海底下には、真っ暗で強大な圧力のかかった過酷な世界が広がっています。でも実は、そこには地表の生物の数をはるかにこえる数の微生物がいます。その微生物について知るために、諸野 祐樹博士と稲垣 史生博士が、下北半島八戸沖の海底下から掘り出した約46万年前の地層中の微生物を研究しました。
その結果、きわめてゆっくりではあるものの、炭素や窒素
を取りこみながら生きている微生物を
確認したのです(写真1)! 太古の地層から、"生きた"微生物を発見!
写真1:栄養分(グルコース)を取りこんだ微生物の細胞の画像! 細胞の大きさは約0.5〜1マイクロメートルです。
博士たちが調べたのは、2006年に地球深部探査船「ちきゅう」で下北半島八戸沖約80kmの海底下219mから掘り出した46万年前の地層のサンプル、コアです(図1、写真2)。
図1:地層を掘り出した海域
写真2:コアを保管する冷蔵庫(高知コア研究所)
そのコアに、炭素や窒素で化学的な印をつけた栄養分(グルコース、
酢酸、ピルビン酸、重炭酸、アミノ酸、メタン、アンモニア)を与えて、コア中の微生物に取りこまれる量と速さを、超高空間分解能二次イオン質量分析計という装置で調べました(写真3)。
写真3:超高空間分解能二次イオン質量分析計
1つの細胞が栄養分を取りこむ速度は1日当たり約1京分の1(10-16、なんと0.0000000000000001!)グラムときわめてゆっくり。ですが、メタン以外の栄養分が約8割の微生物に取りこまれたのです(写真4)!
写真4:栄養分が、微生物に取りこまれる!
中でも、グルコース、ピルビン酸、アミノ酸などを与えたときは、微生物の細胞は2つに分裂して増えていました。
さらに、炭素と窒素を取りこんだ割合は、炭素1.5に対して窒素が1でした。ふつう、海の微生物が炭素と窒素をとりこむ割合は、炭素6に対して窒素1くらい。この実験では、窒素の割合が格段に高かったのです。この理由を、博士たちは次のように考えました。「微生物は海底下では窒素が欠乏状態にあったので、実験で栄養を与えたとき窒素をたくさん取りこんだのでしょう。なぜ海底下で窒素欠乏状態にあるのかというと、微生物が窒素を取りこむために必要なATPというエネルギー物質が、海底下では不足しているからです」(図2)。このことから、「海底下の微生物はエネルギー物質を節約するために窒素の取りこみを減らして、最低限必要なものだけを選ぶことで、海底下の過酷な環境を生き抜いているのでしょう」と博士たちは予測します。
太古の地層からなる海底下深くの過酷な環境にも、実際には多くの生命が生きていたのです!
図2:研究者の考え