知ろう!記者に発表した最新研究

2012年5月7日発表
超低周波地震ちょうていしゅうはじしんを観測した!
海溝かいこう近くも震源しんげんに 

大陸プレートの下に海洋プレートがしずみ始める入口、海溝かいこう。これまでその海溝近くのプレート境界きょうかいでは、地震じしんは発生しないとされてきました。

けれどこのたび、その海溝近くのプレート境界でも「超低周波地震ちょうていしゅうはじしん」と呼ばれるゆっくり地震が発生していたことが判明はんめいしたのです!

杉岡すぎおか裕子ひろこ博士はかせが東京工業大学こうぎょうだいがくと東京大学と共同で、東南海地震の震源域しんげんいきである紀伊半島沖の海溝近く(南海トラフ)に設置、観測かんそくした広帯域海底地震計こうたいいきかいていじしんけい写真)による結果です。海溝近くの地震発生メカニズムの解明かいめいに向け、新たな知見です!


広帯域海底地震計を船からおろす様子

写真1:広帯域海底地震計を船からおろす様子


海溝近くは地震が発生しないとされてきたって、どういうこと? 地震を引き起こすひずみがためられないと考えられてきたのです

まず、地震の発生メカニズムからお話ししましょう。

紀伊半島から四国沖の海底には、大陸プレートの下に海洋プレートが沈みはじめる海溝、南海トラフがあります(図1

南海トラフ

図1:南海トラフ


沈みこむスピードは年間数センチですが、大陸プレートは沈みこむ海洋プレートにぴったりくっついて引き込まれゆがみ、ひずみが生まれます(図2)。そのひずみが限界げんかいになると、大陸プレートはもとにもどろうとはね上がり、プレート境界が一気にすべって巨大地震が起きます。

地震の発生メカニズム

図2:地震の発生メカニズム


けれどこれまで、プレート境界すべてが地震を発生させるわけではないとされていました。地震が発生しないとされていたのは、海溝近く、海洋プレートの沈み始めの浅いところ(図3)。いったいなぜ? 海洋プレートの沈み始めには、付加体ふかたい(海洋プレートが沈みこむさい、その上につもった土砂どしゃなどが、大陸プレートにけずられて大陸プレート側にくっついたところ)があり、そこでは摩擦まさつが弱くずるずるとすべるためひずみはまたらず、地震は発生しないとされていたのです。

地震が発生する深さと、しないとされていた深さ

図3:地震が発生する深さと、しないとされていた深さ

ところがまれに、時間の長いゆっくり地震「超低周波地震」が、陸上より観測されていました。

超低周波地震ってなに? ゆっくりと断層がすべる地震です

地震が発生すると、地震波が地下や水中を伝わってゆれが広がります(図4)。地震波には様々な周波数があり、ふつうの地震よりも低く約10秒のタイプを超低周波地震と呼びます。超低周波地震は、地震の規模きぼに対して時間が長く、断層破壊だんそうはかいがゆっくり伝わる特徴とくちょうがあります。

広がる地震波

図4:広がる地震波


けれど、超低周波地震の震源や発生メカニズムはよくわかっていませんでした。そこで杉岡博士たちは2008年、東南海地震の震源域である和歌山県わかやまけん新宮沖しんぐうおきの海溝近く(南海トラフ)の海底(水深2,500〜4,000m)3地点に広域帯海底地震計を設置、観測を開始しました(図5)。広域帯海底地震計とは、幅広い周波数の地震をとらえる地震計で、特にゆっくりした地震を観測するのを得意とします。

観測点

図5:観測点


結果はどうだったの? 超低周波地震を観測しました!

広域帯海底地震計は、2009年3月22日から10日間ほど、超低周波地震を間近で観測することに成功しました! 南海トラフ近くでの超低周波地震の発生は実に4年半ぶり。陸上からでは観測できないくわしいデータをとらえました。

地震の震源や発生メカニズムを解析かいせきしたところ、震源は海溝近くだったことが判明しました(図6)。そう、さっき「地震は発生しない」とされていたところです!

海溝近くのプレートの境目で発生していた地震

図6:海溝近くのプレートの境目で発生していた地震


地震の規模はマグニチュード4くらい。この規模の地震による地殻破壊ちかくはかいにかかる時間は、ふつうの地震では1秒ほどですが、超低周波地震は非常におそく30〜100秒もかかっていたことも明らかになりました(図7)。

長い時間がかかる超低周波地震

図7:長い時間がかかる超低周波地震


こうした超低周波地震は、断層の破壊が海溝まで達すれば広い範囲はんいの海底を変化させ、大きな津波を引き起こす恐れがあります。

これからはどうするの? 他の装置による観測データも解析し、防災や減災に役立てます

なぜ超低周波地震が海溝近くのプレート境界で発生していたのでしょうか。それを解明するため、杉岡博士は、「これからは、紀伊半島沖に設置している地震・津波観測監視つなみかんそくかんしシステム(DONETドゥ―ネット)や地球深部探査船「ちきゅう」が海底にった孔に設置したセンサによる観測データも解析します。そして、防災ぼうさい減災げんさい に役立てていきたいです」と話します。

DONETと「ちきゅう」によるデータも組み合わせ、地震の発生メカニズム解明を目指す!

図8:DONETと「ちきゅう」によるデータも組み合わせ、地震の発生メカニズム解明を目指す!

<< 一覧に戻る