トップページ > プレスリリース > 詳細

プレスリリース

2018年 9月27日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

地球深部探査船「ちきゅう」による国際深海科学掘削計画(IODP)第358次研究航海
「南海トラフ地震発生帯掘削計画:プレート境界断層に向けた超深度掘削」の実施について

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)は、国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)の一環として、地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP第358次研究航海「南海トラフ地震発生帯掘削計画:プレート境界断層に向けた超深度掘削」を実施します。

・期間:2018年10月7日~2019年3月31日
 - 資機材等を積込み後、2018年10月10日に清水港を出港します。
 - 2019年3月21日に清水港へ着岸する予定です。
 - 2019年3月22日~3月31日は着岸中の「ちきゅう」船上にて試料の分析等を行います。
 - なお、気象条件や調査の進捗状況によって予定変更の場合があります。
・海域:紀伊半島沖熊野灘(別紙 図1参照)
・概要:別紙参照

※ 国際深海科学掘削計画(IODP)

2013年10月から開始された多国間科学研究協力プロジェクト。日本(地球深部探査船「ちきゅう」)、アメリカ(ジョイデス・レゾリューション号)、ヨーロッパ(特定任務掘削船)がそれぞれ提供する掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行っている。

別紙

「南海トラフ地震発生帯掘削計画」及び
国際深海科学掘削計画(IODP)第358次研究航海について

1. 「南海トラフ地震発生帯掘削計画」の目的及び全体概要

「南海トラフ地震発生帯掘削計画」では、巨大地震や津波の発生源とされるプレート境界断層や巨大分岐断層及びその上盤を掘削し、地質試料を採取・分析するとともに、掘削孔を用いた岩石物性・状態の現場計測(検層)及び地殻変動等の観測(モニタリング)を実施します。目的は、断層の地震性滑りを決定づける物理化学条件等を明らかにし、南海トラフにおける地震・津波発生メカニズムを解明することです。この計画の下、2007年度から地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP研究航海が実施されており、これまでに熊野灘及びその沖合にて15地点68孔の掘削を行いました。その総掘削長は約34kmに及び、浅部断層や断層上盤において、4km超のコア試料(地質試料のうち海底下の地層を円柱状に採取したもの)採取や孔内計測データ取得に成功しました。さらに、3地点で長期孔内観測システムを設置し、詳細な地殻変動のリアルタイムモニタリングを行っています。今回実施するIODP第358次研究航海は、「南海トラフ地震発生帯掘削計画」として集中的に行ってきた科学掘削の集大成として、大深度ライザー掘削()により、巨大地震の発生現場に直接迫る挑戦です。

2. IODP第358次研究航海の実施概要

今回の研究航海では、過去3回のIODP研究航海(第326次、第338次、第348次)にわたり段階的に掘削を進めてきたC0002地点の掘削孔(図1、水深1,939m)を、さらに深く掘り進めます。C0002地点は、予想される巨大地震発生帯(プレート境界断層の固着域)のうち、その浅部側の縁にあたり、前回行ったIODP第348次研究航海では、海底下3,058.5mまで到達しました(2014年1月30日既報)。本航海では、海底下5,200m付近に想定されるプレート境界断層固着域に向かって、同じ掘削孔をさらに2,200m程度掘り進める予定です。また、海底下4,000m以深に存在すると予想されている弾性波速度の高速度層は、巨大地震を引き起こすひずみエネルギーの一部が蓄積されている領域と考えられています。そこが、どのような岩石からなり、現在はどのような状態であるのか、直接掘削して明らかにすることも、重要な目的の一つです。その上で、海底下5,200m付近に想定されるプレート境界断層の固着域への到達に挑戦し、断層の物性データの取得とコア試料の採取を行います。このような大水深・大深度での科学掘削は、世界初の試みです。

掘削作業中は、掘削と同時に地層の物性データ等を連続して取得する掘削同時検層、ライザー掘削により船上に回収されるカッティングス(掘削くず)による岩相・組成等の連続データの取得、海底下4,700m付近における高速度層のコア試料の採取、海底下5,200m付近のプレート境界断層のコア試料の採取、及び掘削孔内での現場応力(地層強度の推定に用いられる)の測定を予定しています。

過去の研究航海の経験から、今回掘り進める掘削孔は地層の変形を伴う複雑な地質構造のために不安定であり、難しい掘削作業となることが想定されます。さらに、黒潮の影響や、台風、寒冷前線等の突発的かつ強力な自然現象への対応を考慮する必要もあります。

今回の研究航海では、船上のみならず陸上のスタッフも孔内状況を常時監視しながら慎重に掘削作業を進めるとともに、掘削に使う泥水比重の最適化、地層中の細かな割れ目への泥水の浸入を防ぐ防止剤の使用等により、孔壁の崩壊を防ぐための対策を講じます。

また、掘削の際は、ある程度掘り進むとケーシングパイプという鋼管を掘削孔内に挿入し、孔壁が崩れないように保護してから掘削を再開しますが、通常は掘削とケーシングパイプの設置を繰り返していくとケーシングパイプ及び掘削孔の内径も小さくなっていくため、深く掘り進む上での制約となります。そこで、今回は科学掘削では初めて「エクスパンダブルケーシング」という、掘削孔内に挿入してからその内径を拡張できる特殊なケーシングパイプを使用します。これにより、孔壁を早めに保護して崩壊を防ぎつつ、海底下深く目的深度まで掘り進めることができると考えています。

巨大地震を引き起こすひずみエネルギーの蓄積現場、そして巨大地震発生時に活動する断層、これらへの到達は、いずれも今後巨大地震の発生が懸念されるその現場に、人類史上初めて直接迫るものです。難しい掘削作業ではありますが、大きな科学目標の達成につながるよう、5ヶ月以上に及ぶ研究航海を安全かつ着実に進め、成功させたいと考えています。

3. IODP第358次研究航海研究チーム

共同首席研究者(以下9名、アルファベット順)
  廣瀬 丈洋(海洋研究開発機構 高知コア研究所)
  Matt Ikari(ブレーメン大学 海洋環境科学センター(MARUM))
  金川 久一(千葉大学)
  木村 学(東京海洋大学)
  木下 正高(東京大学 地震研究所)
  北島 弘子(テキサスA&M大学)
  Demian Saffer(ペンシルバニア州立大学)
  Harold Tobin(ワシントン大学)
  山口 飛鳥(東京大学 大気海洋研究所)

このほかIODP参加国から選考された研究者38名を含め、合計47名(8ヵ国)の研究者が参加します。

4. 特設ウェブサイト

本研究航海に関する特設ウェブサイトを開設しています。本ウェブサイトでは、研究航海の概要や参加研究者の紹介を行うとともに、研究航海の進捗を随時更新する予定です。

「南海トラフ地震発生帯掘削計画」特設ウェブサイト:
 http://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/nantroseize/index.html

図1

図1 南海トラフ地震発生帯掘削計画において掘削した地点(同一地点で複数の掘削孔を掘削している場合もある)

※ライザー掘削
海底に設置した孔口装置と船上とをライザーパイプでつなぎ、その中にドリルパイプを降ろして掘削する方法。船上からドリルパイプを通して、掘削孔内に特殊な泥水(でいすい)を送り込み、ライザーパイプを通して船上と循環させながら掘進する。これにより、掘削時に出てくるカッティングス(掘削くず)を除去するとともに、掘削孔が崩れないように地層の圧力を抑え込み、より深く掘削することが可能となる。また、船上に回収されたカッティングスは、研究だけでなく掘削中の地層や孔内状況の把握にも利用される。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(IODP及び本航海について)
地球深部探査センター 企画調整室長 矢野 健彦 
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
お問い合わせフォーム