知ろう!記者に発表した最新研究

2010年3月1日発表
大陸成長のヒミツがわかった!
島弧とうこが合体すると、新しいマグマができて大陸が速く作られる!

今、地球の表面面積の3わりめる大陸。実は地球が生まれた46億年前は、アジア大陸はおろか、大陸もありませんでした。一面が海におおわれていたのです。40億年前に大陸の原型ができて、長い時間をかけて大きくなって、現在の形になりました。そのような過程かていを「大陸の成長」といいます。では、大陸の成長はどのようにして起きるのでしょう。様々な説がありますが、「島弧とうこ」と呼ばれる火山列島でできた大陸の合体が重要だと言われています。けれど、そのメカニズムはよくわかっていません。

そんな中で、世界で1ヶ所だけ、島弧の合体が現在も起きている場所があります。神奈川県にある 丹沢たんざわ山地さんち一帯いったいです。つまり、ここを調べれば、島弧が合体するとどのようにして大陸が成長するのかわかります。そこで、研究者が丹沢山地をくわしく調べました。結果、島弧が合体すると、新しいマグマができることによって通常の数十倍のスピードで大陸が成長することがわかりました。これは世界初の報告ほうこくです。大陸成長の研究をリードする日本の研究が、さらに大きく前進します!

島弧ってなに? 弓なりに連なった火山列島でできた大陸です

まずは島弧のでき方からお話ししましょう。地球の表面は、プレートと呼ばれる十数枚のかたい岩板におおわれています。そのプレートはばらばらの方向に、ゆっくりと移動しています。そして、海溝かいこうという場所に来ると、別のプレートの下にしずみこみます(図1)(参考:2009年5月29日の発表(ジュニア向け)) 。すると、しずみこんだプレート内の水分が、圧力によってしぼりだされます。その水分がプレートの真上にあるマントルの岩石をとかして、マグマを作ります。そのマグマはまわりの岩石より軽いので上にのぼって、地表に近づきます。そして一部はそのまま地表の下で冷えかたまって岩石となり、大陸を作ります。一方、岩石とならなかったマグマは、地表をつき やぶって噴火ふんかして火山を作ります。その現象が海溝に沿って起きるので、海溝沿いには火山列島からなる大陸ができます。それが島弧です。日本列島も島弧の1つです。(解説1

島弧のできるしくみ

図1:島弧のできるしくみ

大陸の成長には島弧の合体が重要って、どういう意味? 島弧は別の島弧とぶつかると合体するので、大陸が大きくなって成長するのです

島弧はプレートの上にあるので、プレートが移動すると島弧も一緒いっしょに移動します(図2)。その移動の途中とちゅうで、別の島弧とぶつかることがあります。何が起きるのでしょう。なんと、合体して大きくなります。大陸の成長です。

島弧のできるしくみ

図2:大陸成長のしくみ

けれども、その成長の実態じったいはよくわかっていません。そんな中で、世界に1ヶ所だけ島弧の合体が現在も起きている場所があります。神奈川県の丹沢山地です。

丹沢山地ってどんなところ? 島弧の合体によって作られた場所です?

日本列島は島弧の1つで、本州弧ほんしゅうこと呼ばれています。その本州弧の真ん中あたりを見ると、神奈川県の南にのびる島弧、伊豆いず小笠原弧おがさわらこが食いこんでいます(図3)。ちょうどその部分が丹沢山地です。

島弧のできるしくみ

図3:本州弧に食いこむ伊豆・小笠原弧

1500万年くらい前、北上するフィリピン海プレートにともなって南の海にあった伊豆・小笠原弧が移動してきました。その伊豆・小笠原弧は本州弧にぶつかると、その下にしずみこみました(図4)。その時に伊豆・小笠原弧の表層にあった軽いものがけずられて本州弧にくっつき、丹沢山地を作りながら、本州弧と伊豆・小笠原弧が合体したのです。

島弧のできるしくみ

図4:丹沢山地

ですから、丹沢山地を調べれば、島弧が合体するとどのようにして大陸が成長するのかわかります。そこで研究者は、丹沢山地をくわしく調べました。

どんなことがわかったの? 島弧が合体すると、すごく速いスピードで大陸が成長することがわかりました

研究者は、「ジルコン・ウランなまり年代ねんだい測定法そくていほう」という技術ぎじゅつを使って、丹沢山地の岩石がいつどのようにしてできたのかを調べました。結果、500万〜400万年前に次の現象が起きたとわかりました。まず、本州弧と伊豆・小笠原弧がぶつかって、伊豆・小笠原弧の一部が本州弧にくっつきました。図4の状態じょうたいです。同時に、地下では大陸のもととなる新しいマグマができました(図5)。そのマグマは速いスピードで地表にむかってのぼり、その上の部分(本州弧にくっついた部分)をもり上げながら冷えかたまって岩石となりました。そうして丹沢山地が生まれ、2つの島弧が合体し大陸が成長したのです。さらに、そのマグマができてから岩石となるまでの期間は、100万年でした。100万年と言うとみんなにとっては果てしなく長い時間ですが、この研究ではすごく短い期間になります。ふつう、マグマが地下で冷えて岩石となるには数千万年もかかるからです。ですから、本州弧と伊豆・小笠原弧がぶつかった後、丹沢山地はとても速いスピードで作られたと言えます。

島弧のできるしくみ

図5:丹沢山地の下でおこっていること

まとめると、島弧と島弧が合体すると、新しいマグマができてふつうの数十倍のスピードで冷えて岩石となり、大陸が成長することがわかりました。

これからはどうするの? さらに幅(はば)広く研究を進めます

今回の研究によって、大陸成長の理解が大きく進みました。他の大陸のなりたちを調べる時にも役立つでしょう。一方、これまでは丹沢山地は伊豆・小笠原弧の一部がくっついたものとされてきたので、丹沢山地を調べれば、伊豆・小笠原弧がわかると考えられてきました。けれども今回の結果から、伊豆・小笠原弧を理解するためには、やはりそこを調べる必要があると確認されました。いま研究者は、地球深部探査船「ちきゅう」(解説2)(参考:2009年4月20日の発表(ジュニア向け))で伊豆・小笠原弧を直接掘削くっさくして、できたての大陸の岩石を取り出し研究したいと考えています。

大陸成長というダイナミックなメカニズムの解明を目標に、研究者は今日もがんばります。

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解説が入る

解説1:とは弓の形のことです。

じゃあ、島弧はなぜ弧の形になるのでしょうか。ここで、ピンポン玉をぐっとへこませた時の形を想像してください。そのへこんだ部分のふちは、まさに「弧」の形。海洋プレートも同じです。丸い地球をおおっているカラだから、ぶつかってしずみこむと、そのふちは弧の形を作ってしずみこむのです。


解説2:ちきゅう

海の底から7,000mの深さまで掘り進むことができる科学掘削船です。