20190522
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トピックス

気候変動のビッグデータ
〜結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP)の最新データが公開されました〜

2019年5月22日
環境変動予測研究センター

海洋研究開発機構・東京大学・国立環境科学研究所などの気候研究者チームは、文部科学省の統合的気候モデル高度化研究プログラム(TOUGOU)の支援を受け、世界各国の気候研究機関とともに、過去・現在・未来の気候変動の理解を進めるための最新の気候データセットの公開をはじめました。このデータセットは、世界各国の最先端の気候モデルで行った気候シミュレーションの結果を含んでいます。日本のTOUGOUチームでは、気候モデルMIROC(Model for Interdisciplinary Research on Climate)ver.6を開発し(図1)、海洋研究開発機構の地球シミュレータを用いて、様々な数値実験を実施しました(図2)。このデータの公開は、気候モデルの信頼性を判定し、気候変動とその根底にあるメカニズムの理解を深めるために、野心的な国際的プロジェクトである結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP)の一環として行われています。これらのデータは日本のDIAS(Data Integration and Analysis System)を含むESGF (Earth System Grid Federation)サイトより取得可能であり、世界中の研究者によって結果を分析し、精査することを可能にしています。

図1.
気候モデルMIROC6で計算したエルニーニョ現象発生直前の海面水温(色)、雲(白)、50hPa高度(コンター)。断面の色は海水温偏差、コンターは平均水温で、エルニーニョ発生に関わる暖かい水温偏差が赤道に沿って存在しているのがわかる。
図2.
CMIP6で提唱された将来の社会発展予測シナリオに基づいてMIROC6で計算した地球平均気温上昇。黒が観測、水色が再現実験、2015年以降が予測実験。将来の気温上昇は、温暖化防止対策の違いにより、大きく変わってくる。

この新しいデータセットの発表は、世界気候研究計画(WCRP)によって設立された結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP)にとって大きな成果となっています。CMIPの目的は、気候システムのより良い理解のために、各国の気候モデルセンター間の国際協力の促進、モデル間の相互比較を容易にする標準実験を作成することにあります。多くのモデルの結果を包括的に扱うことで、現在の気候モデルの限界を理解し、得られた知見の信頼性を担保することができるからです。CMIPは第1期の1995年に1つの標準実験からはじまり、第6期(CMIP6)では200を超える数値実験を実施するまでに、段階を追うごとに大きく発展しました。データ量もメガバイトから数十億メガバイトまで膨れ上がっていますが、これは実験のセットが拡張されたことや、新しい科学的問題に対処するためにモデルの複雑さと解像度が高まったためです。この膨大なデータは、将来の気候変動対策などに世界各国で用いられます。日本においてもこれらのデータは水資源、森林、農業、沿岸域・防災、健康などの分野で、将来の温暖化影響を総合的に把握し、地域別の評価や、被害コストの評価などに利用されています。温暖化が進んだ時の集中豪雨への対策や、極端現象 (洪水・渇水・山地災害等)増加に伴う農作物への影響の評価などはその一例です。

海洋研究開発機構 環境変動予測研究センターを中心とした研究チームは、気候に関わる物理的諸現象に加えて、海洋や陸の生態系活動等も同時に解くことができる地球システムモデル”MIROC-ES2L”の開発も行なっています。このモデルは、人間のCO2排出を直接与えることにより、海や陸によるCO2吸収量や大気CO2濃度、温暖化など複雑に絡みあう事象を再現できます。図は、人為CO2排出を停止させたときに生じる地球環境の応答を調べるためのCMIP6実験の一つである ”ZECMIP(Zero Emission Commitment MIP)” のシミュレーション結果です。人間の累積排出量が750PgC / 1000PgC / 2000PgC に達した時に人為CO2排出をゼロにし、大気CO2濃度(図3a)および全球平均気温(図3b)がどのように変化するのかを示しています。このような実験結果を様々な研究機関のシミュレーション結果と比較することにより、CO2排出削減がどのくらい効果的に温暖化抑制につながるのか、などについて理解を深めることができます。これは、CMIP6実験の一例であり、他にも将来の人間社会発展の予測シナリオに応じて21世紀の気候を予測するScenario MIP、数十年スケールの予測を目指すDAMIP(Decadal Climate prediction Project)、気候-海洋の関係を詳しく調べるOMIP(Ocean model Intercomparison Project)、海洋の熱吸収を調べるFAFMIP(Flux-Anomaly-Forced Model Intercomparison Project)、炭素循環に関するC4MIP(Coupled Climate Carbon Cycle Model Intercomparison Project)、土地利用変化の影響に関するLUMIP(Land-Use model Intercomparison Project)、古気候環境の再現性を比較するPMIP(Paleoclimate Modeling Intercomparison Project)など数々の数値モデル比較実験が実施されています。海洋研究開発機構では、気候モデル“MIROC6”,地球システムモデル“MIROC-ES2L”,全球非静力学モデル“NICAM(Nonhydrostatic ICosahedral Atmospheric Model)”を用いて、その多くに参加しています。

図3.
MIROC-ES2Lで計算した CO2排出量をゼロにした場合の全球平均の大気CO2濃度(a)と気温(b)。人間の累積排出量が750PgC(黒)/ 1000PgC(青) / 2000PgC(赤) に達した時に排出量をゼロとしている。なお排出量をゼロにするまで、大気CO2濃度は毎年1%ずつ増加するよう特殊な条件下で実験を行っている。

このような地球上の様々な現象を明らかにするため、数多くの数値実験を扱うCMIPは、WCRPの結合モデリングワーキンググループ(WGCM)によって任命されたCMIPパネルによって調整され、統括組織と施設は多くの中核的な国際センターによって提供されています。その参加組織は、資金を独自に確保することによって、CMIPの成功を支えています。海洋研究開発機構を含む各国の参加機関は、総合的な気候モデルを開発しCMIPによって定義された多くの数値実験を行います。これらの実験は様々な科学的な問題に取り組むため目的を絞った一連の実験として設定されています。参加している気候研究者やコンピュータの専門家は世界中の研究者と結果を配信するため、必要な基盤の整備を行っています。現在、CMIP6のサイトには10を超える気候モデル研究チームの結果が提出されています。TOUGOUによって作成されたCMIP6データも、DIASのESGFデータノードより、基本的な実験、変数より順次公開を開始しています。データの詳細またはダウンロードは、ESGFのポータルサイトより可能です。今後、より多くの研究グループが参加することで、データセットの充実が図れます。過去のCMIP実験と同様に、このCMIPデータセットに基づく研究は2021年に発表予定の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書に重要な役割を果たすことが期待されています。

CMIP6データ公開に関する関係者のコメント

Karl Taylor (ローレンス・リバモア国立研究所, WGCMインフラパネル共同議長):
CMIP6における気候モデルの高度化やデータ量の増加は研究者や技術者にとって大きなチャレンジでした。CMIP6のデータ公開の成功は関係者の献身と多大な努力のおかげです。
V. Balaji (プリンストン大学,WGCMインフラパネル共同議長):
CMIPを支えている世界的なデータ基盤は気候歴史学者のPaul Edwardsの言う地球を覆う「広大な装置」そのものです。その装置はほとんど目にふれず、目立たないことも少なくありません。しかし、この目立たないことは、優れた装置の証と考えることができます。あなたが優れた建築物を考えるとき、その配管について考えることはありません。私は、CMIP6のデータ公開にあたり、その基盤を支えた世界中の技術スタッフに敬意を表したいと思います。
Veronika Eyring (ドイツ航空宇宙センター, WGCM CMIPパネル議長):
CMIP6は中核となる標準実験と研究者コミュニティ主導の様々な承認実験がうまく組み合わされています。研究者コミュニティの要望に応えつつ、データ提供、モデル開発をしていくためにも、今後も継続的な努力が期待されます。
Paul Durack (ローレンス・リバモア国立研究所, WGCMインフラパネルメンバー):
CMIPで提供される莫大なデータは過去20年間、気候研究の発展に大きな貢献をしてきました。インフラパネルメンバーの若手研究者の一人として、CMIPの発展に貢献した国際的な気候モデルコミュニュティの協力に感謝します。私は、このプロジェクトに貢献できて嬉しく思います。
Anna Pirani (技術サポート部長, IPCC 第1作業部会):
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書(AR6)が現在準備されています。第1作業部会(WGI)では気候変動の物理的根拠を評価しています。CMIP6のデータは、ここに、新しい知見と政策関連情報をもたらすでしょう。
Valérie Masson-Delmotte (共同議長, IPCC 第1作業部会):
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、科学文献に基づいて、過去から将来までの気候変動に関する知見を総合的に評価しています。 CMIPでの気候モデル間の相互比較、地質学的証拠や観測との系統的比較、気候プロセスの表現の分析、およびその結果の公表は、私たちが、気候変動の何が分かっていて、何が分かっていないかを知る上で非常に重要です。

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