コア研シリーズ1と2では、海底下から掘り出したコア試料のキュレーションや小さな試料を見る研究施設を見てきました。それらは、どんなことにつながっていくのでしょうか。今回は、応用研究について紹介します。
畠中:微生物を利用しようと応用研究に取り組む石井俊一さんにお話を聞きましょう。バイオジオリアクターラボを案内します。
【目次】
▶ バイオジオリアクターラボ
▶ パーテーションのないところで生まれる研究!
▶ 分野の垣根を越えた融合研究で、活躍を目指す
石井:地下圏には、堆積物中の有機物を食べる微生物、酸素の代わりに硫酸を利用する微生物、メタンを作る微生物、逆にメタンを分解する微生物など、様々な微生物がいます。そうした中から私は、“電気を食べてメタンをつくる微生物”に注目し、これを利用しようと研究に取り組んでいます。
石井:地下の岩石には様々な鉱物が含まれます。その中には電子を渡しやすい鉄などの鉱物があり、その割合は地下深いほど大きくなります。そうした岩石から電子を受け取り食べて、CO2を固定してメタンを作っている微生物が、地下圏に存在すると推定されているのです。
写真2 緑に光っている部分が、電気を食べてメタンを作る微生物。茶色っぽい鉄にくっついて、鉄酸化メタン生成反応を起こしている様子。
石井:電気を食べてメタンをつくる微生物を利用して、電気をメタンに変えて保存する研究に取り組んでいます。
電気は保存できないため、電力会社が必要な分だけを発電しています。需給のバランスをとるのは大変です。しかし、この微生物を使って電気をメタンの形に変えてエネルギー貯蔵できれば、社会に役立ちます。
石井:その通りです。さらに、このような微生物が住む地下圏の地下水は、無酸素で還元的な環境である事が多く、この嫌気的な地下水を用いてCO2を固定してメタンを作る事を考えています。酸素に満ちた「酸化的」な地表の世界で、CO2を固定する「還元力」を作るのは非常にコストや手間がかかります。しかし、無酸素の地下環境やそこから湧き出てくる地下水を利用すれば、コストをかけずに、地球そのものの「還元力」を使うことができます。まさに、地球の力と電気の力、そして、微生物の可能性を最大限に応用する試みなのです。
こちらです。
30度に設定した恒温器の中に、微生物を育てるためのガラス容器「バイオリアクター」(350ml)を配置しています。バイオリアクターには電気を食べる微生物を豊富に含む嫌気的な地下水が入っていて、そこに電極を2つさして電気を流します。微生物は、そこから電子を食べて地下水中のCO2を固定し、メタンをつくります。できたメタンは銀色の袋にたまります。
実験は順調で、安定的にメタンが作られています。2016年からは10Lのバイオリアクターを使ったスケールアップ実験にも着手しました。微生物反応は一緒でも、スケールアップすると、電極間の距離が変わったり、水の流れが変わったことによって様々な課題が生じるものです。課題から解決策を見出し新たな知見を得ることが、産業利用に向けた重要なステップになります。このスケールアップ実験でも、現在は安定的なメタン生成に成功しています。
さらに発展させて、嫌気的な地下水の汲み上げが行われている現場で、汲み上げ直後の地下水を連続供給して、より産業応用に近い実験しようと準備を進めています。
また、NanoSIMSを使ってこの微生物がどのようにCO2を固定しているかも分析する予定です。
課題は大きく2つあります。電気を食べてメタンを作る微生物にも様々な種類があり、その中から特に優秀な微生物を見つけ出すことが必要です。
また、反応を促進する触媒としては、微生物は複雑な反応をこなせる一方で時間がかかります。触媒として微生物をうまく機能させるためには、触媒技術を持つ企業の力も必要だと思っています。