地球上には、「泥火山」と呼ばれる火山があります。噴き出すのは、マグマではなく、地下の泥や水、ガス。このたび、その泥火山を窓口にして、地下に存在していた“メタン菌の巣”を発見しました。地球深部探査船「ちきゅう」で紀伊半島南東の海底にある第五泥火山から採取したコア試料を分析した結果です。
南海トラフ熊野灘の泥火山に微生物起源のメタンハイドレートを発見
~海底下深部からの「水」の供給が地下微生物による天然ガス生産を促進~
論文タイトル:Deep-biosphere methane production stimulated by geofluids in the Nankai accretionary complex.
この論文をScience Advances誌に発表した井尻暁主任研究員にお話を聞きます。
【目次】
▶ 海底泥火山の深部では、微生物は活動している?
▶ 第五泥火山を掘削
▶ 地球の活動が作り出す“メタン菌の巣”
▶ メタン生成の場を突き止めたことが、今後に続く
泥火山(図1)とは、地下に押し込められて高圧状態になっていた泥や水、ガスなどが、地震などをきっかけにできた断層などを通じて上昇し、地表から噴出してできた高まりです。火山のような形をしています。
世間ではあまり知られていませんが、世界中の大陸縁辺域の陸上や海底にあります。
その話をする前に、泥火山からは噴出物とともにメタンが大量に放出されることから話します(動画1)。メタンとは温室効果ガスの1つである一方で、天然ガス資源として期待もされる気体です。陸上や浅海の泥火山から放出されるメタンは大気へ広がり、地球環境に影響を与えます。深海の泥火山から放出されるメタンは、海水にとけこんだり酸化して二酸化炭素になったりして、海洋の炭素循環に関係します。
泥火山など地下にあるメタンの起源は2つの説があります(図2)。1つは、「熱分解起源」です。堆積物に埋もれた有機物が約80°C以上の熱で分解されると、メタンができます。もう1つは、微生物がメタンをつくる「微生物起源」です。たとえば、堆積物中の無酸素環境で、メタン菌が二酸化炭素と水素からメタンをつくります。
これまでの研究から、陸上の泥火山のメタンは熱分解起源がほとんどで、微生物起源は少ないとされてきました。
しかし近年、海底泥火山の表層で微生物が活発に活動していることが判明しました。地下から上昇してくる有機物を使っているようです。ならば、深部ではどうなっているのか。それを明らかにするためにこの研究を始めました。そして我々が注目したのが、紀伊半島熊野灘の第五泥火山です。