コア研シリーズ初回では、コア試料について紹介しました。今回は、そうした試料などを研究する施設を紹介します。
畠中:紹介したいものがたくさんあって迷いますが、今回はこちらへ行きましょう(図1)。
【目次】
▶ スーパークリーンルーム
▶ 超高精度分析機器による微小領域研究
▶ 極微小領域分析室
▶ 微細組織構造解析室
畠中:コア研の施設・機器の多くは、メーカーさんと開発したり、カスタマイズしています。設備や機器を開発し、またオリジナルの微生物分析手法を編み出してしまう研究者の諸野祐樹さんに話を聞きましょう。
諸野:ここで実験を1つ。パーティクルカウンターで、空気中の塵や微生物などの粒子(パーティクル)数を計測しながら、あの部屋(写真1)へ入りましょう。モニターにはサイズごと(0.3、0.5、5μm)の粒子数が表示されます(映像1)。
諸野:塵などが無いということです。ここは、クリーンルームの中でも抜群の清浄度を誇る「スーパークリーンルーム」です(360度映像1)。
諸野:陸上には埃や微生物など様々な粒子が浮遊しています。海底から上がってきたコア試料から微生物を探す際に、陸上の微生物がコア試料に混入(コンタミ)すると、海底下の微生物も陸上の微生物も区別がつかなくなってしまいます。それを防ぐため限界まで清浄度にこだわったのが、このスーパークリーンルームです。2015年に導入しました。
スーパークリーンルームは、1m3あたりの空気中に0.3μm(10-9m)の粒子が1個以下です。
諸野:奥にあるプッシュフードと呼ばれる壁から、超高性能フィルターを通過した清浄な風が吹き出され、クリーンエリアから粒子を排出します(図2)。排出された風は上や横を通って奥へ戻り、フィルターできれいになって再びクリーンエリアを流れます。
諸野:実験台をプッシュフードに向けて配置することで、実験をする人から発生する粒子が後ろへ流れコア試料に付着するのを防ぎます(写真3)。また、静電気が発生すれば風を上回る力で粒子を引き付けるため、実験台付近には静電気を常に除去するシステムを付けました。
写真3 実験台はプッシュフードに向けて配置。実験をする人は、クリーンウェアとマスクを着用し、手袋の上からアルコール消毒もします。
諸野:微生物分野でこれほど清浄度の高いスーパークリーンルームは、世界でも他にありません。
諸野:コア試料は基本的に濡れているため、微生物が飛ばされることはありません。
諸野:以前はボックスに付属する手袋に手を入れて作業をするクリーンベンチを使っていました。ボックス内を囲うことで外部の空気が入りませんが、作業中に内部で発生したコンタミを排出しにくいのが課題でした。微生物の生命圏がどこで終わるかという繊細な研究では、従来のクリーンベンチでは限界がありました。
諸野:その前に、例えを1つ。コア試料1㎝³あたり100個の微生物がいるとしましょう。これは泥がつまった東京ドームの空間からパチンコ玉を100個探す感覚です。
諸野:圧倒的に多い泥から微生物を取り出すために私が編み出したのが、次の方法です。まずコア試料から採集した泥を蒸留水に入れて泥水を作ります。このままだと微生物と泥がくっ付いているので、超音波洗浄機を使ってバラバラにします。それを少量、プラスチック容器の中に注入します(図3)。プラスチック容器には密度の異なる4種の液が入っていて、一番上が軽く一番下が重くなっています。微生物は軽いので浮き、泥は重いので沈みます。仮に微生物が泥に引っ張られても、密度の境界を数回超えさせることで、確実に微生物と泥を分離させられます。最終的に浮いた微生物をフィルターでこして取り出します。