知ろう!記者に発表した最新研究

2010年12月13日発表
白いスケーリーフット、新発見!

深い海の底には、海底にしみこんだ海水がマグマの熱によって熱水となり、ふき出す場所があります。熱水噴出孔ねっすいふんしゅつこう(参考:2009年9月10日発表)です。そこは、生命が 誕生たんじょうしたともいわれる場所。その熱水噴出孔は世界中にありますが、中でもインド洋のものは、生命の進化のなぞを解き明かすカギをにぎっていると考えられています。

その熱水噴出孔を新たに見つけるために、2009年秋に研究者はインド洋の調査に出ました。その結果、新しい熱水噴出孔を2ヶ所、発見したのです!さらに、体の一部がうろこでおおわれた巻貝「スケーリーフット」の体の色が「白い」種類を、世界で初めて発見しました(写真1)!

白いスケーリーフット

写真1:白いスケーリーフット

研究者は、「白スケーリーフットをくわしく調べれば、生命の進化のなぞにせまるだけではなく、新材料の開発や医療いりょうなどにも役立つ」と話します。

スケーリーフットって、どんな生き物?巻貝の1種で、よろいを身にまとっためずらしい生き物です

熱水噴出孔からふきだす熱水には、地球内部からもたらされる化学物質、たとえばメタン、水素、鉄、マンガンなどがとけこんでいます。その化学物質を目当てに、熱水噴出孔のまわりには様々な生き物たちがやってきます(図1)(参考:2009年11月30日発表)。

熱水噴出孔

図1:熱水噴出孔

熱水噴出孔は世界中の海底にありますが、中でもインド洋のものは、生き物の進化のなぞを解き明かす上で重要です(図2)。なぜかというと、インド洋には、世界でもインド洋でしか発見されていない生き物(スケーリーフット)が存在する一方で、大西洋にはいるけれど太平洋にはいない生き物(ツノナシオハラエビなど)と、太平洋にはいるけれど大西洋にはいない生き物(アルビンガイなど)も共に存在するからです。つまり、インド洋の熱水噴出孔は、大西洋と太平洋の生き物をあわせもち、さらにはインド洋独自の生き物も育んでいるのです。

熱水噴出孔の生き物

図2:熱水噴出孔の生き物

これらのことから、「インド洋を調べることで、熱水噴出孔の生き物がそれぞれの海でどのように発生・進化したのか、そしてどのように世界の海へと広がっていったのかが、わかるかもしれない」と考えられています。

けれども、インド洋で発見された熱水噴出孔の数は、まだたったの2ヶ所。くわしく知るには、もっとデータが必要です。そこで研究者は、新たな熱水噴出孔を見つけるために調査に出ました。

調査はどうだったの?熱水噴出孔を2ヶ所発見し、そのうち1ヶ所で白いスケーリーフットを発見しました

調査は、2009年9月から10月にかけて、インド洋のロドリゲスセグメントという海域かいいきで行いました(図3)。かつやくしたのは、支援母船しえんぼせん「よこすか」と有人潜水調査船ゆうじんせんすいちょうさせん「しんかい6500」です。

海域図

図3:海域図

しずかで真っ暗やみの、広いひろい海の底。熱水噴出孔はかんたんには見つかりません。何度も「しんかい6500」による潜航せんこうをくり返した結果、ついに熱水噴出孔を2ヶ所発見しました!それぞれ「ドードーフィールド」、「ソリティアフィールド」と名付けました(図4)。

新たに発見した熱水噴出孔

図4:新たに発見した熱水噴出孔


さらに、ソリティアフィールドでは、白いスケーリーフットが数千〜1万匹れているのを発見したのです(写真2)!

水深2600mの熱水噴出孔に生きる白いスケーリーフット

写真2:水深2600mの熱水噴出孔に生きる白いスケーリーフット

スケーリーフットって、どんな生き物?巻貝の1種で、よろいを身にまとっためずらしい生き物です

スケーリーフットとは「うろこのあし」という意味で、その名の通り、足がよろいのようなかたいウロコで守られています。そのサイズは3〜4cm。これまでに発見されたスケーリーフットは、その体の表面すべてが硫化鉄りゅうかてつでコーティングされ、黒光りしていました。

けれど、今回発見したスケーリーフットの色は、白いのです(写真3)!

白と黒のスケーリーフット

写真3:白と黒のスケーリーフット


さっそくつかまえて、いろいろ調べました。その結果、白スケーリーフットのウロコやカラには、硫化鉄がふくまれていませんでした(図5)。一方で、これらの白黒スケーリーフットは、遺伝的いでんてきにはほぼ同一の種類であることもわかりました。

白と黒のちがい

図5:白と黒のちがい


では、いったい何が、スケーリーフットの色を白黒分けるのでしょう。これまでの研究から、黒スケーリーフットを発見した熱水は水素が多いことがわかっています。もしかしたら、この水素が多く硫化鉄が酸化さんかされにくい環境が、黒スケーリーフットのかたくて丈夫じょうぶな硫化鉄コーティングを生み出したのかもしれない、と研究者は考えます。

これからはどうするの? スケーリーフットの体のなぞにせまります

研究はこれからも続きます(図6)。2011年5月〜7月には、再びインド洋で調査を行う予定です。

これから研究すること

図6:これから研究すること


研究者は、「白スケーリーフットのウロコはしなやかだが丈夫な材質なので、これを研究すれば新材料となるだろう。人工関節や人工骨、インプラントなどにも活用できるかもしれない」と話します。

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