知ろう!記者に発表した最新研究

2011年4月28日発表
世界初!
海底下の浅い地層ちそうから、地震じしんと津波のあとを発見!

紀伊半島沖では、100〜150年おきにくり返し東南海地震とうなんかいじしんが発生し、津波を引き起こすと考えられています(図1)。


東南海地震の震源域

図1:東南海地震の震源域


その地震と津波の発生源はっせいげんは、紀伊半島沖の海底下にある「巨大分岐断層きょだいぶんきだんそう」というところだと観測かんそくデータから予測されてきました。けれど、地震を引き起こした正確な物的証拠ぶってきしょうこはまだ見つかっていませんでした。

そこで研究チームの坂口有人さかぐちありと博士たちは、地球深部探査船「ちきゅう」によって巨大分岐断層などから取り出した地層サンプル・コアを分析ぶんせきしました。その結果、世界で初めて、地震と津波のあとを発見したのです!この発見によって、地震と津波に関する新しい知見を得ることができました。

地震と津波発生のメカニズムをさらにくわしく解明して次の地震にそなえるために、坂口博士たちはこれから追加の分析を行う予定です。

巨大分岐断層ってなに? プレート境目から、上に向かって急角度にひび割れた部分のことです

地球の表面は、あつさ数十〜数百キロの岩石でできた、何枚ものプレートにおおわれています。そのうちのユーラシアプレートとフィリピン海プレートが、紀伊半島沖でぶつかりあっています。さて、紀伊半島沖を横から切って見てみましょう(図2)。


巨大分岐断層

図2:巨大分岐断層


2つのプレートのはじと端が重なり、その境目さかいめからは上に向かってひびれたようにすじがのびています。そのすじが巨大分岐断層です。これより陸側が、地震や津波を起こす巨大地震発生帯です。

ユーラシアプレートとフィリピン海プレートの動きによって、巨大分岐断層にはゆがみがためられます。そのゆがみにたえられなくなると巨大分岐断層が動いて(ずれて)、東南海地震を引き起こすと考えられています。けれど、物的証拠は未発見でした。そこで坂口博士たちは、分析を行いました。

どんな分析をしたの? コアの中のビトリナイトから、津波と地震のあとを探しました

地震にともなって巨大分岐断層が動くと、摩擦まさつが起きて熱が発生します。実は、その熱のあとが海底下のビトリナイトというものにきざまれます。ビトリナイトとは石炭の一種で、大むかしの植物が海底にうもれて、地下の熱などのはたらきによって長い年月をかけてつくられます。ビトリナイトは熱によって変質へんしつする性質を持つので、もし地震にともない巨大分岐断層が動いて摩擦熱が発生していたら、断層部分の地層にふくまれているビトリナイトも変質するのです(図3)。


ビトリナイト

図3:ビトリナイト


そこで坂口博士たちは、地球深部探査船「ちきゅう」による研究航海(2007〜2008年)で、巨大分岐断層の入口とプレート境目の浅い部分から取り出した地層サンプル・コアのビトリナイトを分析しました(図4)。


コアを取り出したところ

図4:コアを取り出したところ


結果はどうだったの? 地震と津波のあとを発見しました!

巨大分岐断層の入口のビトリナイトから、短い時間で高温に達したあとを世界で初めて発見しました(図5)。まさに、巨大分岐断層の動きにともなう摩擦熱によるものと考えられます。

その摩擦熱のあとはプレート境目の浅い部分のビトリナイトからも見つかったので、巨大分岐断層の動きはプレート境目までずっと広がっていたとわかりました。


結果

図5:結果

摩擦熱のあとが見つかった海底下の深さはそれぞれ271mと438mで、震源としては比較的浅いといえます。そんな浅い断層が広い範囲で急に動いたために、上にのっている海水が大きくゆり動かされて非常に大きな津波を引き起こしたにちがいありません。

特に、プレート境目の浅い部分でも地震のあとが見つかったのはおどろくべきことです。なぜかというと、その浅い部分は地震を引き起こさないと信じられてきたからです。この成果によって、浅い部分も地震を引き起こすことが新たにわかりました。これは、たとえ地震の揺れが大きくなくても、想定以上の津波が来る可能性かのうせいを示しています。

これからはどうするの? 研究を続けてさらにくわしく明らかにしていきます

この成果によって、これまで考えられてきたよりも断層の動きはずっと浅いところまで広がり、そして大きな津波を発生させる可能性があるとわかりました。坂口博士は「これまでの考えを見なおす必要がある」として、今後、追加の分析をする予定です。

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