知ろう!記者に発表した最新研究

2010年4月22日発表
雲を精密に表現したシミュレーションで、地球の将来予測が大きく前進!

将来しょうらいの地球環境は、どう変わると思いますか?それを予測よそくする方法に、気候モデル実験というものがあります。スーパーコンピュータを用いて将来の地球をモデルで表現ひょうげんし、そのモデルを使って実験する方法です。それによる予測の1つが、「地球ちきゅう温暖化おんだんかが進むと、台風などの熱帯ねったい低気圧ていきあつの数はるが、勢力せいりょくが強くなる」という説(解説1)。けれどこの予測には、まだあいまいな部分が残されていました。その原因は、雲のかたまりです。雲のかたまりは熱帯低気圧の予測にあたって重要じゅうようなのですが、その雲の動きを細かく表現できるモデルがまだなかったのです。そこで研究者は、新しいモデルを開発しました。そのモデルは、あのふわふわの雲のかたまりを、なんとできる瞬間しゅんかんから消える瞬間まで精密せいみつに表現できるもの。その精密さは世界初です。そのモデルの名はNICAMニッカム解説2)といいます。研究者はNICAMを使って、21世紀末に大気中の二酸化炭素にさんかたんそが現在の2倍になったら、熱帯低気圧はどう変わるのかを実験しました。その結果、熱帯低気圧の発生する数は減りましたが、勢力が強まりました。まさに、先にお話しした予測を裏付うらづける結果です。今回の結果によって、地球の将来予測の技術ぎじゅつが大きく前進しました。研究者は、「この気候モデルでくわしく正確せいかくに気候変動を予測して、社会に役立てたい」と話しています。

気象モデルってなに? 計算によってコンピュータの中に「地球」を作りだし、将来の気候、大気や海の流れの変化などを予測する実験方法です

地球温暖化が進むと、猛暑もうしょ集中しゅうちゅう豪雨ごううなどの異常いじょう気象きしょうがさらにえるかもしれません。被害ひがいをふせぐためには、発生する時期や規模きぼなどの予測が必要です。そこで利用されるのが、気候モデル実験です。スーパーコンピュータで気候に関する方程式ほうていしきを解いて、将来の地球をモデルで表現し、そのモデルで実験を行う方法です。実験の流れは次の通りです。まず、地球全体を緯度いど経度けいど垂直すいちょく方向に四角に細かく区切ります(図1)。

気候モデル実験のしくみ

図1:気候モデル実験のしくみ

それぞれの区切りの中で風の速さ、温度、水蒸気すいじょうきの量などを計算して表現します。さらに、太陽光や空気の流れ、雲の発生なども計算して、となり同士の区切りをつなげて1つの「地球」にします。気候モデル実験の強みは、条件じょうけんをかんたんに色々と変えられること。「大気中の二酸化炭素が2倍に増えたら?水蒸気が半分に減ったら?」と色々なパターンを実験できるのです。
その気候モデル実験にもとづく予測の1つが、「地球温暖化が進むと、熱帯低気圧の数は減るが勢力は強まる」という説。けれど、その予測にはあいまいな部分が残されていました。その原因は、積雲せきうんです。

どうして積雲があいまいな部分を残すの? これまでのモデルでは積雲が精密に表現されていなかったのです

ここで、まずは温暖化における雲の役目からお話ししましょう。雲は地球を冷やし温める働きがあります。たとえば、あつい雲が地球をおおうと、まるで日傘ひがさのようになって太陽の光をはね返します(図2a)。そして、地球を冷やすのです。反対に、高いところの雲は、陸上から上がってくる熱をためこみます(図2b)。そして、地球を温めるのです。その地球を冷やし温める効果こうかは、雲の高さやあつみによって変わってきます。

雲の役目

図2:雲の役目

次に、気候モデル実験における雲の役わりについてお話ししましょう。様々な姿をもつ雲の中で、積雲というわた菓子のようなモコモコ雲があります。積雲は熱帯域(図3)でできて成長すると、熱帯低気圧となります(図4)。

熱帯域

図3:熱帯域

熱帯低気圧のできるしくみ

図4:熱帯低気圧のできるしくみ

つまり積雲は、地球を冷やし温める働きや、熱帯低気圧の発生において大切な役わりをもっているのです。ですから、その動きを精密に表現することは、温暖化や熱帯低気圧の予測にとって極めて重要です。そんな積雲ですが、その動きを精密に表現できるモデルがなかったために、予測にあいまいさを残す原因とされてきました。そこで研究者は、それを解決できるモデルを開発し、実験にいどんだのです。

どんな実験をして、どんな結果がでたの? 積雲を精密に表現できるNICAMで実験した結果、熱帯低気圧の発生数は減るものの勢力が強まる予測が出ました

研究者が開発したモデルの名は、NICAM。なんと、あのふわふわの雲ができる瞬間から消える瞬間までの様子を、実に精度よく表現できます。雲だけではなく、雲を作る大気の現象も表現します。 それでは、今世紀末に大気中の二酸化炭素の濃度のうどが現在の2倍になったら、地球はどうなるのでしょうか。熱帯低気圧の変化の様子を、研究者はNICAMを使って地球シミュレータで実験しました。その結果、熱帯低気圧の発生する数が、現在より2わり以上減りましたが、強い熱帯低気圧の割合わりあいが増えました。世界全体で、最大風速が55mをえる熱帯低気圧の数が、現在よりもずっと増える可能性があるのです(図5)。これは、温暖化によって海水が温められて蒸発じょうはつする量が増えて、熱帯低気圧に取りこまれやすくなるためと考えられます。

NICAMを使った気候モデル実験の結果

図5:NICAMを使った気候モデル実験の結果

これからはどうするの? この気候変動モデルを使って、よりくわしい予測を目指します

今回は、世界で初めて積雲のかたまりを精密に表現できるモデルを使って、熱帯低気圧の発生数や強さの変化を予測しました。将来の地球環境が心配される中で、これは大きな成果です。研究者は、「この気候モデルを使って、よりくわしく正確に気候変動を予測して社会に役立てたい」と話しています。

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解説が入る

解説1:

この報告書をまとめたのは、温暖化対策のために設置された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」という組織です。

解説2:

NICAM:Nonhydrostatic Icosahedral Atmospheric Modelの略です。