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北極環境変動総合研究センター(IACE)

セミナーのお知らせ

[北極海洋環境セミナーのお知らせ]

日時
6月20日(木)14:00~15:00
場所
オンライン開催
発表者
西野 茂人(北極環境変動総合研究センター 北極海洋環境研究グループ)
タイトル
中央北極海漁業協定へのJAMSTECの貢献
要旨
中央北極海 (公海)の海洋環境・生態系を保護するのに十分な知識を蓄積し、水産資源の保存・持続可能な利用を目的として、中央北極海漁業協定が 2021年6月25日に発効した。2024年4月には、本協定下の科学者グループ (Scientific Coordinating Group)によって科学調査・監視の共同プログラムの「実施計画」が作成された。「実施計画」では、国際連携 (Synoptic Arctic SurveyやDistributed Biological Obsevatory)の下にJAMSTECが中心になって行った観測の結果 (1,2)から、2040年頃までを視野に入れた今後の観測で鍵となる重点海域が設定された。その海域は、低酸素化・酸性化が進んでいることから、海洋生態系や水産資源への影響が危惧される。

(1)https://www.jamstec.go.jp/e/about/press_release/20231102/
(2)https://www.jamstec.go.jp/e/about/press_release/20160429/

参加についての問合せ先:
北極環境変動総合研究センター 北極海洋環境研究グループ
朴 昊澤 park(at)jamstec.go.jp

[北極海洋環境セミナーのお知らせ]

日時
5月9日(木)14:00~15:00
場所
オンライン開催
発表者
藤原 周(北極環境変動総合研究センター 北極海洋環境研究グループ)
タイトル
北極海の堆積物を含む汚れた海氷「sediment-laden ice」の空間分布パターンと起源:リモートセンシングによるアプローチ
要旨
北極海では「sediment-laden ice (SLI)」と呼ばれる、堆積物を含んだ海氷が広く観測されている。一般的にイメージされるきれいな海氷「clean ice (CI)」とは対象的に、海氷内に含まれる物質の違いから、物質循環に及ぼす影響が異なることが示唆されており、海氷の種類の違いに着目した海氷-海洋相互作用の研究は重要である。本研究では、リモートセンシングを用いて、SLIがどのような場所で生成し、北極海内をどのように漂流するのかを明らかにすることを目的とした。
まずはSLIとCIが卓越する海域を特定した。さらにそれぞれの海氷が卓越するピクセルに対して、後方追跡解析を行うことで、SLI/CIの生成場所をマッピングした。その結果、SLIの多くが東シベリア海からチュクチ海の陸棚域やアラスカ沿岸域で生成することが明らかとなった。また、年齢分布を調べたところ、CIが1年氷から多年氷と様々な年齢分布をとるのに対し、SLIはその多くが一年氷であった。一方で、最も長い距離を漂流したSLIはチュクチ海から北極横断流を通りグリーンランド東岸まで達していた。本研究によって、SLIの生成・漂流・融解過程を介した、物質循環は環北極スケールで起こりうることが示された。

[北極海洋環境セミナーのお知らせ]

日時
4月10日(水)14:00~15:00
場所
オンライン開催
発表者1
神山 一寛(東京海洋大学)
タイトル
北極海カナダ海盆に流入する低塩分な太平洋水の栄養塩濃度とその季節変動
要旨
カナダ海盆の一次生産には、有光層に流れ込む低塩分な太平洋水(S~32以下)による窒素栄養塩の供給が鍵だと考えられる。しかし、海氷の存在により船舶観測が夏に制限されるため、夏以外の栄養塩濃度が明らかになっていない。そこで本研究では、太平洋水のカナダ海盆への流入口であるバローキャニオンの観測点(BCE、水深108 m、深度42 m)において、硝酸塩センサー(SUNA)と、時系列採水器(RAS)、CTD等センサーを係留系に取り付け、低塩分な太平洋水に含まれる窒素栄養塩濃度とその供給フラックスの季節変動と、その要因を調べた。
2021年9月11日から2022年8月28日までの観測の結果、年間を通して低塩分な太平洋水を捉えることに成功した。その溶存無機窒素栄養塩(DIN:硝酸塩+亜硝酸塩+アンモニウム塩)濃度は、夏に低く、秋に増加し、初冬に最高値を示した。冬の間は濃度が頻繁に増減し、春のブルームの後に大きく減少した。DINに占めるアンモニウム塩の割合は夏に6割程度と高く、冬の間に減少した。亜硝酸塩濃度は年間を通して低かった。
DIN濃度と海盆向きの流速から求めた単位面積当たりのDINフラックスは、濃度が高くて海盆向き流速が大きい初冬に最大となった。しかし1月以降は、濃度は高いものの海盆向きの流れが弱まったため、フラックスは小さい値、もしくは負の値となった。一方、夏は低濃度ではあるが海盆向き流速が大きいため、初冬に次ぐ高い値を示した。年間最高DIN濃度を示した秋は逆向きの流れが頻発したため、フラックスは小さかった。

[北極海洋環境セミナーのお知らせ]

日時
3月7日(木)14:00~16:00
場所
オンライン開催
発表者1
深井 悠里(北極環境変動総合研究センター 北極海洋環境研究グループ)
タイトル
秋季チュクチ海での強風イベント期間における堆積物中珪藻類の巻き上がりとブルーム初期群集としてのポテンシャル
要旨
北極海における植物プランクトンの基礎生産や群集構造は季節学的な変化に直面しており、特に秋季における海氷形成の遅延は植物プランクトンの増殖に適した期間を長期化させている。しかしながら、この時期における植物プランクトン群集の動態は良く理解されていない。そこで、みらい北極航海 (MR20-05C) により得られた観測データを用いて、秋季チュクチ海における珪藻類群集の分布と海洋学的特徴の関連を明らかにした。当該海域における秋季の植物プランクトンバイオマスの変動を駆動する主要な分類群は珪藻類であった。その珪藻類の群集は2つに区分され、各群集に対応して海洋環境も異なっていた。海氷融解水の影響を受けた北東部では、海洋表層での成層が強く、典型的な秋季の珪藻類であるProboscia 属が優占していた。一方で水深の浅い南部の陸棚域では、強風の影響が海底近くまで及んでおり、海洋表層ではChaetoceros 属の休眠胞子が高い割合を占めていた。これまでの研究で、チュクチ海陸棚域堆積物中にはChaetoceros 属の休眠胞子が大量に存在することが明らかになっていることから、チュクチ海南部の陸棚域では強風イベントによって堆積物中珪藻類が海洋表層付近まで巻き上がっていたと考えられた。
また、海氷表層付近へ巻き上がった堆積物中微細藻類が、秋季ブルームの初期群集として果たす役割を調べるため、みらい北極航海 (MR23-06C) 期間中に現場模擬実験を行った。その結果、堆積物の加入は水柱における大型微細藻類バイオマスを増加させ、直ちに海水中の栄養塩を使い果たすほどの大増殖を駆動することが明らかとなった。したがって、強風に応答して海洋表層まで巻き上がった堆積物中微細藻類は、顕著な秋季ブルームの「タネ」となる可能性があり、海氷の形成によって植物プランクトン増殖期間が終了する秋季北極海の生態系にとって重要なイベントかもしれない。

発表者2
Aymeric P. M. Servettaz(海洋機能利用部門 生物地球化学センター 有機分子研究グループ)
タイトル
Past and present variability of nitrate utilization in the seasonally ice-covered Southern Ocean
要旨
Introduction. The Bransfield Strait (BS) in the Southern Ocean is an ecologically active zone with high productivity of phytoplankton that fix inorganic carbon and contribute to its transfer to the deep ocean. Primary productivity is sustained by the upwelling of deep, nutrient-rich water, which enables phytoplankton to grow rapidly as the sea ice melts in spring and summer. The BS receives water from the west through a branching of the Antarctic Circumpolar Current, which is more intense during stronger westerly wind periods, and coastal current brings water from the Weddel Sea, east of BS, where sea ice cover is markedly more persistent. Sea ice exerts multiple control over biology, shading the light entering the ocean and stratifying the upper ocean with the freshening following ice melt. However, productivity remains poorly quantified in this region because satellites are unable to quantify biomass in partially ice-covered ocean, and direct measurements are too scarce to characterize the seasonally varying productivity.

Nitrate drawdown and isotopes. Here we study biological nutrient utilization by assessing removal of nitrate from surface waters, and the associated change in δ15N of nitrate. We show that sea ice melt date conditions the initiation of nitrate drawdown, but the annual minimum concentration of nitrate is not controlled by sea ice concentration. In the seasonally ice-covered ocean, δ15N of nitrate increases with nitrate removal, similarly to what has been described for open ocean. The North half of the BS shows minimal nitrate removal and minimum δ15N of nitrate, despite an intermediate sea ice coverage. This particular situation probably results from light-driven productivity limitation in the deeper mixed layer, due to tidal mixing and density homogenization around the South Shetland Islands. Isotope-enabled ecosystem modelling confirms that mixed layer depth rather than sea-ice shading conditions the light limitation and total nitrogen utilization and export to the deep ocean.

Marine core. δ15N of chlorophyll synthesized by primary producers reflects the δ15N of nitrate in surface water with an offset due to biological uptake and molecular synthesis. Furthermore, partial degradation of organic matter does not substantially modify chlorophyll-specific δ15N during settling and sedimentation. Therefore, we use the δ15N of chlorophyll extracted from a sediment core retrieved in the BS (61.99°S, 55.09°W), as a proxy for nitrate drawdown and interpret its variability in terms of surface productivity for the past ~1000 years. Lower δ15N of chlorophyll values during periods of weaker westerly winds are consistent with the interpretation of more intense primary productivity in stratified Weddel Sea surface water entering BS from the east, relative to water branched from the Antarctic Circumpolar Current that traveled along South Shetland Islands and have a deeper mixed layer.

Future work plan. I aim to clarify some of the assumptions made in this work, by measuring the δ15N in surface water nitrate, in the chlorophyll of primary producers, and in the sedimenting organic matter to define the conditions of using δ15N as a possible productivity proxy. I will spend some time to understand the particularities of isotopic fractionation involved in N-cycle in the Arctic Ocean, where the degree of recycling is greater.

[北極海洋環境セミナーのお知らせ]

日時
1月25日(木)15:00~16:00
場所
オンライン開催
発表者
小野寺 丈尚太郎(北極海洋環境研究グループ)
タイトル
第四紀ベーリング海における貧酸素水塊発生時の海洋表層環境と珪藻群集の経年変動復元
要旨
ベーリング海では、第四紀の間氷期に海洋亜表層において貧酸素水塊が度々発生、拡大していたことが知られている。過去の温暖期に貧酸素水塊が拡大した背景を調べるため、78万年前と53万年前の間氷期にベーリング海南部バウワーズ海嶺で形成された年縞堆積物(延べ368年分)の厚さと含まれている珪藻化石の優占種の変遷を、1年を2期に分けた時間解像度で分析した。また、試料に含まれる砕屑物の起源推定のため、希土類元素組成を数年解像度で分析した。その結果、当時はベーリング海の陸棚南東部とアリューシャン島弧から多量に砕屑物が輸送されており、海盆域における全粒子束は現在の5倍以上に達していた。多量の物質供給の原因としては、アラスカ南西部に当時存在していた氷床の融解などが関係していた可能性がある。生物源粒子の大部分は珪藻殻であった。珪藻群集の優占種は、北太平洋亜寒帯の指標種と融氷水の流入を反映したと思われる有光層の成層指標種が数年~約30年周期で入れ替わっており、準10年スケールの気候変動との関連が示唆された