知ろう!記者に発表した最新研究

2009年9月10日発表
水素すいそが作られたしくみを実証じっしょう!岩石と水の反応はんのうが、地球の最初の生命をささえた!

地球上で最初の生命(初期生命)たちが誕生たんじょうした場所は、海底にある熱水噴出孔ねっすいふんしゅつこうという場所だと言われています。そして、ここに住む「メタンきん」という小さなちいさな菌は初期生命の1つであり、人間をふくむすべての生命の祖先そせんです。では、初期生命誕生のころ、メタン菌はどうやって生きのびたのでしょう。メタン菌が生きるには、い水素と濃い二酸化炭素にさんかたんそが必要です。今回、そのうちの水素が当時どうやって作られたのかが、世界で初めて実験で証明しょうめいされました。25億年以上前の海底下にたくさんあった岩石「コマチアイト」が、熱水と反応して濃い水素を発生させたのです。これは、岩石と水の反応が初期生命をささえたという、今までの常識じょうしきをこえた壮大そうだいな実験結果です!

熱水噴出孔ってなに? 海底で、あつーい熱水がふきだしているあなです

写真1:熱水噴出孔

熱水噴出孔とは、海底にしみこんだ海水がマグマに熱せられて勢いよくふきだしているあなです(写真1図1)。


図1:海底の熱水噴出孔

この熱水は熱いものだと200〜400℃もありますが、ふっとうはせず液体えきたいのままです。水は陸上では約100℃で沸とうしますが、深海では高い圧力あつりょくがかかっているために100℃をこえても沸とうしないのです。(解説1)また、熱水噴出孔のまわりにはたくさんの生き物が住んでいます。これらは熱水にふくまれる成分のメタンやイオウを食べて生きています。そして、メタン菌もここでくらす生き物の1つです。

メタン菌ってなに? 人間をふくむすべての生命の祖先です

メタン菌は目に見えない小さな菌です(写真2)。熱水噴出孔のまわりの他に、湖の底などにもいます。


写真2:けんび鏡で大きくして見たメタン菌

人間が生きるために酸素や水を必要とするように、メタン菌も生きるためにエネルギーげんが必要です。メタン菌にとってのエネルギー源、それは濃い水素と濃い二酸化炭素です。初期生命が誕生したころ、これらはどうやって作られていたのでしょうか。当時の環境かんきょうは現在とはまったくことなります。これまでの研究から、濃い二酸化炭素があったことは明らかになっていました。けれども水素についてはよくわかっていませんでした。このなぞを解きあかす手がかりとして研究者が注目したのが、コマチアイトという岩石です。

コマチアイトってなに? マグマが冷えて固まることで作られる岩石で、25億年以上前の海底下にたくさんありました

岩石をつくる材料の1つは地球内部のマントルです。マントルはとけて液体になるとマグマとなり、このマグマが冷えて固まると岩石となるのです。ただし、マグマの温度や冷え方によって、できる岩石の種類は変わります。25億年前、現在よりずっと高温だったマントルから生まれたマグマが冷えてできたのが、今回のコマチアイトです(写真3)。


写真3:コマチアイトの化石

コマチアイトは、25億年前の海底下ではふんだんにあったようですが、現在ではまったく作られません。なぜなら、現在のマントルは当時ほど高温ではないからです。したがってマグマも当時ほど熱くはならず冷え方もかわり、できる岩石が変わったのです。

ところで、そのコマチアイトには水と反応すると水素を発生させる性質せいしつがあります。これこそが、今回の研究のカギです。

熱水噴出孔、コマチアイト、水素、そしてメタン菌はどう関わってくるの? コマチアイトが熱水と反応して水素を作りだし、メタン菌をささえたと考えられるのです

コマチアイトの性質や当時の環境をふまえた上で、研究者は予測をしました。コマチアイトは熱水噴出孔の熱水と反応して水素を作りだしたのでは、というのです。実際じっさい、熱水噴出孔のまわりは化学反応が起こりやすい条件がそろっています。まわりには冷たい海水が、海底からはマグマからの熱がそれぞれめぐるので、場所によって温度が大きく変わります。さらに、海底下では海水がめぐっています。これらの環境は、様々な化学反応を続けて起こすことを可能かのうにするのです(図2)。


図2:研究者が予測した水素が作られるしくみ

しかし、コマチアイトが実際にメタン菌をささえられるほどのい水素を作っていたかはわかりません。そこで研究者は、これをたしかめる実験にいどみました。

どんな実験をしたの? 人工的にコマチアイトと純水を高温高圧で反応させ、水素が発生するかをたしかめました

写真4:実験装置

研究者が計画したのは、「初期生命が誕生したころの深海底を再現さいげんし、そこでコマチアイトと純水 を反応させる」実験です。ところが、当時の状態のコマチアイトはもう手に入りません。そこで研究者は、現在手に入るコマチアイトの化石に手を加えて、できたてコマチアイトを復元ふくげんさせる技術ぎじゅつをあみだしました。さらに、高温高圧(300℃500気圧)という深海底の熱水噴出孔の環境を作りだす実験装置そうちも開発しました(写真4)。



図3:時間がたつにつれて発生する水素

研究者は何度も挑戦ちょうせんと失敗をくり返して実験材料と実験装置を用意し、ついにコマチアイトと純水(解説2)を反応させました。結果、濃い水素が発生したのです(図3)!


この濃さは、メタン菌の住む現在の熱水噴出孔に匹敵ひってきする濃度です。研究者は世界で初めて、水素発生のしくみを実証したのです!

これからはどうするの? 実験を続けて、他にはどんな物質が発生しているのかなどにも注目していきます

コマチアイトと熱水の反応は、水素だけではなく他の成分も発生させる可能性かのうせいがあります。何がどれだけ発生するのかを調べれば、初期生命がとげてきた進化の道のりを解きあかすことにつながるでしょう。一方、この研究は地球外の生命の可能性を探る手がかりともなります。他の星で、石と水が反応して生命誕生をささえた可能性を探るのです。今後も、研究者はこの壮大なスケールの研究を続けていきます。

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解説が入る

解説1:

人間をはじめすべての動植物は、空気の圧力を受けながら生きています。地上の空気の圧力は約1気圧です。1気圧とは、1m2に約1トンの重さがかかる力です。海では、この空気の圧力に加わって水の圧力もかかってきます。水深が深くなるほど圧力は高くなり、水深3,000mでは約300気圧にもなります。300気圧はイメージするならば、指先に300kgのイルカが乗るほどの力です(実際にはとても乗りませんね)。このように高い圧力がかかると、水は100℃以上になっても沸とうしなくなります。

解説2:純水

化学的な方法によって不純物(水中にとけこんだよごれなど)が完全に取りのぞかれた、とてもきれいな水です。研究の実験では、水道水は使えません。水道水の中の成分が何かと反応して、実験の結果に影響を与える可能性があるからです。純水を使えば、これらを防ぐことができます。