知ろう!記者に発表した最新研究

2012年5月31日発表
北極海ほっきょくかいの雲が変化!
海氷がとけて低い雲がり、高い雲が増えた!

雲は、とても小さな水や氷のつぶの集まり。地球にふりそそぐ太陽光を、吸収きゅうしゅうしたり反射はんしゃ散乱さんらんしたりして、地球上の熱の流れを調節する働きがあります(図1) 。


地球上の熱を調節する雲

図1:地球上の熱を調節する雲

ところが近年、温暖化おんだんかにともない北極海の海氷が急激きゅうげきに減っていて、雲に影響えいきょうを与えている可能性かのうせいがでてきました。どんな雲が、どのように? それを明らかにした猪上 淳 博士いのうえじゅんはかせ佐藤 和敏さとうかずとし研究生の研究成果をおとどけします!


雲が熱の流れを調節するってどういうこと? 雲は太陽光をさえぎり地表を冷やしたり、熱を地上にためこみ地表をあたためる働きがあるのです。

まずは雲のでき方からお話ししましょう(図2)。雲のもとは、水蒸気すいじょうきをふくんだ空気のかたまり。上昇気流じょうしょうきりゅう(上へ行く流れ)があると、その空気のかたまりは上空へ運ばれます。上空ほど空気がうすく気圧が低くなるため、空気のかたまりはふくらみます。ふくらむと温度が下がり、それまでと同じ量の水蒸気をふくんでいられなくなります。すると水蒸気は水のつぶになって現れ、雲になるのです。

雲のでき方

図2:雲のでき方


雲の形や大きさは、空気中の水蒸気の量や大気の流れ方によってさまざま。

たとえば、夏の北極海(図3)では、冷たい海氷の上に、南からのあたたかい空気が入りこむので、平たくそうのように広がる「下層雲かそうくも」ができやすくなります。下層雲はまるで日傘のように太陽の光をはね返し、海氷をとけにくくします。

夏の北極海

図3:夏の北極海


一方で、秋から冬の北極海(図4)では、雲は赤外線として熱を放出ほうしゅつし、海氷面をあたためる役わりが大きくなります。

地震が発生する深さと、しないとされていた深さ

図4:秋から冬の北極海

ところが近年、温暖化にともない海氷が急激に減り、こうした雲の働きに影響を与えている可能性が出てきました。どんな雲がどのように? それを明らかにするため、猪上淳博士らは北極海の雲について研究をしました。

どんな研究をしたの? データを解析して、海氷が無い時期とあった時期の雲を比べました。

海氷が無くなった時期のデータは、海洋調査船「みらい」にあるシーロメータが観測した1999年から2010年の8航海分のデータと、ラジオゾンデが観測した2009年からのデータ(図5)。

雲を観測する装置(「みらい」船上)

図5:雲を観測する装置(「みらい」船上)



海氷があった時期のデータは、アメリカのプロジェクト(SHEBA)により観測された1998年のデータ。これらのデータを比べて、雲の変化を調べました(図6

観測海域

図6:観測海域


結果はどうだったの? 高度500m以下の雲が減り、高度1000m以上の雲が増えていました

海氷が減ってから、高度500m以下に雲底がある低く平たい下層雲が30%減り、反対に高度1000m以上に雲底を持つもり上がった層積雲が20%以上増えていました(図7)。

高度500m以下の下層雲が減り、高度1000m以上の雲が増えた

図7:高度500m以下の下層雲が減り、高度1000m以上の雲が増えた


いったいなぜ? そこで猪上博士は、海面水温と海上気温の温度差と、雲の関係についても調べました。結果、温度差が小さい(約3度以下)ときりや層雲などの層状そうじょうの雲ができやすく、反対に、温度差が大きい(海面水温が海上気温より約3度以上高い)と、上にもり上がる層積雲そうせきうんができやすくなる傾向けいこうがありました。

北極海は、海氷が減ったことで、海は太陽光を吸収しやすくなり、水温が上がりました。熱は高いところから低いところへ流れるため、水温上昇にともない、より多くの熱が大気へ放出されるようになります。その流れにより、低いところに平たく広がる層雲よりも、高いところにもくもく盛り上がる層積雲の方ができやすくなったのだと考えられます(図8)。

海氷が減り、海から大気へ放出される熱が増え、層積雲ができやすくなった

図8:海氷が減り、海から大気へ放出される熱が増え、層積雲ができやすくなった


これからはどうするの? さらにこまかいデータを組み込んだシミュレーションなどを行います。

雲の構造の変化は、海面/海氷面の熱のやり取りにふくざつな影響を与えると考えられます。今後は、海面水温や海氷の広がり方、気温や水蒸気などの大気・海・海氷のデータをさらにこまかく組みこんだシミュレーションなどを行い、研究を進める予定です。

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