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「しんかい6500」試験潜航 YK17-06 レポート

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定期検査工事と試験潜航YK17-06航海レポート

2017/3/20 - 3/30

『定期検査工事』
定期検査工事の風景
写真1:定期検査工事の風景
「しんかい6500」に搭載された機器が全て取り外され、チタン合金製の骨組みと耐圧殻だけとなった状態(2017年12月中旬頃)

「しんかい6500」は、毎年3か月ほどかけて大掛かりな検査工事を実施しています。検査工事は、例年実施する中間検査工事と5年毎に行われる定期検査工事とに分けられます。今回は、定期検査工事で中間検査工事よりも更に大掛かりな検査工事が実施されました。昨年の11月21日から今年3月17日の間に「しんかい6500」に搭載されている全ての機器を取外し、消耗部品の交換や調整作業などを実施後、また潜水船を元通り復旧しました。

耐圧殻内の配置検討
写真2:耐圧殻内の配置検討
耐圧殻内に組み込まれるバードケージ(殻内で装置を取り付けるための骨組み)に装置原寸大のモックアップをどの様に取り付けるか、何度も取付場所を変えながら検討した。

今回の定期検査工事では、例年の開放点検に加えて耐圧殻内の大掛かりな改修工事も行い、搭載されている装置類を耐圧殻の上部に集中する配置替えも実施しました。その目的は、装置類を耐圧殻内上部に集中させることでパイロットや研究者の観察スペースである耐圧殻下部に空間的なゆとりを設けることです。この改修により研究者の観察環境が大幅に改善されました。詳しくは、4月に実施する訓練潜航YK17-07の航海レポートで紹介します。

『試験潜航の目的』
総合指令室
写真3:総合指令室
支援母船「よこすか」船上の総合指令室で潜水船から「異常なし」の報告を待つ

2017年3月20日から3月30日までは、駿河湾や小笠原諸島海域で6回の試験潜航を実施しました。この試験潜航では、定期検査工事で開放整備された全ての機器が、正常に作動するか、その健全性を確認するために実施されました。

自分たちで自信を持って整備したとは言え、試験潜航は開放整備後の最初の潜航となるためいつもながら緊張します。潜水船オペレーションを指揮・監視する総合指令室【写真3】では、固唾を飲んで「しんかい6500」からの報告を待ちます。

『こちら「しんかい」、着底した異常なし。深さ6500m、底質・・・』 水中通話機から聞こえた異常なしの報告に一同ほっと胸をなでおろします。水深6500mの潜航でも大きな不具合なく無事に試験潜航を終えることができました。2017年度の調査潜航に向け万全の整備が完了したことを確信した瞬間です。

『外部救難訓練』
救難ブイ
写真4:救難ブイ
「しんかい6500」上部の白く丸い部分が救難ブイ、円錐台の形をしておりタフレ索を巻いた状態で潜水船に搭載されている。救難ブイから潜水船前方に延びているのがタフレ索で潜水船に固定されている。

試験潜航航海では、潜水船整備後の健全性を確認する試験潜航のほか、外部救難訓練も併せ実施されました。「しんかい6500」には、安全を確保するため様々な装置が搭載されています。そのひとつが、救難ブイです。【写真4】 「しんかい6500」の潜航中、最も注意しなければならないのが海底拘束です。海底拘束とは、潜水船が岩と岩の間に挟まったり、深海に捨てられた漁具ロープや網に絡まったりと原因は多々考えられ、自力(船体浮力)での浮上が困難となった状態をいいます。そんな海底拘束の際、最終手段として使用されるのが、救難ブイです。

救難用ウィンチ
写真5:救難用ウィンチ
潜水船格納庫に搭載されおり約8000mのワイヤが巻かれている。

救難ブイには、タフレ索という強靭なロープが巻かれており潜水船から切り離されると50m直上に浮き上がります。潜水船から救難ブイまでタフレ索が50m立ち上がった状態となります。この50mのタフレ索を支援母船「よこすか」から降ろされる救難索で引っ掛けるのが救難方法です。幸い「しんかい6500」では、そのような状態に至ったことは一度もありませんが、万一に備え行うのが、外部救難訓練です。

救難用スマル
写真6:救難用スマル
この救難用スマルで潜水船と救難ブイの間のタフレ索を引っ掛ける

この救難訓練では、音響トランスポンダを事前に海底に設置します。このトランスポンダ本体と錘(鉄チェーン)との間は、50mのロープがつながっており、これを海底に拘束された潜水船に見立てて救難する訓練となります。

支援母船「よこすか」には約8000mのワイヤを巻いた救難用ウィンチ【写真5】が搭載されており、そのワイヤの先端に全長約400mのからみ索と呼ばれるロープ、そのからみ索の位置を測位するためのトランスポンダや大きな釣針のような救難スマル【写真6】を等間隔で5本取り付け、母船側の準備は完了です。

あとはからみ索を海底拘束されている潜水船の横まで巻出し、潜水船の回りを周回させて救難スマルが、1本でも救難ブイ下のタフレ索に引っかかり絡めれば巻き上げるといった単純な仕組みです。

回収に成功したトランスポンダ
写真7:回収に成功したトランスポンダ
駿河湾2000mの海底からトランスポンダの回収に見事成功した。スマルにぶら下がっている黄色い筒状のものが、潜水船に見立てたトランスポンダ。注)潜水船の場合は、海底での拘束が解けると自身の浮力で上昇を開始する。

これまで実施された外部救難訓練では、ターゲットとして海底に設置したトランスポンダ回収を100%の確率で成功しています。もちろん今回も成功しました。【写真7】

単純な仕組みほど信頼性が高いのかもしれません。実際に深海に潜航している我々にとっても信頼と安心感が持てる救難システムです。

【潜航情報】
    3月20日 No.1473DIVE
  • 潜航海域:横須賀港第4区
  • 観察者:荒木 英二(三菱重工業)
  • 船長:小椋 徹也
  • 船長補佐:大西 琢磨
    3月21日 No.1474DIVE
  • 潜航海域:駿河湾戸田沖
  • 潜航深度:1400m
  • 観察者:千田 要介(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:大西 琢磨
  • 船長補佐:松本 恵太
    3月24日 No.1475DIVE
  • 潜航海域:小笠原諸島東方
  • 潜航深度:6500m
  • 観察者:小椋 徹也(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:鈴木 啓吾
  • 船長補佐:大西 琢磨
    3月26日 No.1476DIVE
  • 潜航海域:駿河湾松崎沖
  • 潜航深度:2000m
  • 観察者:千葉 和宏(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:植木 博文
  • 船長補佐:松本 恵太
    3月27日 No.1477DIVE
  • 潜航海域:駿河湾戸田沖
  • 潜航深度:1400m
  • 観察者:西郷 亮(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:鈴木 啓吾
  • 船長補佐:千田 要介
    3月29日 No.1478DIVE
  • 潜航海域:南海トラフ北縁部
  • 潜航深度:3600m
  • 観察者:石川 暁久(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:千葉 和宏
  • 船長補佐:植木 博文
【航海情報】
3月20日
潜水船搭載、JAMSTEC出港
横須賀港内、沈降試験(第1473回)、駿河湾B海域向け発航
3月21日
駿河湾戸田沖着、試験潜航1400m(第1474回)、清水港外投錨
3月22日
整備日、清水港外抜錨、小笠原諸島D海域向け発航
3月23日
小笠原諸島向け回航、整備日
3月24日
小笠原諸島D海域着、試験潜航6500m(第1475回)、駿河湾B海域向け発航
3月25日
駿河湾B海域向け回航、整備日
3月26日
駿河湾松崎沖、試験潜航2000m(第1476回)
3月27日
駿河湾戸田沖、試験潜航1400m(第1477回)
潜水船揚収後、外部救難訓練準備作業及び艤装作業
3月28日
駿河湾松崎沖2000mにて外部救難訓練
外部救難訓練終了後、からみ索片づけ及び艤装解除
3月29日
南海トラフ北縁部到着、試験潜航3500m(第1478回) 潜水船揚収後、横須賀港向け発航
3月30日
入港(横須賀新港ふ頭3号桟橋)

櫻井 利明(運航チーム司令)