台風や暴風をはじめ、ふだんの生活で身近な風。こうした風は、地上から約18qまでの対流圏で起きる大気の流れの一部です。実は、対流圏の上、地上から18〜50qの成層圏でも大気が流れ、風が吹いています。このたび、その成層圏の大気の流れ「赤道域上昇流」と「赤道準2年振動」が、地球温暖化による影響で変わってきていることがわかりました。一体何が起きているの? 河谷 芳雄 博士がハワイ大学のケビン ハミルトン教授と英国科学雑誌「NATURE」に発表した研究にせまります!
地上から約18q〜50qの成層圏では、赤道域で上空に行き、そこから北半球・南半球に広がり北緯・南緯60度あたりで下がる大規模な循環があります(図1)。この循環はブリューワーさんとドブソンさんにより発見されたため、「ブリューワー・ドブソン循環(BD循環)」と呼ばれます。この流れは、太陽からふりそそぎ人体に有害な紫外線をふせぐオゾンや気候と関係する水蒸気などを、全球的に運ぶ働きがあります。
図1:ブリューワー・ドブソン循環
一方で赤道域成層圏には、赤道域上昇流を横切る東西方向の流れがあります。「赤道準2年振動」です。約2年おきに東風と西風が交互に吹いています(図2)。
図2:東風と西風が交互に吹く赤道準2年振動
赤道準2年振動は、まず高いところに現れ、次第に下がり高度18qぐらいで消えます(図3)。
図3:赤道域上昇流を横切るように流れる赤道準2年振動
温暖化によりBD循環が強まる可能性が、世界中の気候モデルで予測されるようになりました。これが事実なら、赤道域上昇流も強まり、赤道準2年振動にも影響するはずです。でも、そもそも赤道域上昇流は1秒あたり0.3oと、アリが歩く速さよりもおそく観測できないため、実態がわかりません。
河谷博士たちが考えたのは、「赤道域上昇流は直接観測することはできない。でも赤道域上昇流の影響を受けるであろう赤道準2年振動の観測データは、ドイツのベルリン自由大学によって世界中に公開されている。ならば赤道準2年振動の観測データを解析すれば、赤道域上昇流の実態がわかるだろう」。河谷博士は、赤道準2年振動の1953年から2012年までの観測データを解析しました。その結果、高さ約19qにおける赤道準2年振動の強さが60年間で30%以上弱くなっていた事実を発見したのです(図4)。
図4:赤道準2年振動の強さの変化
赤道準2年振動が高さ19km付近でなぜ弱くなっているのか? その原因は高度約19qで赤道域上昇流が強まっていて、赤道準2年振動が下りようとするのを妨げていたのです(図5)。
図5:赤道準2年振動の弱まりと赤道域上昇流の強まりのメカニズム
さらに河谷博士は確認のため、「温暖化の影響がない場合は、どうなるか」最新のシミュレーションデータを解析しました。その結果は、赤道準2年振動にも赤道上昇流にも変化は無し。まさに温暖化により赤道域上昇流が強まり、赤道準2年振動が弱まることの裏付けです。
高さ20〜25qの上空にはオゾン層がありますが、人間が放出した化学物質によりオゾンが破壊され、地表にとどく紫外線が増える恐れが心配されています。赤道域上昇流が強まれば、赤道域でたくさんつくられるオゾンがより多く北半球・南半球に運ばれることになり、オゾン層回復への効果が期待されます(図6)。ただし、オゾン層の回復には大気の流れ以外の原因もあるため、今後さらなる研究を行う必要があります。
図6:オゾン層回復への効果あり?
河谷博士は、「今回の観測データは、世界中の研究者が使えるデータ。今回はそこから新たな発見をし、メカニズムをつきとめました。これからも様々な観測データや数値実験データを使って気候変動のメカニズムを解明する研究を続けたい」と語ります。そんな河谷博士は、世界中の研究者と議論を進めながら、今日も研究に励んでいます。
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