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2016年度定期検査工事における耐圧殻内の改修工事について

「しんかい6500」は、2016年度の定期検査工事(2016年11月21日~2017年3月17日)において、2018年度を目標としたワンマンパイロットでの運用(パイロット1名、研究者2名。現状はパイロット2名、研究者1名)を見据え、潜航時に頻繁に使用する機器等をパイロットが体勢を変えることなく操作できる操作盤の配置変更、潜水船の状態や位置等の情報を手元の可搬式タブレットでの表示や耐圧殻内の下部に配置されていた酸素ボンベ等の機器類を上部に移設することにより、耐圧殻内における居住性の向上を図る等、1989年の完成以来初めて耐圧殻内の機器配置の変更や新しい機器への入れ替え等の大改修工事を行いました。
この改修により研究者の観察環境が大幅に改善されました。

耐圧殻内の改修工事の様子(360度動画)

各部紹介

各部名称
耐圧殻(たいあつこく)
耐圧殻(たいあつこく)
1平方センチメートルあたり約680kgfという水圧がかかる深海で、3名の乗員が安全に調査活動を行えるように、そして繰返し何度も深海を往復できる高い信頼性を得るために、コックピットは内径2.0mの球(耐圧殻といいます)の中にあります。この球は軽くて丈夫なチタン合金でできています。高圧下の深海では僅かなゆがみも許されません。なので、この球の真球度は1.004、外径は僅か±2mm以下の製作精度で製造されています。
浮力材
浮力材
有人潜水調査船は浮くように造られています。と言うと不思議な感じがしますが、これが軍用潜水艦と大きく異なる点です。「しんかい6500」をただ単に海に入れても絶対に沈みません。この浮くように造られた潜水船に「おもり(バラスト)」を積むことで潜航します。
空中での重さが約26tもあるこの潜水船を海中で浮くようにしているのが、浮力材(シンタクティックフォーム)です。これは、100ミクロン以下の中が空洞の小さなガラス球(ガラスマイクロバルーン)をエポキシ樹脂で固めたもので、深海の高圧環境に耐えうる強度と浮力を持ったこの浮力材が、潜水船の隙間という隙間にぎっしり組み込まれています。
マニピュレータ
マニピュレータ
耐圧殻内からパイロットが遠隔操作をするロボットハンドです。岩石の採取、柱状採泥器を用いた柱状コアの採取、採水器による熱水噴出口からの熱水の採取、各種ペイロードの操作等海底での作業になくてはならないものです。チタン製で軽量、高強度であり、マスター・スレーブ式油圧7軸制御なので操作性が良く、比較的容易に複雑な作業が行えます。
※可動する様子を写真でご覧いただけます。
覗き窓
のぞき窓
有人潜水船の最大の特徴は「人が乗って直接海底を観察できる」ことであり、その特徴を担う重要な部品が覗き窓です。覗き窓は全部で3個装備されていて、乗員はこの窓から海底を見て潜水船を操縦したり調査作業を行ったりします。深海の高い水圧に耐える必要がある一方、水圧によって僅かに変形する耐圧殻に追従する柔軟性も不可欠なので、この覗き窓は厚さ138mmのメタクリル樹脂によってできています。
主蓄電池
主蓄電池
海の中には空気がありませんから、エンジンは使えません。そこで「しんかい6500」は専用に開発された2台の油漬均圧型リチウムイオン電池によって電力をまかなっています(2004年から。それ以前は酸化銀亜鉛電池)。潜航で使用した電池は潜航終了後、夜の間に充電できるので、効率よく潜航作業が行えます。
投光器
投光器
水深200mを過ぎると太陽の光はほとんど届かなくなり、深海では全くの暗闇です。「しんかい6500」の投光器は1灯で自動車の強力なヘッドライト3~4個分の明るさがあります。しかしマリンスノーなどの懸濁物が少なく海水の条件が良い海域で、全灯(7灯)を使って照らしても視程は10m程です。
※可動する様子を写真でご覧いただけます。
同期ピンガ
同期ピンガ
母船には「音響航法装置」が装備されており、数秒の一定周期で連続的に自動で潜水船の位置を知ることができます。同期ピンガはこの音響航法装置のために一定周期で音を発します。
研究調査では海底で何かを発見することがありますが、この時の位置を記録することはとても重要です。陸上ではGPSなどが使えますが海中では電波が使えないため、代わりに音波を使って三角測量を行っています。
水中通話機
水中通話機
「しんかい6500」の特徴の一つに「母船とつながっていないこと」が挙げられます。これにより何からも引っ張られることなく自由に動き回れますが、母船との通信は無線で行うことになります。水中通話機は電波の代わりに音波を使った無線電話です。
スラスタ
スラスタ
水中で自由に動き回るために水を噴き出す装置です。筒の中にプロペラが入っており、電動機で動かします。水平スラスタ、垂直スラスタ、主推進装置(メインスラスタ)とそれぞれ2基ずつ合計6基を装備しています。
※可動する様子を写真でご覧いただけます。
TVカメラ、スチルカメラ
ハイビジョンカメラ、デジタルスチルカメラ
「しんかい6500」は人が深海へ行くために作られた船ですが、より多くの人へ海底で見たものを伝えるために映像を記録に残しています。現在はハイビジョンカメラ2台、デジタルカメラ1台を装備しています。調査目的に応じて追加のカメラを搭載することもありますが、こうした必要に応え易いことも大きな耐圧殻を持つ潜水船ならではと言えるでしょう。
※可動する様子を写真でご覧いただけます。
サンプルバスケット
ハイビジョンカメラ、デジタルスチルカメラ
「しんかい6500」は、観測機器や岩石・生物などのサンプルを搭載するためのサンプルバスケット(可動式)を前方左右に1個づつ装備しています。搭載可能重量は左右とも100kgfです。搭載可能重量は、潜航深度により潜水調査船の浮力が変化する為、目標とする深度により減少する場合があります。
※可動する様子を写真でご覧いただけます。

支援母船「よこすか」

支援母船「よこすか」

「しんかい6500」はそれ単体では機能しません。調査航海に出るときは必ず支援母船に乗せて世界中の海へ調査に出かけます。その支援母船が「よこすか」です。「よこすか」には潜水船を整備するための格納庫、着水揚収するためのクレーン、潜水船の位置を測る測位装置、そして研究者が海底で採取したサンプルを研究するための研究室(ラボ)などがあり、「しんかい6500」の基地であると同時に「浮かぶ研究所」の役目も担っています。
「しんかい6500」は年によって行き先は変わりますが、おおよそ年間180~200日程度はこの「よこすか」と一緒に世界中の海で調査研究を行っています。

乗船者

乗船者

「しんかい6500」には2人のパイロットと1人の研究者の合計3人が乗船し、海底で色々な調査研究を行っています。巨大地震が起こるメカニズムや地球内部の動きを調べ、あるいは光がなく高圧低温という特殊環境下に息づく生き物たちの生態を調べることで、深海という窓を通じて地球全体の成り立ちやしくみを研究しています。
ハッチ(出入口)を閉めてしまえば、海底まで行っても中は大気圧のままなので、乗員は水圧の影響を全く受けませんし、減圧症の心配も全くありません。もちろん、潜水船に乗るための特別な訓練は一切不要なので、これまでに老若男女色々な方が潜航しています。

スペック

全長 9.7m [9.5m]
2.8m
高さ 4.1m [4.3m](垂直安定ひれ頂部まで)
空中重量 26.7トン
最大潜航深度 6,500m
乗員数 3名(パイロット2名/研究者1名)
耐圧殻内径 φ2.0m
通常潜航時間 8時間
ライフサポート時間 129時間
ペイロード 150kg(空中重量)
最大速力 2.7ノット [2.5ノット]
搭載機器 ハイビジョンテレビカメラ(2台)
CTD/DO1台(塩分、水温、圧力計、溶存酸素の測定器)
デジタルカメラ(1台)
海水温度計(1台)
マニピュレータ(7関節2台)
可動式サンプルバスケット(2台)
その他航海装置等
※[ ]は旧システム

海底調査の1日

07時00分 作業開始
潜航前チェック
08時20分 乗船者乗り込み
潜水船を格納庫から引き出し、ハッチ閉鎖
Aフレームクレーンを使って潜水船着水
着水後の最終確認
09時00分 潜航開始 毎分40mで降下できますので、最深6500mに潜航する際には約2時間30分かかります。
11時30分 海底到着
調査観測作業
潜航時間を8時間と定めており、日中に潜航開始から海面浮上までを行うことにしていますので、下降・上昇時間を差引いた残りが海底での調査時間となります。したがって、水深が浅いと調査時間が長くとれます。
14時30分 作業終了
上昇開始(離底)
下降と同じ速度で上昇しますので、同じく約2時間30分かかります。
17時00分 海面浮上、揚収作業
Aフレームクレーンを使って潜水船揚収
ハッチ開 潜水船を格納庫へ引き込み
揚収後チェック 主蓄電池充電 消耗品補充 次潜航の準備

※潜航深度6,500mのケース

年次整備工事

「しんかい6500」は1年に1回、母港(JAMSTEC横須賀本部)の整備場で年次整備工事を行っています。この年次整備工事は、潜水船から耐圧殻以外のほぼ全ての機器を取り外して徹底的に点検・整備する大規模なもので、約3ヶ月かけて入念に行います。また、この期間には法律で定められた船舶検査も受けなければなりません。船舶検査は5年に1回の定期検査及び毎年の中間検査からなり、機器毎に数多くの検査項目が定められています。

2016年度定期検査工事の様子