地震は、断層が一気にすべることで生じます。その時、断層面では何が起きているのか。それを知るため断層面によく観察される鉱物「石英」を使って実験室で断層すべりを再現したところ、石英が従来の考えより低温で融けることによって断層がすべりやすくなることがわかりました。石英が融けるとは? 断層がすべりやすくなるとは? 今回はこちらを紹介します。
地震断層面は従来考えられていたより低温で熔融することを確認
~巨大地震発生メカニズムの解明へ前進~
論文タイトル
Quasi-equilibrium melting of quartzite upon extreme friction
この論文を「Nature Geoscience」に発表した、廣瀬丈洋主任研究員に話を聞きます。
【目次】
▶ 断層面の摩擦熔融
▶ 室内で断層すべりを再現する摩擦熔融実験
▶ 石英が、従来の考えより低温で熔融
▶ 実験結果が示す新たな課題
地震は、地殻に歪みがたまり、その歪みが限界に達したときに断層面が高速ですべって発生します。断層面では岩石がこすれ合い摩擦で発熱します。その摩擦熱が高温に達すると断層面上では岩石が融けて、その融けた物質で断層面がすべりやすくなり、断層の強度が低くなって巨大地震に至る場合があります(図1)。
すべり始めた断層が、大地震に至るのかどうか。それを知るには、断層すべりが起きたときに、断層面で何が起きて、断層の強度がどう変化するのか知ることが非常に重要です。しかし、地下深い断層を見ることはできません。
一方、断層すべりで摩擦熱が高温に達すると、岩石が融けてガラス状になった「シュードタキライト」(写真2)と呼ばれる岩石ができることがあります。シュードタキライトは地下でできても地殻変動で長い歳月を経て陸上に露出することがあり、それを手掛かりに過去の断層すべりや地震の規模が推定されてきました。しかしこのアプローチでも、どれくらいの高温に達して、どんな物理化学反応が起きて、どのように断層の強度が低下するのかはわかりませんでした。
写真2 スコットランドアウターヘブリデス諸島で観察されるシュードタキライト。写真手前から奥に走る黒い部分がシュードタキライトで、まさに断層部分にあたる。
ならば、室内で模擬断層をすべらせてシュードタキライトを再現できれば、断層すべり時に断層で起きている現象を知る手掛かりになるのではないか。そう考えて我々は、岩石を使ってシュードタキライトを再現する「摩擦熔融実験」を行ってきました。
はい。しかし、断層面に多く含まれる鉱物「石英」は、これまで摩擦熔融実験ができませんでした。
石英は二酸化ケイ素 (SiO2) が結晶してできた鉱物です。大陸地殻の主要鉱物であり断層面にも多く存在します。身近では砂浜や砂場で見られる透明感のある粒の多くがそれです。
石英の摩擦熔融実験ができなかったのは、石英が非常に割れやすいからです。岩石の中には様々な鉱物が入っていて、それぞれの鉱物で膨張のしかたが違います。石英は温度が上がるにつれ、膨張したり収縮したりしてもろくなるため、石英がたくさん入っている岩石の実験は難しいのです。
しかしながら、石英の理解なくして断層すべりの理解はありえません。そこで今回、99%が石英でできた珪岩(写真3)を使った摩擦熔融実験に、韓国の研究者と挑みました。