Rep. doi:10.1038/srep17252
  • Weng, H., K. Ashok, S. K. Behera, S. A. Rao, and T. Yamagata, 2007 : Impacts of recent El Nino Modoki on dry/wet condidions in the Pacific rim during boreal summer. Climate Dynamics, 29, 113-129.
  • Ratnam J. V., S. K. Behera, Y. Masumoto, K. Takahashi and T. Yamagata, 2010 : Pacific Ocean origin for the 2009 Indian summer monsoon failure. Geophys. Res. Lett., 37, L07807, doi:10.1029/2010GL042798.
  • Tozuka, T., Luo, JJ., Masson, S. et al. Clim Dyn (2008) 31: 333. https://doi.org/10.1007/s00382-007-0356-4