知ろう!記者に発表した最新研究

2009年4月2日発表
北極海でかつやくする氷上ブイ
-北極海の海氷がもっととけたら、温暖化の様子をきちんと調べられない!-

北極海は温暖化おんだんかによる影響えいきょうを受けやすい場所です。特にこの数年、夏になると海氷がいつもより多くとけるようになりました。この様子を知るためにかつやくしているのが、「氷上ブイ」という観測装置そうちです。ところが、もしこの海氷が今よりもずっととけたら、この氷上ブイが使えなくなって温暖化の様子をきちんと調べられなくなることがわかりました。

氷上ブイってなに? 海氷の上に置く装置で、温度や塩分などを測ります

写真:氷上ブイを置きました。オレンジ色なので、北極の真っ白な世界で目立ちます。

氷上ブイとは、海氷の上に置くだけで自動的に気温・海水の温度・塩分などを測ってくれる装置です(写真)。氷上ブイが観測したデータは、人工衛星を使って日本の研究者のもとに届けられます。氷上ブイは日本からはなれた北極海の様子を教えてくれるため、温暖化の状態を調べるにあたって欠かせません。


海氷がたくさんとけているけれど、氷上ブイは大丈夫? 海氷が今よりもっととけると氷上ブイを置けなくなり、温暖化の様子をきちんと調べられなくなってしまいます

この数年は温暖化によって海氷が特に多くとけています。これによって氷上ブイの観測はどれくらい影響を受けるのか、研究者は地球シミュレータ(解説)で計算しました。

その結果、これからさらに海氷がとけると、温暖化の様子をきちんと調べられなくなることが確認かくにんされました。海氷がとけると氷上ブイを置けなくなり、観測データが少なくなってしまうためです。


これからはどうするの? さらにくわしく観測するために、氷上ブイの数を増やし、また北極海で実際に観測を行います

さらにくわしく温暖化を観測するために、今年の春には氷上ブイが1台追加されました。氷上ブイをどこに置くべきかを決める時は、地球シミュレータによる計算が利用されました。この計算方法は世界の国々と協力して氷上ブイの置き場所を決める時も役立つでしょう。また、将来海氷がもっととけた時のために、冬に海がこおっても夏に海氷がとけても、こわれずに観測を続けるブイの開発も始めています。一方で、温暖化に関する研究にはブイだけではなく、ジャムステックの研究船が北極海で観測したデータも利用していく予定です。


まめ知識

(1)北極と南極のちがい

  北極 南極 研究者から一言
基本データ 大陸 宇宙から見ると同じ白い氷だけど、実はまったくちがうのです。
氷のもと 海水 液体が氷に変わる温度は、ま水は0°C、海水は-2°Cです。海水には塩などがとけているため、氷に変わる温度が水より低くなるのです。
氷の厚さ(平均) 2m 2,000m たとえば、北極と南極で氷の厚さが同じ2mとけた時、北極海では氷が無くなって海面が現れてしまいます。しかし南極はあまり影響をうけません。 北極海を見れば、温暖化の影響がわかるのです。
氷がとけた時の
海水面の高さ
あまり
変わらない
高くなる
北極海 海氷は海水がこおってうかんでいるものなので、氷がとけても海水面の高さはあまり変わりません。
ぷち実験:コップのジュースに氷を入れて、氷がとける前と後の水面を比べてみましょう。
南極 大陸から海に大量の水が流れこむため、海水面が上がります。

(2)北極海の海氷がたくさんとけると、海の温度が上がります

お話したように、北極海の海氷はますますとけています。海氷がとけて海面が現れると、海は太陽の光(熱)をたくさん取りこんで水温が上がってしまいます。これは海氷と海の色がまったくちがうからです。海の色は青や黒に近いため、太陽の光(熱)を海に取りこみ水温をあげてしまう性質があります。反対に海氷は白いため、太陽の熱をはね返してくれる性質があります。

ですから、温暖化によって海氷がとけると、

【1】
黒い海面が現れる
【2】
海がさらに太陽の光(熱)を取りこむ
【3】
水温が上がる
【4】
海氷がとける
【5】
温暖化が進む

図:北極海を真上から見た図。
2007年、北極海の海氷面積は観測史上1番小さくなりました。

また【1】へ…というサイクルをくり返してしまいます()。北極海の観測は欠かせません。


(3)この研究は、国際会議でも発表されているとても大切な結果です。

International Arctic Buoy Programme

【参考】

資料1

このページは英語だけど、画像もあるので見てください!

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解説が入る

解説:地球シミュレータ

計算がとても速いスーパーコンピュータです。地球のしくみや地球の未来がどうなるのかを、計算によって明らかにします。