2016年 11月 11日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」)は、国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)(※1)の一環として、地球深部探査船「ちきゅう」を用いた「室戸沖限界生命圏掘削調査(T-リミット)」(※2)を平成28年9月10日から実施しておりましたが、11月10日に調査海域での作業を終了しましたのでお知らせします。
1.調査概要
地球表層の約70%を占める海洋の下には、海水中の生物量に匹敵する量の微生物が生息する「海底下生命圏」の存在が確認されています。その広大な生命圏に存在する微生物生態系の活動は、炭素をはじめとする元素・エネルギー循環や、地球と生命の進化にとって重要な役割を果たしていると考えられています。しかし、海底下生命圏の空間的な広がりや微生物細胞の代謝機能・進化プロセスは未解明の部分が多く、特に海底下深部環境における生命生息環境の限界及びそれを規定する環境要因は未だ解明されていません。
本掘削調査では、高知県室戸岬沖から南東約120 kmに位置する南海トラフのプレート沈み込み帯先端部(図1、水深4775.5 m)において、生命が生息可能な温度範囲(約120°C)をカバーする、海底下189 mから基盤岩に達する1180 mの区間で112本のコア試料を採取しました(図2、3)。これは「ちきゅう」を用いたIODP航海で一つの孔から採取したコア試料として最多となる本数です。コア試料の総回収長は577.85m、平均回収率は75.9%でした。また、海底下約860 mまでの区間に孔内温度計を設置しました(図4、5)。なお、孔内温度計のデータは今後取得予定です。
本掘削調査では、船上研究チームと陸上研究チームの2チームを編成し、「ちきゅう」の船上と高知県南国市の高知コアセンター(※3)とで並行してコア試料の分析を行いました。同センターには、船上で迅速に処理された分析用コア試料が直ちにヘリコプターで搬送され、スーパークリーンルームにおいて外部汚染(コンタミネーション)の影響のない高品位なサンプル部位の採取を行った後、微生物細胞の検出と定量、現場温度・圧力における培養、DNA分析などを行っています(図6)。これまでの時点において、海底下約550 m(地層温度約65°C)までの地層から微生物細胞が検出されており、その深度より深い地層中においても、微生物活動の影響が示唆される現象が見つかっています。なお、同センターにおける分析は平成28年11月23日まで引き続き実施する予定です。
今後、本掘削調査で得られたコア試料を用いて、さらに詳細な微生物学的・生物地球化学的・物理化学的・鉱物学的な研究を進め、得られた発見や成果を科学論文として公表していきます。
2.今後の「ちきゅう」の予定
・11月11日 高知新港入港
・11月12日~13日 高知新港において船舶一般公開
・11月14日~15日 荷役作業
・11月16日~12月15日 SIP沖縄トラフ熱水性堆積物掘削Ⅲの実施
※1 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)
平成25年10月から開始された多国間科学研究協力プロジェクト。日本(地球深部探査船「ちきゅう」)、アメリカ(ジョイデス・レゾリューション号)、ヨーロッパ(特定任務掘削船)がそれぞれ提供する掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、海底下生命圏等の解明を目的とした研究を行う。なお、本プロジェクトは平成15年10月から平成25年まで実施された統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)から引き継いでいる。
※2 室戸沖限界生命圏掘削調査(T-リミット)
航海名の「T」は温度(Temperature)の意である。
※3 高知コアセンター
国立大学法人高知大学とJAMSTECが共同運営する掘削コア試料の中核的な研究拠点。IODP科学掘削により採取された世界各地のコア試料を保管・管理する「世界三大コア保管施設」の一つ(高知コアセンターの他には、米国・テキサスA&M大学とドイツ・ブレーメン大学に類似のコア保管施設がある)。
図1 IODP第370次研究航海の掘削地点
北緯32度22分、東経134度57分。高知県室戸岬から南東約120km、高知コアセンターから南東約180km。
図2 海底下から船上に到着したコア試料
図3 海底下から採取された代表的な地層を示す堆積物コア試料の写真
左から、火山灰質砂岩を含む地層(39R-3、海底下深度614 m付近)、デコルマ断層(水平断層。ここではプレート境界断層を成す。)内部の破砕帯(63R-1、海底下深度758 m付近)、遠洋性粘土層とその下の玄武岩(110R-4、海底下深度1125 m付近)。
図4 温度センサー
孔内に計13個設置。
図5 孔内温度計頂部
ドリルパイプにつなげて降下、コア試料を採取した孔に設置した。
図6 微生物細胞の透過型電子顕微鏡写真
海底下深度300 m(地層温度約42°C)の堆積物コア試料(6F-2)から検出されたもの。