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北極環境変動総合研究センター(IACE)

セミナーのお知らせ

[北極環境・気候・海洋生態系セミナーのお知らせ]

日時
10月9日(金)15:30~16:30
場所
Zoomによるオンライン開催
発表者
八田 真理子(北極環境変動総合研究センター 北極海洋生態系研究グループ)
タイトル
微量金属測定の必要性と新しいポータブル分析法の開発
要旨
海水中の栄養塩・微量金属の分布やその挙動を知ることは、生物生産との関わりや気候変動、人的活動による影響を理解する上で、大変重要である。そのため、私の研究では、海水中の微量金属(鉄、アルミニウム、マンガンなど)と栄養塩成分の分析、その地球化学的挙動についての議論、そして近年では、より簡便でコンパクトな測定法の開発にフォーカスしてきた。

例えば、海洋の生物生産を支える植物プランクトンの成長には、主要栄養塩と呼ばれる硝酸とリン酸が重要である。通常、そのどちらかが不足する場合、植物プランクトンの成長を妨げる。しかし、ある特定の海域においては、これらの栄養塩が多く存在するにもかかわらず、プランクトンの成長が制限されている。これらの海域は、HNLC(the High Nutrient Low Chlorophyll)海域と呼ばれ、全海洋表面の20%にも及ぶ。 John Martin は、このHNLC海域の表層水への鉄添加実験の結果から、鉄が植物プランクトンの成長を制限しているという仮説を提唱した。この仮説は、様々な地球化学者の研究意欲を掻き立て、世界の様々な海域において、鉄の地球化学的挙動の解明研究のきっかけとなった。しかし、鉄は酸化されやすい性質を持つため、その水中溶解度が低く、海水中で濃度が低い。さらに生物や粒子などに摂取・吸着されやすく、すぐに水中から除去されてしまうため、鉄の地球化学的挙動を理解するためには、他の微量成分を共に分析することが必要かつ有効である。有効な他の微量成分として、アルミニウムは、ダストなどの影響を捉えることができるパラメーターであり、マンガンは、大陸棚の堆積物から影響を知る指標となる。そこで、私は今まで、船上フロー分析法を用いて、鉄、アルミニウム、マンガンの濃度を測定してきた。また、この元素は、GEOTRACESプロジェクトのキーパラメーターとしても注目されている。今回は、私が過去14年間を通して関わってきたCLIVARとGEOTRACESで得られた結果を紹介する。

さらに、このような世界規模におけるプロジェクトが活発に行われているにもかかわらず、化学成分に関するデータ数は、アルゴフロートや係留系から得られるデータに比べると圧倒的に少ない。これは、自動式の分析センサーが無く、サンプル自体をクリーンに採取する難しさ、さらには実験室へと持ち帰る必要性のためである。私が使用してきた船上分析法も、その分析法の煩雑さと、使用経験が必要であることから、誰にでも簡単にデータを取得できるとは言い難い。そこで、より簡便な化学成分の測定法の開発は必要不可欠である。そこで、近年は、マイクロ法(microfluidics)を用いた化学分析法の開発を行っている。この方法を用いて、今までに、リン酸、硝酸、鉄などの方法を開発し、今後さらに他の成分への応用を予定している。また、サイズがコンパクトであり、サンプル・試薬・排液量も少ないことから、グリーンケミストリーの観点、さらには、自動in situ分析装置として活用も期待できる。

本セミナーへの参加についての問合せ先:
北極環境変動総合研究センター 北極環境・気候研究グループ
渡邉 英嗣  ejnabe(at)jamstec.go.jp

[北極環境・気候・海洋生態系セミナーのお知らせ]

日時
5月29日(金)15:00〜16:00
場所
Zoomによるオンライン開催
発表者
伊藤 優人(北極環境変動総合研究センター 北極環境・気候研究グループ)
タイトル
海氷の消長を介した物質循環の起点:海氷による物質の取り込み
要旨
海氷は極域海洋の物質輸送において中核的な役割を果たす。南大洋やオホーツク海では海氷中の鉄などの濃度が海水中の値よりも1~2桁大きいことが報告されており、北極海においては内部に多量の物質を取り込んで汚れた色をしたdirty iceと呼ばれる海氷が沿岸域から沖合まで広範囲に存在する。海氷内部の物質は海氷が融解すると海洋へと供給される。この海氷から海洋への物質供給は春~夏期に植物プランクトンのブルーミングが生じる一因とみられている。このように、海氷への物質の取り込み→海氷の漂流による物質の輸送→海氷の融解による海洋への物質の供給:の過程から成る海氷の消長を介した物質循環は極域海洋の生物・化学過程において重要である。この物質循環の起点となる、海氷への物質の取り込みについて、物質の起源やそれらが如何なる過程を経て海氷へ取り込まれるかは未だよくわかっていない。
これまでに自身が行ってきた、チュクチ海やオホーツク海の沿岸沖での係留観測で得られたADCP(超音波ドップラー式流向流速計)のデータを中心とした解析の結果から、厳冬期に沿岸ポリニヤにおいて海中での活発な新成氷(フラジルアイス)の生成や海底堆積物の巻き上げが生じることがわかってきた。この二つの事象が動じに生じれば、フラジルアイスが堆積物を捕獲した後に固化し、海氷の内部へと堆積物由来の物質が取り込まれる可能性がある—suspension freezingと呼ばれるこの一連の過程によって海氷への物質の取り込みを一般的に説明できるのではないかとの仮説に至った。この仮説を軸に、今後は氷上観測や係留観測などの現場観測に基づいて海氷への物質の取り込み過程の一般的な解明を目指す。今回のセミナーでは所信表明として、上記の仮説に至った係留観測のデータ解析に基づく研究結果や、今後の研究の展開について紹介する。

本セミナーへの参加についての問合せ先:
北極環境変動総合研究センター 北極海洋生態系研究グループ
藤原 周 amane(at)jamstec.go.jp

[北極環境・気候・海洋生態系特別セミナーのお知らせ]

日時
1月9日(木)15:00〜16:00
場所
横須賀本部 海洋研究棟4階セミナー室 (401号室)
発表者
村松 美幌 (北海道大学大学院水産科学院 海洋生物資源科学専攻)
タイトル
チャクチ海北東部における太平洋夏季水(PSW)の輸送と変質
要旨
太平洋夏季水(PSW)は、チャクチ海および、その北側の海盆域の海氷減少に寄与していると考えられている。また近年、チャクチ海を北上した太平洋夏季水は、Barrow Canyonを通過後、チャクチ海の陸棚外縁に沿った北西向きのChukchi Slope Currentによって、輸送されていることがわかってきている。本研究では、Chukchi Slope Current付近の観測点HSN (期間1:2003 ~ 2005)・NHC (期間2:2015 ~ 2017)に設置された係留系の観測データから、観測点HSN・NHCにおける太平洋夏季水の移流時期・移流方向を特定し、期間1と期間2で、どのように変化していたのか考察した。さらに、Barrow Canyonの太平洋夏季水と観測点HSN・NHCの太平洋夏季水の平均水温ならびに平均塩分を比較し、輸送過程における太平洋夏季水の性質の変化を定量化し、その要因を考察した。

[北極環境・気候・海洋生態系特別セミナーのお知らせ]

日時
1月9日(木)14:00〜15:00
場所
横須賀本部 海洋研究棟4階セミナー室 (401号室)
発表者
深井 悠里 (北海道大学大学院水産科学院 海洋生物資源科学専攻)
タイトル
太平洋側北極海陸棚域の海底堆積物中における
珪藻類休眠期細胞群集と海氷分布の関係
要旨
太平洋側北極海における植物プランクトンブルームでは,珪藻類が優占する。珪藻類の多くの種は,増殖に不適な環境になると,高い耐久能力を有する休眠期細胞を形成し,海底へ沈降する。海底堆積物中の休眠期細胞群集は,水柱から沈降し,堆積したものであることから,長期的なタイムスケールで珪藻類群集を捉える手段となる。本研究では季節海氷域である太平洋側北極海において,堆積物中の休眠期細胞群集を明らかにし,海氷分布の経年(2017-2018年)および地理変化と,珪藻類群集との関係を明らかにすることを目的とした。解析の結果,2018年のような早期の海氷後退は,春季において植物プランクトン群集の構成種を変化させることが明らかとなった。また,休眠期細胞群集の地理的な分布は,海氷の存在時期の違いに伴って変化しており,その規模は各海域の基礎生産量を概ね反映していた。本研究では,堆積物中の休眠期細胞を調査することで,海氷分布と珪藻類群集との関係を種レベルで明らかにできたと言える。