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2012年 5月 7日
独立行政法人海洋研究開発機構
東京工業大学
東京大学地震研究所

海溝付近のプレート境界面をゆっくり滑る地震の発生メカニズム

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)の杉岡裕子研究員らは、1944 年東南海地震震源域において広帯域地震計を用いた海底観測を行い、2009年3月下旬に4年半ぶりに当該海域で群発した「超低周波地震」と呼ばれる普通の地震に比べてゆっくり滑る地震について、震源位置と震源メカニズム(断層の向きと運動方向)を高精度で決定することに成功しました。

その結果、「超低周波地震」は、固着が弱いため地震が発生しないと考えられていた海溝付近の海洋プレートと大陸プレートの境界で生じていたことが明らかになりました。これは、海溝付近を震源とする地震の存在を明らかにするとともに、この地震と同様の発生過程を経て、海底面に大きな変位をもたらし、津波を生じせしめる地震の存在を示唆したものです。

本成果は、海溝付近における地震の発生メカニズムを明確化したものであるとともに、将来に向けて、それらの調査・観測・解析の重要性を明らかにしたものであります。

本成果は、Nature Geoscience に5月6日付け(現地時間)で掲載される予定です。

タイトル:
Tsunamigenic potential of the shallow subduction plate boundary inferred from slow seismic slip
著者名:
杉岡裕子1,岡元太郎2,中村武史1,石原靖1,伊藤亜妃1,尾鼻浩一郎1,木下正高1,中東和夫3,篠原雅尚3,深尾良夫1
所属:
1.海洋研究開発機構、2.東京工業大学、3.東京大学地震研究所

2.経緯

海洋プレートが大陸プレートに沈みこんでいる海溝付近では、プレート間に大きな摩擦が生じないため、大陸プレートの下にズルズルと滑り込んでおり、地震としての破壊は発生しないと考えられていました。その一方で、そこでは稀に、地震の規模に対して異常に大きな津波を引き起こす「津波地震」や「超低周波地震」と呼ばれる、普通の地震に比べ非常にゆっくりと滑る地震が発生することが陸上観測から知られていました。しかし、震源近傍での動きを直接捉える観測がなかったため、これまで海溝付近で生じるこれらの地震についての詳細な解析はなされてきませんでした。

当機構は、東海から南海にかけての地域を震源とする地震に関する研究の一環として、当該地域において広帯域地震計を用いた多角的な調査・観測を行ってきました。

その観測により、2008年8月に南海トラフ軸近傍の海域(図1 水深2500m から4000m;和歌山県田辺沖)で、広帯域海底地震計(図2)を3地点に設置し、2009年10月まで南海トラフ軸近傍での地震観測を行い、2009年3月22日から10日間程度の「超低周波地震」を直近で捉えることに成功しました。

南海トラフ軸近傍での「超低周波地震」活動は、2004年9月に陸上広帯域地震観測網により観測されて以来、4年半ぶりに観測されました。前回の観測は陸上広帯域地震観測網によるものということもあり、震源メカニズム等を高精度に決定するにはデータとして十分ではありませんでした。

3.成果

今回、海溝域における初めての観測データに基づいて震源位置と震源メカニズム(断層の向きと運動方向)を解析したところ、今回の「超低周波地震」が、従来プレート間の固着が小さく地震が発生しない地域(非地震域)であると考えられていた海溝付近のプレート境界面で起きており(図3)、断層の中で破壊が進行する速度が異常に遅く、同程度のマグニチュード4クラスの地震による地殻の破壊は1 秒程度で終わるのに対し、今回の地震では、30-100 秒かかっていることが明らかになりました。

今回のような「超低周波地震」と同様の周期の長い地震の破壊が、海溝まで到達した場合には、それに伴って海底面が海溝軸に向かって変化することによって、津波が発生する可能性が示唆されます。これにより、1605年に発生した東南海域を震源とする慶長地震のような、これまで実態が不明であった「津波地震」の発生原理を説明できる可能性があります。

4.今後の展望

今回の成果は、海溝付近における地震の発生メカニズムを明確化したものであるとともに、大きな被害をもたらす恐れのある「津波地震」の発生原理の解明に寄与しうるものであることから、当該海域で長期的に調査・観測を継続することによって、予想されている震源域、特に大災害につながる海溝軸付近における地震活動の時間変化を評価する際に重要な意義を持つものと考えられます。

今後、紀伊半島沖に設置している地震・津波観測監視システム(DONET)やIODP掘削孔内観測点から得られる連続データの解析により、東海・東南海・南海地震震源域から海溝に至る地震活動の評価ならびに地震に伴う津波被害に対する防災・減災に向けた基礎情報の整備・提供に貢献して参ります。

図1

図1 海底地震計の設置位置(橙丸印)

2009年3月22日から10日間程度発生した「超低周波地震」は、観測地点直近でとらえることができたため、震源位置と震源メカニズム(断層の向きと運動方向)を高精度に決定することができた。

図2

図2 広帯域海底地震計の投入風景

広帯域地震計は、周期360秒まで感度があり、断層の中で破壊が進行する速度が異常に遅いような地震を観測するのに適している。

図3

図3 2009年3月の超低周波地震の震源と震源メカニズム

は超低周波地震震源メカニズムを、橙丸印は広帯域地震観測点を表す。地震の規模はマグニチュード4程度であり、ほとんどが海溝付近のプレート境界面で起きていた。

参考

震源メカニズムの見方について

参考

気象庁地震予知情報課作成資料より

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球内部ダイナミクス領域 地球深部活動研究プログラム
地球深部構造研究チーム研究員 杉岡 裕子 電話:046-867-9336
(報道担当)
経営企画室 報道室長 菊地 一成 電話:046-867-9198