「みらい」北極航海レポート

2008年8月28日(木) アラスカ夏時間

観測初日

ダッチハーバーから太平洋を北上した「みらい」は、本日の正午前、北極海への玄関口となるベーリング海峡に到達した。この海域で初めて、採水を中心とした海水調査が行われ、北極航海における本格的な観測が始まる。 最初の観測点をベーリング海峡にしているのは、単にここが北極海の入り口という理由からだけではない。北極海における気候変動の象徴となっている海氷減少のエリアが、ベーリング海峡に面しているからだ。海氷の減少は北極海全体で一様に起こっているわけではなく、太平洋と隣り合う海域だけで起きている。つまり、ベーリング海峡を通過する太平洋の海水がどのような特性を持ち、どこを流れて、どのように分布するのか、また北極海においてどんな役割を果たしているかを調べることが、北極海の気候変動を解き明かす手がかりとなるわけだ。

 観測初日の今日は、ベーリング海峡における海水調査がメインとなり、「CTD採水器」が活躍した。これは海中の電気伝導度(Conductivity)、水温(Temperature)、水深(Depth)を高精度のセンサーで計測しながら、最大36層の水深で採水可能な観測機器だ。採取された海水は分析項目ごとに13種類の瓶に取り分けられ、塩分や二酸化炭素、栄養塩、溶存酸素などが精密に測定される。こうした高精度観測を陰で支えているのが観測技術者の方々だ。CTD採水器からの海水の取り分けも、一見何気ない作業に見えるが、研究用途に応じて水の汲み方が異なるなど、様々な工夫がなされている。
 一般的に太平洋の水位は大西洋に比べて高いと言われている。これは太平洋が大西洋よりも雨が多く、そして蒸発が少ないことに起因している。そのため北極海では太平洋から大西洋に向かって海水が一方通行で流れている。実際にこのベーリング海峡で観測の様子を記録していると、背景にある陸地が移動したように見えることがある。これは、観測中に停まっていた「みらい」が風や潮流によって流されたということだ。今日は南西の風が吹いていたが、船は北に流された。つまりそれは北極海への潮流がいかに強いかを物語っている。  「みらい」はこの太平洋の海水とともに北極海へ入り、アラスカ・バロー沖へと向かう。

(「みらい」北極航海取材チーム)



夕暮れのココリスブルーム

みらい

23時に夕暮れを撮影していると、海が変色していることに気づいた。夕暮れが海面に反射しているのかとも思ったが、それにしては位置がおかしい。写真を持って、乗船研究者の方々に尋ねたところ、ココリスブルームというものだという。

ココリスブルームというのは、海の色が一部分、緑色〜白色になる現象のことで、円石藻(ココリス)という植物プランクトンが大量に発生することで起こる。円石藻はクロロフィルという緑の色素と、炭酸カルシウムを含む白色の殻を持っている。なので集団で海面に来ると、海面が緑色〜白色になるそうだ。陽の弱い曇り空だと特に白く見えるらしい。確かに白い。 ココリスブルームのあるところは水環境に変化のある場合が報告されており、乗船研究者がCTD採水の解析結果を楽しみにしていた。


(「みらい」北極航海取材チーム 広報乗船者 米本)