知ろう!記者に発表した最新研究

【番外編】
 後編
調査のためのこだわりがつまった「新青丸」
いざ、東北の海へ

東北沖を調査して震災しんさい復興ふっこうに役立てるために誕生たんじょうした「新青丸」(写真1)。後編では、その調査を行うための「こだわり機能」を紹介します。

「新青丸」

写真1:東北海洋生態系調査研究船「新青丸」

機器を積みかえて、様々な調査を行う

新青丸」は、海底地形、海流、水温、水質、海底下の構造こうぞう資源しげんなどの調査を行うことができます(図1)。

図1「新青丸」の調査

図1:「新青丸」で行う調査・観測

さまざまな調査ができるでしょう? 理由は、目的にあわせて、機器や 設備せつびなどを積みかえるからです。たとえば、海中探査には無人探査機(写真2a)、海水分析には海水をとる採水器さいすいきと塩分・水温・水深を測るCTD(写真2b)があります。機器にあわせて設備も積みかえます。たとえば、大気測定にはラジオゾンデ(写真2c)とそれを空にとばすためのコンテナ、清潔せいけつな環境で実験をするためのクリーンラボコンテナ(写真2d)などがあります。

目的にあわせて、積みかえます

写真2:いろいろな調査・観測設備

船の先端せんたん マストの一番高い部分にはステージをもうけ、大気測定の機器を置いて、煙突からのけむりなど船体からの 影響えいきょうを受けていない最もフレッシュな大気を集められるようにしました(写真3)。

機器を置くステージを設けたマスト

写真3:機器を置くステージを設けたマスト

こだわりはウィンチ

前田さんによると、調査のために特にこだわったものは「ウィンチ」です。ウィンチとは、船と海中の機器をつなぐケーブルやワイヤーを出したり巻きとったりする機械です(写真4)。

ウィンチ

写真4:ウィンチ

たとえばある深さで調査をしたいとき、ウィンチを回転させケーブルを出して(巻きとって)、目的の深さに機器が来たらウィンチを停止させます。「新青丸」のウィンチは、ジャムステックの調査船として初となる電動式にしました。多くの船が使う油圧式ゆあつしきに比べ「回転を止めたいときは一瞬いっしゅんで止まるし、スピードを上げたいときもすぐ上がる。船がゆれても自動で調整する機能があるので、ケーブルがつっぱったり、ゆるんだりしません」と前田さんは説明します(図2)。

ウィンチ

図2:電動式ウィンチ

 

ウィンチの状態も、タブレットコンピュータで確認かくにんできます(写真5)。

ウィンチの情報もネットワークで

写真5:ウィンチの情報もネットワークで

 

ウィンチはそなえつけの5基のほか、海中におろす機器の大きさや重さにあわせて5基を積みかえられます(写真6)。

ウィンチ

写真6:いろいろなウィンチ

あちこちに物を運ぶクレーン 

重い観測機材の積みかえや観測の補助をするクレーンも、「新青丸」のイチオシ。特に5トンクレーンは、使わないときは小さくなるけれど、使うときは15mまで伸びる伸縮しんしゅくタイプです(写真7)。360度ぐるぐる回って、船尾せんびのあちこちに物を運ぶことができます。

5トンクレーン

写真7:5トンクレーン

研究のしやすさを追求した研究室

研究室は3つです。第1研究室では、気象や海流、魚群探知機ぎょぐんたんちきのデータを見ることができます(写真8)。また、音が反射する性質を使って海底地形や海底下構造を調べる機器の操作そうさやデータの解析かいせきをします。

第1研究室

写真8:第1研究室

第2研究室は、「新青丸」の中で最も広い研究室。ドライ区画、ウェット区画、セミドライ区画の3つの区画でできています。ポイントは「研究のしやすさ」です。

ドライ区画では、マイクを使いながら、主に後ろの作業甲板さぎょうこうはんで行われるオペレーションの指揮をとります(図3)。ウェット区画は作業甲板と直通で、海水や海底のどろなどのサンプルを作業甲板からウェット区画に運びこみ処理しょりできます。ウェット区画はぬれものも大丈夫。そのままとなりのセミドライ区画で顕微鏡観察けんびきょうかんさつや処理をします。終えたら、部屋のおくにあるチェーンブロックを使って下の階にろせば、すぐ横はサンプルを保管するサンプル保管庫。

研究のしやすさにこだわった、第2研究室

図3:研究のしやすさにこだわった、第2研究室

 

つまり、第2研究室では、観測中はデータを確認し、サンプルが船上にあがれば、処理から保管まで、一直線(写真9)! 便利で研究をしやすいのです。

第2研究室

写真9:第2研究室

 

第3研究室には暗室があり、光をあてたくないサンプルの処理や分析ぶんせきを行います(写真10)。

第1研究室

写真10:第3研究室

優れた動き、様々な調査を行う機能、そして研究のしやすさを追求することで、「新青丸」はまさに「東北沖を走り回りなんでもできる調査研究船」として誕生ました。

2013年12月、東北沖の調査へ

2013年12月、実際に東北沖での調査が始まりました。井上 孝道いのうえ たかみち船長は、「日本のために、日本の海洋学のために力になりたい」と語ります(写真11)。吉田 力太よしだ りきた船長は、「東北復興のためにつくられた船なので、まずはその使命を認識して、貢献こうけんできるようにがんばります」と話します。

左は井上船長、右は吉田船長。

写真11: 左は井上船長、右は吉田船長。
船長は2名いて、交代で乗船します。

おまけ

船の命名・進水式 2013年2月15日に、船を建造した山口県下関市にある三菱重工業株式会社みつびしじゅうこうぎょうかぶしきがいしゃ下関造船所で進水式しんすいしきを行いました(写真12)。進水式とは、新しい船を初めて水にうかべる作業・儀式ぎしきです。船の名前もこの時に初めて披露ひろうされました。

多くの人が見守る中、華やかにかざられた「新青丸」は台をすべりおり、水面に入っていきました。

第1研究室

写真12:進水式の新青丸

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