海 〜その多様な世界〜 海 〜その多様な世界〜

我が国は、領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせると世界第6位、国土面積の約12倍もの広大な海を有し、食糧や海上輸送など、様々な恩恵を受けながら発展してきました。
このポスターでは、「地球環境と海洋との関わり」、「海洋の豊かな生態系」、「潜在する海洋資源」、「海域における地震・火山活動」、「海洋の技術」の観点から、海の多様で神秘的な世界をご紹介します。

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地球環境と海洋の関わり

やわらげる海
  • アルゴフロート

    何を観測するための装置でしょうか。

  • スーパーコンピューター(地球シミュレータ) スーパーコンピューター(地球シミュレータ)

    海で得られたデータはどのように活用されているでしょうか。

  • 海洋プラスチックゴミ 海洋プラスチックゴミ

    海洋プラスチックゴミが増えると、海に何が起きてしまうでしょうか。

  • 黒湖大蛇行

    黒潮が長期間大きく南に蛇行すると、わたしたちの生活にどのような影響があるでしょうか。

  • 海洋酸性化

    海洋酸性化で特に困っている生物がいます。どのような生物でしょうか。

  • 磯焼け

    磯焼けとはどのような現象でしょうか。

  • 北極海水減少

    2021年に日本で北極科学大臣会合を開催します。現在のペースで気温が上がると21世紀中頃には何が起こるでしょうか。

  • 地球温暖化

    地球温暖化により、近年我が国にどのような影響があったでしょうか。

広大な海は、熱や二酸化炭素を吸収し、地球温暖化をはじめとする急激な気候の変化をやわらげて、生命が暮らす環境を維持する調整役です。
水温や塩分濃度など、海が今どういう状態なのかを知ることは、気象や気候変動などの予測に不可欠です。

地球環境と海洋の関わり
やわらげる海
COLUMN 海は、地球の緩衝役で調整役。二酸化炭素を吸収し、急激な環境変化をやわらげる。
COLUMN

 巨大な体積をもつ海は、地球上で起きることの緩衝役・調整役としても働いている。現在起きつつある地球温暖化がその重要な一例である。海には温室効果ガスである二酸化炭素が、1リットルにつき平均0.1グラムあまり溶けている。海に溶けた二酸化炭素は、総量で150兆トンにも及ぶ。これは大気中に含まれる二酸化炭素の約50倍に達する量である。しかし、海は海面を通して大気と常に二酸化炭素をやり取りしている。海は一年間に二酸化炭素を25億トン 程度吸収しており、これは化石燃料の燃焼や土地利用の壊変などを通して人類が排出する二酸化炭素のおよそ3分の1に当たる。海は、地球温暖化をはじめ急激な環境の変化を和らげ、生命が暮らす環境を維持することにも大きく貢献している。
 その一方で、海洋に吸収される熱は年々増加し、海水膨張により海面上昇(1年に3ミリメートル以上)をもたらしている。地球温暖化にともなう氷河・氷床の融解とあわせて生じる海面上昇は、 21世紀には1メートルあまり上昇する可能性がある。近い将来に起こる海面上昇は、多くの人々が海岸沿いの低地に暮らすわが国にとって、大きな脅威となるだろう。
 その一方で、海に溶けた二酸化炭素は海水を酸性化させ、炭酸塩の殻をもつ生き物を中心に海の生態系を脅かしつつある。特に北極海や南極をとりまく南大洋では、近年環境が大きく変化している。海氷で覆われる面積は、地球温暖化の影響により年々縮小し、それが地球の光反射率を下げて気候温暖化に拍車をかける。それにとどまらず、大気との間での熱収支やガス交換、海水の流れ、栄養塩など、気候から物質循環まで幅広く環境に作用している。また近年の温暖化は北極海の低気圧を強化し、わが国を含む北半球中緯度の大気循環にも大きな影響を与えている。
 海陸の境界である沿岸域は多くの生物活動が営まれるところでもある。そこでの海陸の熱的コントラストに伴い生じる気象・気候現象が、生態系や人間の社会活動にも大きく影響している。陸から運ばれてくる物質は、沿岸の干潟や藻場で浄化される。しかし近年の埋め立てなどによって,その機能はどんどん失われており,その結果陸地の人間活動の影響が沿岸域で緩和されることなく外洋へと広がっていく。

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潜在する海洋資源

たくわえる海
  • 海底資源

    日本近海の海底資源やその性質、用途などを調べてみましょう。

  • 製塩業

    塩はどのように製造されているでしょうか。また、海水には塩以外に何が溶けているでしょうか。

海水は塩をはじめ多くの物質を含むほか、海底には、次世代のエネルギーとしても期待される物質や、
その多様な性質でわたしたちの生活を支える貴重な海洋資源が眠っています。

潜在する海洋資源
たくわえる海
COLUMN 人々の暮らしにも大きな影響を及ぼす、海の巨大なエネルギー。

 海は大気の1000倍もの熱容量をもち、そこには太陽から与えられたエネルギーが大量に蓄積されている。この巨大なエネルギーをもつ海は、気候変動を含む地球上で起きる自然現象の時間スケールを決めている。たとえば、海水は黒潮や親潮といった海流だけでなく、深層循環や中規模渦など多様な時間スケールの海水の動きを生み、物質の輸送をコントロールしている。こういった海水の動きは、地球上の気候を決めるうえで重要な役割を果たしている。海が蓄えるエネルギーはまた、身近な気象現象を駆動するエンジンでもある。特に低緯度海域の大気中の水蒸気の供給源とする台風や豪雨をもたらす原因として、人々の暮らしに大きな影響を及ぼしている。
 海水1リットルの中には、約35グラムの塩が含まれている。私たちの食事に欠かせない塩の多くは海水から得られ、それは塩素やソーダは工業原料などとしても用いられてきた。海水には、金、銀、白金などの希少価値の高い金属も溶けている。それらの濃度は非常に低いとはいえ、海水が巨大な体積をもつことを考えると、総量としてはきわめて大きなものになる。
 海に溶けているこういった塩は、海面から飛沫として年間1.5×109トンものエアロゾル粒子も生み出している。この粒子を核とした雲が生成されることで太陽光の反射率(アルベド)が低下し、気候に作用する。エネルギー、二酸化炭素、塩などを通して、海は気候へ影響を与えている。
 海水に溶けた物質の一部は、海底に日々沈殿している。それが堆積物となり、長い海の歴史・地球の歴史の記録媒体となる。そんな堆積物からはマンガン団塊、コバルトリッチクラスト、レアアース泥といった鉱物資源も見出されている。また海の温泉、つまり熱水噴出口で析出する熱水鉱床も見出されてきた。高温・高圧下にある熱水が急冷されることにより、熱水中に溶けていた元素を析出させる自動装置とも言える。人類社会にとって重要な元素を高濃度で含むこれらの鉱物資源は、わが国のEEZ内からも数多く見出されている。
 人類が20世紀に大きく繁栄した礎である石油を生み出したのも海である。かつて海に暮らしていた生物の遺骸が堆積物の中で熟成され、その一部から石油が生まれた。海底下には、人類社会にとってエネルギー源となるメタンもハイドレートとして多量に埋蔵されている。こういった炭化水素資源は、海底下で微生物や熱の作用によって生みだされたものである。

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海洋の技術

海を理解し、利活用する技術

地球環境、地震・火山活動のメカニズム、海洋生物、鉱物などについて詳しく調べ、
海への理解を深めるための技術の開発は、わたしたちの生活を豊かにしてくれる大きな可能性を秘めています。

海洋の技術
海を理解し、利活用する技術
COLUMN 海洋に秘められた機能を知るためには、海洋研究船が欠かせない。

 海の機能を詳細に観測し解析するためには、多様なツールが必要となる。
 海洋に秘められた機能を知るためには、海洋観測船は欠かせない。海洋研究開発機構では現在計7船を運行し、それに有人潜水艇、無人探査機を併せて研究開発を行っている。また、海域で地震を観測するネートワークは、記録された地震活動の震源の正確な決定に役立つとともに、地殻変動・津波・海底地すべり・スロー地震など様々な現象の理解にも役立てられている。こういった観測網が展開されていない海域でも、津波や地殻変動を検知するために音響通信を活用したリアルタイム観測システムが開発されている。海において音は重要なツールなのである。
 もう一つの欠かせないツールが海で得たデータや試料の分析・解析技術である。高速コンピュータを用いたシミュレーションは、「4Dアース」の仮想世界で来たるべき地球の未来を予測する。今後起きる気候変動だけでなく、地震発生サイクルの数値シミュレーションや海洋生物資源の予測に至るまで多様なアプリケーションをもつツールである。また高度な分析技術は、海水・生物・堆積物などといった海の物質の中に元素・同位体組成として刻まれた記録を介し、現在そして過去の海について物語ってくれる。さらに、深海に生息する様々な生物の飼育技術もまた、深海に生息する生き物の機能を知るために必須の技術となる。このように、海がもつ機能を明らかにするためには、単に既存の技術の応用ではなく、その研究開発の中から生み出された技術が数多く利用されている。
 海と私たち人類の繋がりは歴史的に深く、海は多様な文化の形成と変遷にも大きく寄与してきた。観光立国としての日本、ユネスコ無形文化遺産である和食などは、海の機能による間接的な恩恵でもある。マリンレジャーなどのレクリエーション、教育の場としての機能も忘れてはならない。
 現在私たちが知る限り、宇宙最大の水溜まりである海は、宇宙の特異点として無数の機能を担っている。人類は海と運命共同体なのである。

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海洋の豊かな生態系

生息場としての海

約40億年前、最初の生命は海の中で生まれました。海は多種多様な生物を育むゆりかごとして数えきれない生命を支えています。
深海に生きる生物には、ちょっと変わった姿のものやすごい能力をもつものもいます。

海洋の豊かな生態系
生息場としての海
COLUMN 海は、多様な生物が生まれる場。持続可能で豊かな海を守るために。

 生命は、今から40億年ほど前に海の中で生まれ、それ以降海は、多様な生物種が生まれる場となってきた。特に深海の温泉ともいえる熱水噴出口では高温かつ高圧の極限環境が形成され、そこには摂氏122度まで生息できることが知られている特殊な微生物も発見されている。冷湧水(海の泉)付近や深さ数キロメートルの堆積物中にも、化学エネルギーを利用する古細菌を含め多様な生き物が活動している。そんな特殊な環境では、共生という生き物同士を結ぶメカニズムが大きな力を発揮している。わが国の近海に多く分布するメタンハイドレートは、こういった堆積物中に生息する微生物の活動によってその多くは生み出されている。高圧下の極限環境に生息する様々な生き物とその生理機能の探索は、深海という場を理解するうえで、欠かせないものである。
海の生き物からは、医薬品や洗剤などの生活必需品も生まれてきた。海は、機能性素材や新しい研究ツールやそのシーズ探しにとっても重要な場である。多様な生物が多様な物質を合成しているのが海であり、その可能性の探索は今後も続くだろう。
 海はその懐の深さゆえ,多様な生態系サービスを提供している。これは海の機能の重要な一面である。まず,私たちの食糧を生み出す場でもある。私たちが口にする海の幸,つまり魚介類の多くは,元を辿れば無機物から有機物を作り出す光合成によって固定されたものである。そして光合成生物のバイオマスは、主として海洋表層に供給される栄養(主に窒素と鉄)に依存している。
 植物として固定された太陽エネルギーや「ブルー・カーボン」は、食物連鎖を通して私たちの食糧になる魚類へと繋がっていく。マグロなど一部の魚種は国際資源管理の対象となっているが、人類への食糧供給と海洋環境の維持という一見相反する課題への取り組みでもある。将来にわたって持続的な食糧の供給につなげるには、海洋生物の分布と密接に関わる海洋場(餌や水温など)を十分に理解することが重要である。
 近年、現在世界人口の都市集中は加速的に進んでおり、特にアジアやアフリカでは沿岸部に立地するメガシティへの人口集中は著しい。海のもつ重要な機能の一つは希釈効果とはいえ、人類が生み出し海に流した物質はあまりに多量である。人類による汚染は、特に沿岸域の生態系の壊変や生物多様性の喪失を通して、生態系サービスの低下につながっている。その結果として沿岸部では富栄養化が引き起こされ、赤潮が頻発するようになっている。また、深海底は人類が海に流す物質の終着点となる。実際、日本近海の深海からコンビニの袋などが潜水艇による調査によって見出されてきた。特に近年、海洋におけるプラスチック、原油、難分解性の有毒な化学物質などによる汚染は大きな問題になっている。プラスチックは、生物濃縮性をもつ化学物質の運び屋としても機能する。こういった物質はゆっくりと分解されるものの、人類の活動によって付加される量がそれを大幅に超えている。海がもつ自然の浄化作用は、海の重要な機能であるが、その詳細はいまだに知られていない。
 こういった汚染問題も含め、海洋環境のレジリエンスの詳細を知ることは、持続可能で豊かな海を守るために重要な知見である。海の詳細な解析はもちろんのこと、堆積物に残された記録も地球環境のレジリエンスについても教訓を与えてくれる。

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海域における地震・火山活動

活動する海

我が国は、地球を覆う複数のプレートの境界に位置する地震・火山大国です。
海域の地震や火山の実態を解明し、未来を予測することは、わたしたちのくらしを守る防災・減災に役立ちます。

海域における地震・火山活動
活動する海
COLUMN 海は、地球ののぞき窓。海底とその下を調べれば、地球の内部がわかる。

 海は地球の覗き窓でもある。わが国は、地球の表面を覆ういくつかのプレートの境界に位置し、地震大国・火山大国である。特に南海トラフや日本海溝といったプレート沈み込み帯では、プレート運動が巨大地震を引き起こし、それがさらに海底地滑りなどを通して津波を誘発する。再来が危惧されている南海トラフ地震をはじめ、地震・津波ハザードの評価そして防災のために、わが国の近海の地下構造は必須の知見である。海は、そういった自然災害を予測し、被害を軽減するために重要な場を提供している。実際、得られた知見は国や地方自治体による地震・津波被害想定や現状評価のための情報として提供され、防災・減災に役立てられてきた。
 南海トラフや日本海溝といった沈み込み帯ではプレート運動により、海洋底に降り積もった堆積物が海水とともに地球内部に運ばれている。また海溝付近では、プレートに生じた亀裂を通して、地球内部に水がもたらされる。こういった物質は、大地震を引き起こす断層において潤滑剤として働くだけでなく、岩石の融点を下げてマグマを生む。プレートの沈み込みにより引き起こされる火山活動の多くは、溶岩・火砕流・噴煙等を直接大気に放出し、災害を発生させ環境に影響を与える。さらに地球深部に沈み込んだ水は、マントルの粘性を著しく低下させてマントルの対流に影響を与え、地球史を通じて地球内部の熱的進化と表層のテクトニクスを支配する要因の一つとなっている。こんな地球の解剖学にとって、非常に魅力的な場を提供するのが海なのである。
 また堆積物には、過去の火山活動や地震なども精密に記録されている。地球の長い歴史を知る上で、地球内部活動と海との関係は非常に重要な要素である。マントル対流が駆動するプレート運動や時に引き起こされる巨大な火成活動は、海洋の存在と相まって地球表層と内部の間の炭素循環を駆動している。

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海の豆知識

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