さて、今回ご紹介する成果発表はこちら。
2015年 2月 12日報道発表「スーパーコンピューターでパンゲアの分裂から現在までの大陸移動を再現し、その原動力を解明-ヒマラヤ山脈はマントルの下降プルームが作った!-」です。
私たちが住む大陸は常に動いていて、集まったり分裂したりを繰り返しています。なぜ、大陸が移動するのか。その主な原動力は、マントル対流が、大陸を運ぶプレートの底を引きずるためと、スーパーコンピューターを使ったシミュレーションが示しました。
大陸移動とは?マントル対流って、何?どうやって大陸は移動するの?・・・。編集員の好奇心に火が付きます。今回の成果を発表した地球深部ダイナミクス研究分野の吉田晶樹主任研究員に直接聞いてきました。
こんにちは。
まずは自己紹介からしましょう。
私は徳島で生まれ育ちました。小学生や中学生のころは地図帳を眺めたり、ニュースや新聞で天気図や震度分布図などを見るのが好きでした。
気象学か地震学の勉強をしたいと、大学は理学部へ進学。学部時代は主に地質学を勉強していて、野外調査に出かけたり、採取してきた岩石を薄く削って顕微鏡で見たりする毎日でした。
しかし大学院では一転、研究テーマは「マントルダイナミクス」を選びました。これは地球の内部や表層で起きる現象、たとえばマントルの動きや大陸移動などのメカニズムを調べる分野です。選んだ理由は、マントルダイナミクスの分野は研究者が少なく未解明な点が多いから。おもしろそうだと思ったのです。
JAMSTECには2003年に着任しました。現在は地球深部ダイナミクス研究分野という部署にいます。
大陸移動には、地球の表面だけではなく、マントルなど地球全体の動きが深くかかわっています。大陸が動くとき、地球内部ではいったい何が起きているのか。大陸移動を研究することは、地球の動きを理解することにつながります。これを積み重ねて過去の地球の状態を明らかにしていけば、地球の歴史、約46億年の全容解明に役立つのです。
さらに、地球内部の動きを、人々の生活を脅かす巨大地震や火山活動といった自然災害を引き起こすメカニズムと関連付けて理解できれば、防災や減災に役立てられるのではないかと考えています。
豆知識!
集合と分裂を繰り返してきた、大陸の歴史
大陸が移動すると提唱されたのは1912年。「かつて大陸は1つにまとまっていて、それが分裂して現在の大陸配置となった-」。ドイツの気象学者アルフレッド・ウェゲナーが発表した大陸移動説です。そのまとまっていた大陸(超大陸)は「パンゲア」と名付けられました(図1)。しかし当時、この考えは多くの学者に反対されます。大陸を移動させる原動力がわからなかったためです。
ところが1960年代に入ると、海底に残る地磁気を手掛かりに、海底が海嶺(海底にある山脈)を中心軸に時代とともに水平方向に拡がっていることが証明されました。これをきっかけに大陸移動説は広く認められます。1970年代には大陸や海底を運ぶプレートに働く力の解明も進みました。
パンゲアが誕生したのは、今から約3億年前と考えられています。先にできていたゴンドワナに、ローラシアが少しずつくっ付いてできました。パンゲアとはギリシア語で「すべての大陸」を意味します。名の通り、地球上ほとんどの大陸の集まりで、史上最大の超大陸とも言われます。
約2億年前にパンゲアは分裂を始めます(図2)。それぞれの大陸は2億年かけて移動して現在の配置となりました。現在は、大陸がもっとも散らばった時代です。ずーっと先の未来は、地中海と大西洋がなくなり、新しい超大陸が誕生するかもしれません。
大陸移動の原動力については世界中で議論が続いています。中でも有力視されているのが、2つの説です(図3)。
1つは、「沈みこむプレートの重みが残りのプレートをひっぱり、大陸を動かす説」。もう1つは「マントル対流がプレートの底を引きずり、大陸を動かす説」です。
まず対流からお話します。たとえば鍋の中の湯を沸かすため底から火をあてたとき、熱いほど密度が低く軽くなり、冷たいほど密度が高く重くなって、上下方向に流れが生じます(図4)。これを対流と呼びます。温度差が大きいほど対流が活発になります。
同じ現象が、地球内部のマントルでも起きています。
地球内部の温度は、中心が最も高く外側ほど低くなっています(図5)。原始地球にたくさんの隕石が落ちてきた衝突エネルギーが熱となり、中心に残っているためです。
マントルは、底が外核であたためられ、上側が大気や海で冷やされます(図6)。これにより、マントルは固体の岩石ですが、1年あたり数㎝から数十cmほどのゆっくりとした対流が起きています。上昇する高温の流れを上昇プルーム、下降する低温の流れを下降プルームと呼びます。プルームは英語で流体の柱を意味します。
マントルは短期間で見るとかたい岩石ですが、数十万年から数百万年以上という非常に長い時間スケールでは、水あめのようにふるまうとみなせるのです。
どちらの力も確実に効いています。ただこれまでは、マントル対流がプレートの底を引きずる力は、沈みこむプレートが引っぱる力よりも、ずっと小さいと考えられてきました。しかし私は、「マントル対流がプレートの底を引きずり大陸を動かす説」も有力だと考えています。
理由は、インド亜大陸です(亜大陸とは小さな大陸の意味)。インド亜大陸は、沈みこむプレートが切れているのに、現在でも年間6cmほど北上を続けています(図7)。沈みこむプレートが切れている=引っぱられていないということ。これはもう、マントルが大陸を運ぶとしか考えられません。
それを確かめるため私は、マントルのかたさや密度などを入力し、マントルの流れや温度の変化をスーパーコンピューターで計算して、大陸移動を伴うマントル対流をシミュレーションで再現することに挑戦してきました。しかし計算がとても複雑で、再現できなかったのです。
そこで今回、新たなアプローチで再現に挑みました。
まず、シミュレーションで大陸移動を伴うマントル対流を再現するまでには、大まかに次のステップがあります。1.モデル(イメージ)をつくる。2.計算式をくみこんだプログラムを作り、スーパーコンピューターを使って計算する。プログラムとは、計算式をコンピューターが解読できる言語に書き直したものです。3.計算結果のデータを画像や動画にする。
今までのモデルは大陸を、形が変わらない「板」のように扱ってきました。しかし実際の地球の大陸は、形を変えながら移動しています。かといって、それに合わせて形を変えようとすれば、普通の計算方法ではどうしても計算の誤差が生じてしまいます。
今回は、大陸を「粒の集まり」として扱うことにしました。1つひとつ粒の動きを算出していけば、誤差なく正確に計算できます。その粒の集まりを大陸とすれば、大陸はマントル対流にあわせて自在に変形することも可能になります。
こうした動きを算出するため計算式をまとめたプログラムを作りました(図8)。大陸だけではなく、もちろんマントルの温度、粘性、速さ、粒(大陸)の動き…などを個別に計算するので、プログラムは20種以上!
プログラムをスーパーコンピューターで実行するため、続いてマントルの初期設定をしました。
下部マントルの温度分布は現在と同じ状態にしました。下部マントルの温度分布は数億年間ではほぼ変わらないと考えられるからです。
上部マントルの温度は、パンゲア大陸の下と海の下で異なる設定をしました。マントルはごくわずかですが、ウランやトリウム、カリウムといった放射性元素を含みます。その放射性元素は崩壊して放射線を出すとき、熱を発します。パンゲアのような超大陸が地球上を長い時間じっとしていると、超大陸の下にその熱が徐々にこもっていきます。大陸がまるで毛布のようにマントルをおおっているからです。この働きは「毛布効果」とも呼ばれます。この毛布効果を考慮して、上部マントルの初期設定は、パンゲアの下を海の下より200℃高くしました。
この初期設定で、計算スタート。
1週間後に出てきた計算結果が、こちらです(図9)。
そう。わからないですよね。見てわかるようにするため、専用のソフトウェアを使って色付け(可視化)しましょう。
マントルが対流し、2億年前のパンゲア分裂から現在の大陸配置に至るまでがしっかり再現されました。
動画 2億年前から現在までのマントル対流と大陸移動。オレンジは大陸、黄色はマントルの温度が平均より100℃高い部分、青色はマントルの温度が平均より250℃低い部分、白色は外核の位置。
特に、この時代の大きな出来事だったパンゲア大陸の分裂もインド亜大陸の北上も再現に成功しています。
実はこれまで、超大陸を分裂させる力は、「毛布効果」か、「マントルの底から上昇してくる巨大なプルーム」か(図10)で分かれていましたが、地表で採取される岩石の分析だけではどちらが有力かはっきりしませんでした。
しかし私がさまざまなシミュレーションをしたところ、今回のような超大陸の「毛布効果」(考え1)を取り入れない限り、現在の大陸配置はうまく再現できなかったのです。したがって、パンゲアが分裂する直接的な原因(最初のきっかけ)は、「毛布効果によってパンゲアの下にこもった熱」だと考えています。その熱を地上に吐きだそうと、マントルから噴き出した上昇プルームがパンゲアを引き裂いたのです(図11)。もちろん、その後にマントルの底から上昇してくるプルームがパンゲアの分裂をサポートした可能性もあります。
パンゲアから分裂したインド亜大陸は、南半球からテーチス海を北上しました(図12)。約4,000万年前までにはユーラシア大陸に衝突を始めました。その衝突直前の北上スピードは最大で年間約18cmとみられ、現在の年間約6cmに比べ驚異的なスピードです。そして衝突により、テーチス海の海底は地表に現れ徐々にもり上がり、やがて8,000mを超えました。これが世界最高の「ヒマラヤ山脈」です。
ヒマラヤ山脈は大気の流れを変えてアジアの気候を一変させたのですが、インド亜大陸がなぜそんな高速で北上したのかは不明でした。でも今回のシミュレーションにより、明らかになりました。
シミュレーションは、パンゲアの分裂を始めたすぐ後からテーチス海北部で、マントルの下降プルームが勢いを増していたことを示しました(図13)。先ほど話したパンゲアを分裂させる上昇プルームが強まった分を補うように、下降プルームが発達したと考えられます。
その下降プルームが海洋プレートを引っぱり、インド亜大陸を高速で北上させていたのです(図14)。
大陸プレートの移動速度とマントル対流の速度について、シミュレーションデータを詳しく解析しました。その結果、大陸プレートのすぐ下のマントル対流が、大陸プレートの移動よりも速いことがわかりました。これはつまり、マントル対流がプレートの底を引きずっていることを示します。
まだ今回のシミュレーションでは細かい大陸移動にズレがあり、小さな日本列島などは再現できていません。今後は、正確に再現できていない部分を改善していきます。現在の大陸配置を完全に再現できれば、昔のマントルの温度分布の状態もわかったことになります。それを長い歳月でコンピューターの中で再現して、地球の歴史の全容解明に役立てていきたいです。
地球は長い歳月をかけて、大陸という表面から地球深部までダイナミックに動いているのですね。ふだん意識しない、雄大な地球全体の営みを意識しました。その一方で、この大きな地球の営みは、巨大地震や火山噴火といった身近な現象とつながっている…。スケールの壮大さと複雑さに、圧倒されました。
みなさん、これから地震や火山活動のニュースを耳にした時は、この研究を思い出してくださいね!(編集員H・研究の話を聞くのが好き)