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2017年 5月 16日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

地震断層面は従来考えられていたより低温で熔融することを確認
~巨大地震発生メカニズムの解明へ前進~

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)高知コア研究所断層物性研究グループの廣瀬 丈洋グループリーダー代理は、韓国のソウル大学校、慶尚大学校及び安東大学校と共同で、地殻の主要構成鉱物である石英を主成分とする珪岩を用いて地震性高速すべり実験を行った結果、断層すべり面で発生する摩擦発熱によって、石英が従来考えられていたより約220~370°C低い温度で熔融することを明らかにしました。

地震時には断層が秒速数メートルの高速ですべりますが、そのすべり面で発生する摩擦発熱によって岩石が熔融する断層摩擦熔融現象は、巨大地震発生メカニズムの1つとして注目されてきました。そのため、地殻の主要構成鉱物の1つである石英が従来考えられていた温度より低温で摩擦熔融することが実験によって確認されたことは、巨大地震の引き金となりうる摩擦熔融時にはより断層がすべりやすくなることを示唆しており、地震発生メカニズムの解明につながる大きな一歩となります。

また、本研究成果によって、「南海トラフ地震発生帯掘削計画」(NantroSEIZE)(※1)をはじめとする深部地震断層掘削によって断層沿いに摩擦熔融の痕跡が見つかった場合、地震時のすべり量が大きくなるほど熔融物の量が増えるという相関があるため、この相関を用いて過去に発生した地震の規模をより正確に推定することが可能になりました。

なお本研究は、JSPS科研費JP16H04064、韓国研究財団および大韓民国気象庁の助成を受けて実施されたものです。この成果は、英科学誌「Nature Geoscience」に5月16日付け(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:
Quasi-equilibrium melting of quartzite upon extreme friction
著者:
Sung Keun Lee1, Raehee Han2, Eun Jeong Kim1, Gi Young Jeong3, Hoon Khim1, and Takehiro Hirose4

1. Seoul National University(ソウル大学校)
2. Gyeongsang National University(慶尚大学校)
3. Andong National University(安東大学校)
4. Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology(海洋研究開発機構)

2.背景

地震時には断層が秒速数メートルの高速ですべります。このような断層の地震性高速すべり運動に伴う摩擦発熱によって岩石が熔融する断層摩擦熔融現象は、断層沿いに産するシュードタキライト(※2)と呼ばれる断層岩の存在によって20世紀半ばから認識され、巨大地震発生メカニズムの1つとして注目されてきました。その後、20世紀終盤からこのシュードタキライトを室内実験によって再現できるようになり、摩擦熔融に伴ってどのように地震が発生するのかが明らかとなってきました。しかし、摩擦実験の技術的な問題から、地殻の主要構成鉱物(※3)である石英を摩擦熔融させることが難しく、自然界の地震断層で起こっている摩擦熔融現象の総合理解には至っていませんでした。そこで本研究では、石英の摩擦熔融現象を探るため、試料ホルダーなどに改良を加え99%石英からなる珪岩を用いて地震性高速すべり実験(図1)を行いました。

3.成果

本研究では、高知コア研究所に設置されている回転式高速摩擦試験機を用いて、珪岩が摩擦熔融する際の断層の摩擦強度と断層面の温度を計測しました。その結果、(1)石英(融点1726°C)が約1350~1500°Cの温度で熔融していること(図2)、(2)熔融にともなって断層の強度が著しく低下することがわかりました。さらに、実験後の回収試料の詳細な微細構造観察と化学分析(図3)から、融点の低下は、断層すべりに伴って石英粒が数十ナノメートルまで細粒化する効果と、摩擦発熱に伴って石英が高温型(β相:融点1400°C)に転移(※4)する効果に起因することを明らかにしました。そして、このような現象を摩擦熔融の準平衡摩擦熔融モデルとして提案しました。

地震は、断層の摩擦強度がすべりとともに低下し、断層に働く力(地殻応力)を支えきれなくなった時に起こります。地震時に大きな強度低下をもたらす断層摩擦熔融現象が220~370°Cも低い温度で起こりうることは、摩擦熔融によって従来考えられていたよりも容易に断層はすべりやすくなるため、強度の低下が起こり、巨大地震の引き金になりうることを示唆しています。

4.今後の展望

本研究では、地殻の主要構成鉱物の1つである石英に着目しましたが、長石など他の重要な鉱物においても高速すべり時には融点が低下している可能性があります。今後、石英以外の鉱物でも融点の低下現象がみられるか、低下するとすればどの程度なのかを実験で確認することによって、摩擦熔融プロセスを組み込んだより現実的な地震発生モデリングが可能になります。また、本研究で提案した準平衡摩擦熔融モデルは、同様の摩擦熔融が起こりうる火山噴火やカルデラ形成にも適応可能であり、火山噴火メカニズムの解明などにも繋がることが期待されます。

これまで、断層沿いに産するシュードタキライト中の鉱物の熔融度合いから、過去に起こった地震の規模を推定する試みがなされてきました。これらの推定に用いられる鉱物の融点は、本研究で明らかとなったように実際の熔融温度よりも高い可能性が高く、地震の規模を過大評価していると考えられます。その場合、これまでの摩擦熔融の痕跡から推定された過去の地震規模や、摩擦熔融現象を組み込んだ地震発生モデリングから予想される地震の規模を見直す必要があります。今後、「南海トラフ地震発生帯掘削計画」をはじめとする地球深部探査船「ちきゅう」を使った海洋底深部掘削によって、断層沿いに摩擦熔融の痕跡を発見した場合、過去の地震の規模をより正確に推定できるようになると考えています。

※1 南海トラフ地震発生帯掘削計画(NantroSEIZE): 巨大地震や津波の発生源とされるプレート境界断層や巨大分岐断層を掘削し、地質試料を採取するとともに、掘削孔を用いて岩石物性の計測及び地殻変動の観測を実施することにより、断層の非地震性滑りと地震性滑りを決定づける条件や南海トラフにおける地震・津波発生メカニズムを解明することを目的とする。

※2 シュードタキライト: 断層に沿って急激なすべりが生じると、摩擦熱が発生して岩石の一部が熔融し、断層面や周辺の岩石中に脈として入り込む。これが冷却・固結したものをシュードタキライトという。急激なすべりは地震時に発生するため、シュードタキライトは別名「地震の化石」とよばれている。

※3 地殻の主要鉱物: 地殻を構成する岩石、特に堆積岩や変成岩のもとともいえる火成岩を構成する主な鉱物は6種類(石英、長石、かんらん石、輝石、角閃石、雲母)あり、これらを主要鉱物という。主要鉱物の60~70%以上は無色鉱物である石英と長石からなる。

※4 石英の相転移: 石英には低温型石英(α石英)と高温型石英(β石英)があり、1気圧の圧力のもとで低温型は約573°Cまで安定で、高温型は約573°Cから870°Cまで安定して存在する。本研究では、摩擦発熱によって石英が瞬間的に加熱され、低温型から高温型の石英に変化(相転移)したことがわかった。

図1

図1:A. 珪岩の地震性高速摩擦実験中の様子。円柱形試料に図右側から力を加え、左側のサンプルホルダーを秒速1.3 m/sで高速回転させて、地震時の高速すべりを再現している。B. 実験後の試料。摩擦発熱が大きいすべり面外側にはガラス状の熔融物が形成されている。

図2

図2: A. 珪岩の高速摩擦実験の写真。B. サーモグラフィーによる断層面近傍での温度分布。C. 断層面に垂直な方向での温度分布。3種類の放射率を仮定して図示している。断層面中心部では、摩擦発熱温度が1353~1501°Cに達していることがわかる。

図3

図3:A.B. 実験後の回収試料の走査型電子顕微鏡写真。すべりによって破壊された石英岩片の一部がネットワーク状に熔融している。のっぺりしている部分が熔融した石英(熔融物ガラス)。C. 実験後の回収試料の透過型電子顕微鏡写真。破砕岩片は数10nm~100nm程度まで細粒化している。D. 熔融物の透過型電子顕微鏡回折像。β石英が存在する可能性が示唆される。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
高知コア研究所 断層物性研究グループ
グループリーダー代理 廣瀬 丈洋
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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