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「しんかい6500」研究航海 YK17-17 レポート

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YK17-17調査潜航

2017/8/2 - 8/10

『YK17-17 航海レポート』

YK17-17調査航海は、沖縄県石垣島の北北東沖約70kmに位置する多良間海丘で2回の調査潜航を実施しました。調査の目的は、沖縄トラフ多良間海丘の深海熱水活動域に存在する「酸化鉄皮膜(鉄マット)地帯」にて、鉄をエネルギー源とする微生物の種類や生態、そして機能を明らかにすることです。

8月2日に那覇港を出港してYK17-17調査航海が始まりましたが、台風5号が沖縄・奄美地方に接近する気象予報が出ていたため、台風の影響を受ける前に2回の調査潜航を終了すべく、出港翌日から2日間だけという短期決戦での調査となりました。

この2日間で「しんかい6500」に課せられたミッションは、主に3つです。一つ目は、まだこの海底で確認されていない高温熱水噴出域を発見し、沖縄で唯一存在する巨大な鉄マットの成因の謎に迫ること、二つ目が研究分析のための多くの試料を採取すること、そして三つ目が過去の調査で海底設置した微生物現場培養器の回収と新たな培養器の設置です。

多良間海丘では、これまで無人探査機「ハイパードルフィン」や「かいこう」による調査が、2009年から2015年にかけて5回ほど実施されました。これらの調査によって、低温の熱水噴出を伴う生物群集域や鉄マットなどは、観察されていましたが、高温の熱水を噴出するチムニー群の発見には至っていませんでした。しかし、これまでの潜航調査において、毎回非常に濃いプルームが見られていたことから、高温熱水噴出域の存在が予想されていました。今回の調査では、その熱水噴出域の場所を特定し、高温の熱水試料を採取することが、ミッションの中で重要なポイントでした。このミッションは、なんと第1回目の潜航で見事達成されました。

高温の熱水を噴き上げるチムニー群を発見し、立ち並ぶチムニー群に船体を接触させないよう潜水船の操船には大変に苦労しましたが、熱水試料の採取に成功し重要なミッションをクリアすることができました。

潜水調査船は、無人探査機の様に母船とケーブル(光・電気複合)が繋がっていない分、海底を自由に航走できます。また人間が肉眼で直接海底を観察するため微細な海底地形の変化や微かな濁りの変化を感じ取り、不思議と「第六感」が働きます。潜水調査船は、この様な探索調査に適していると感じます。

盛り沢山のペイロード機器
写真1:盛り沢山のペイロード機器
潜水船に搭載された研究者持込みペイロード装置。左右のサンプルバスケットだけでは、搭載しきれず耐圧殻下のスペースやマニピュレータの後ろのスペースまで使い2日掛かりで搭載した。
右サンプルバスケットの半透明のホース状のものは深海生物を吸い取るスラープガン。

2つ目のミッションは、海水・堆積物・チムニー・生物など多くの試料採取です。そのため潜水船のサンプルバスケットや耐圧殻下のペイロードスペースには、盛り沢山の研究機材が搭載されました。元々の計画が2回だけの調査潜航だったため、研究者からは、少ない潜航でより多くの成果を出すため、多くの機材を使用したいという要望がありました。そのためペイロード装置の搭載作業には那覇の出港前日から取り掛かり、丸2日間を要しました。【写真1】

ペイロード装置の搭載は、海底で行う作業の順番を考慮し、潜航するパイロット自身が搭載位置や装置の向きなどを調整しながら搭載します。今回の調査でも研究者が要望していた多くのサンプルを漏れなく採取することができました。

3つ目のミッションが、過去に無人探査機「ハイパードルフィン」で海底設置した微生物現場培養器を回収することです。しかし、これが意外と難しい作業となります。みなさんもご存じの通り海中では、電波が通らないため測位には、水中音響を利用します。

音響測位は、その海域の鉛直方向の海水温分布が大きく影響しますが、その他に船舶ごとの測位誤差も影響してきます。水深にもよりますが、その誤差は時に100メートルを超すことも珍しくありません。「ハイパードルフィン」で設置した現場培養器は、支援母船「なつしま」で測位したものです。案の定、予想していた場所に行っても容易に現場培養器を見つけることができません。

無風での潜水船オペレーション
写真2:無風での潜水船オペレーション
台風5号が徐々に接近しているが、調査海域はCalm(無風の状態)での調査潜航となった。嵐の前の静けさなのか?2日間の調査とも穏やかな潜航日和での調査だった。

晃晃とライトを照らしても見える範囲は10m程度です。ゆっくりと捜索範囲を広げながら海底を濁らせないように慎重に捜索します。この回収作業は、今回の調査で一番時間を費やしましたが、2台の現場培養器を見付け出し、無事回収することができました。

今回の調査は、台風5号接近のため、わずか2日間で2回の調査潜航という短期決戦でしたが、新たな熱水サイトも発見され研究者が要望した多くの試料も万遍なく採取でき、実り多い調査航海だったと研究者も喜んでいました。

もし台風5号の動きが南寄りで、もう少し速度が早かったら、今回の調査潜航は全滅していたかもしれないことを考えると、とても幸運な調査航海だったと思われます。

調査を終えた「よこすか」は、8月5日に石垣港へ入港し研究者は満足げに下船しました。採取された多くの試料は、8月10日JAMSTEC帰港後に陸揚げされ、分析や実験が進められるとのことです。

『潜水船の陸揚げ』
JAMSTECに陸揚げされる潜水船
写真3:JAMSTECに陸揚げされる潜水船
潜水船を陸揚げする時は、母船「よこすか」をJAMSTEC専用桟橋に船尾付けする。
潜水船を海面に着水させる要領でトレーラーに載せて潜水船整備場へ搬入する。

8月10日JAMSTEC帰港後の潜水船陸揚げをもって今年の「しんかい6500」調査は、終了となります。支援母船「よこすか」から降ろされた「しんかい6500」は、潜水調査船整備場で耐圧殻内機器の整備やマニピュレータの開放整備等を実施する予定です。12月からは、法定検査である中間検査工事が始まります。

しばらくの間、「しんかい6500」の航海はありませんが、整備期間中も適宜、整備進捗状況などお知らせしたいと思います。

【潜航情報】
    8月3日 No.1508DIVE
  • 潜航海域:南部沖縄トラフ多良間海丘
  • 観察者:牧田 寛子(JAMSTEC)
  • 船長:千葉 和宏
  • 船長補佐:千田 要介
    8月4日 No.1509DIVE
  • 潜航海域:南部沖縄トラフ多良間海丘
  • 観察者:山中 寿朗(東京海洋大学)
  • 船長:鈴木 啓吾
  • 船長補佐:西郷 亮
【航海情報】
8月2日
研究者15名乗船
那覇出港、調査海域向け発航
8月3日
調査海域(多良間海丘)到着、XBT計測、MBES事前調査
調査潜航(第1508回)、MBES広域地形調査(ウォーターカラム調査)
8月4日
調査潜航(第1509回)、台風5号接近のため石垣港向け発航
8月5日
石垣入港、研究者3名下船、潜水船整備作業、「よこすか」清水補給
8月6日
石垣港、研究者12名下船、潜水船整備作業
8月7日
石垣出港、横須賀港向け発航
8月8日
横須賀港向け回航
8月9日
横須賀港向け回航
8月10日
JAMSTEC入港、潜水船陸揚げ、研究機材及び採取試料陸揚げ

櫻井 利明(運航チーム司令)