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プレスリリース

2018年 3月 14日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

南海トラフで発生する浅部超低周波地震と浅部スロースリップは
共通のプレート境界断層滑りによる現象
~巨大地震発生帯における歪蓄積過程の解明に期待~

1. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)地震津波海域観測研究開発センターの中野優特任技術研究員らは、南海トラフ付近に展開されている地震・津波観測監視システム(※1、以下「DONET」という。図1)の広帯域地震計データから浅部超低周波地震(※2図2)を解析し、その震源および断層面解の詳細な推定を行いました。さらに、同じ時に発生した浅部スロースリップ(※3)の長期孔内観測システム(※4)による観測データとの比較を行った結果、浅部超低周波地震とプレート境界での浅部スロースリップが共通の断層滑りによる現象であることを明らかにしました。

これまで、プレート境界断層やその近傍で様々なタイプのゆっくり地震(スロー地震)(※5)が発生することが知られていますが、これらが同じ断層滑りによる現象なのか、別々の現象であるのかについては詳しく分かっていませんでした。

今回の成果はゆっくり地震のうち、浅部超低周波地震と浅部スロースリップが共通のプレート境界断層滑りによって発生していることを明らかにしました。この成果によって、ゆっくり地震の発生メカニズムの統一的な理解につながると期待されます。

また、浅部超低周波地震は南海トラフ軸に沿って、紀伊半島沖だけでなく室戸沖、日向灘、琉球海溝までの広い範囲で発生することが知られています。そのため、本研究で明らかとなった浅部超低周波地震とプレート境界での浅部スロースリップの関係は、南海トラフ浅部において広い範囲で浅部スロースリップが繰り返し起きていることを示唆しています。浅部スロースリップの発生はプレート境界における巨大地震発生に向けた歪の蓄積過程と深い関係があると考えられ、今後の一層の観測強化によるゆっくり地震発生のモニタリングと、詳細な解析によるプレート境界滑りの多様性について明らかにしていく必要があります。

なお、本研究はJSPS科研費JP16H06477の助成を受けたものです。

本成果は、英科学誌「Nature Communications」電子版に3月14日付け(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:Shallow very-low-frequency earthquakes accompany slow slip events in the Nankai subduction zone
著者:中野優1、堀高峰1、荒木英一郎1、小平秀一1、井出哲2
1:海洋研究開発機構
2:東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻

2. 背景

近年の地震、地殻活動観測網の発達により、プレート境界地震の震源域周辺において、低周波微動、超低周波地震、スロースリップなどの、通常の地震と比べてゆっくりした滑りによるゆっくり地震が発生することが明らかになっています。南海トラフでは、これらのゆっくり地震は巨大地震の震源域より深い側とトラフ軸近くの浅い側で発生することが知られています。深部で起きるゆっくり地震については、発生源が陸上の高密度・高感度の観測網の下にあるため、これまで多くの研究が行われてきましたが、浅部で発生するゆっくり地震については、発生源が海底下であり、陸域に展開された観測網の外側であるため、詳しい研究が困難でした。特に、浅部スロースリップについては、南海トラフの付加体(※6)に設置された長期孔内観測システムによって、昨年初めてその発生が明らかになったばかりです(2017年6月16日既報)。

プレート境界付近で発生するゆっくり地震は、巨大地震発生帯における歪の蓄積に影響を与える重要な現象であると考えられており、将来発生することが危惧されている巨大地震の準備プロセスを明らかにするためにも、ゆっくり地震の発生メカニズムの解明と活動のモニタリングは重要であると考えられています。

南海トラフでは、2016年4月1日にプレート境界で起きたと考えられる三重県南東沖地震(Mw=5.9)が発生し、その直後から浅部超低周波地震の活発な活動がDONETによって観測されました。また、同時に、浅部スロースリップが長期孔内観測システムによって観測され、これらのイベントは地震発生後、約2週間継続しました。

本研究グループは、これらのゆっくり地震(超低周波地震とスロースリップ)の発生メカニズムの関連を調べるため、DONET広帯域地震計データを用いた浅部超低周波地震の震源解析と、長期孔内観測システムによる浅部スロースリップのデータの解析を行いました。

3. 成果

浅部超低周波地震は三重県南東沖地震の震源より約20km沖側の約30 km×50 kmの範囲、南海トラフの付加体先端部の深さ約6~9kmに分布し、プレート境界断層における滑りであることが分かりました(図3)。そして、震源の分布は時間とともに三重県南東沖地震の震源から離れるように沖側へ(プレート境界の深部から浅部へ)移動していることが分かりました。同じ時に、プレート境界断層における浅部スロースリップが長期孔内観測システムによる地殻内の間隙水圧の変化から検出されました。浅部スロースリップの滑り量は、間隙水圧の変化に比例すると考えられます。間隙水圧の変化と浅部超低周波地震による滑りの総量(累積モーメント解放量)を比較すると、4月3日以降両者は非常によく似た時間変化を示します(図4)。さらに、最終的なモーメント解放量が同程度であることが分かりました。

これらの結果から、浅部超低周波地震と浅部スロースリップが共通のプレート境界断層滑りによって発生していると考えられます。浅部超低周波地震は間欠的に発生する一方、浅部スロースリップは連続した変動であることから、浅部スロースリップによるゆっくりした断層滑りの、相対的に短周期の変動が浅部超低周波地震として観測されていると考えられます。

浅部超低周波地震の活動と浅部スロースリップの対応は2015年にも観測され、2016年と同様の解析結果が得られました。2011年から2016年の間に浅部スロースリップは8回観測されていますが、その中で比較的規模が大きく、浅いところで滑りの起きた2011年、2015年、2016年の3回のみ、顕著な浅部超低周波地震の活動が見られました。浅部スロースリップの規模や断層滑りの深さが、浅部超低周波地震の発生や規模をコントロールしていると考えられます。

4. 今後の展望

浅部超低周波地震が南海トラフで発生していることは2000年代の中頃から知られていました。既存の研究によって、紀伊半島沖から室戸沖では5年程度の周期で、日向灘ではそれより短い間隔で、繰り返し発生することが知られています。これらの地域においても紀伊半島沖と同様に、浅部超低周波地震と同時に浅部スロースリップが起きていたとすると、巨大地震発生帯の浅い側において、広い範囲でスロースリップが繰り返し発生していた可能性が示唆されます。

これらのゆっくり地震の発生は巨大地震発生帯における歪の蓄積過程と密接に関連していると考えられ、その発生メカニズムの解明が待たれます。また、浅部超低周波地震の発生域と対応して地震波速度の低速度域の存在が最近明らかとなり(2017年12月20日既報)、ゆっくり地震の発生と地殻内に存在する流体との関連が指摘されています。ゆっくり地震発生域の構造要因の特定と発生メカニズムの解明はプレート境界断層における滑りの多様性を理解し、歪の蓄積過程を明らかにするために重要です。海底における地震、地殻変動観測網のデータだけでなく、計算機による数値シミュレーションや室内実験によって得られた知見と組み合わせることで、より普遍的な発生メカニズムの解明が期待されます。

※1 地震津波観測監視システム(DONET):海域で発生する地震・津波を常時観測監視するため、文部科学省の委託事業として、JAMSTEC が開発し南海トラフ周辺の深海底に設置したリアルタイムでデータを伝送するシステムである。紀伊半島沖熊野灘の水深1,900~4,400m の海底に設置されたDONET1および、潮岬沖から室戸岬沖の水深1,100~3,600m の海底に設置されたDONET2から構成される。各観測点には強震計、広帯域地震計、水晶水圧計、微差圧計、ハイドロフォン、精密温度計が設置され、大小の地震動から地殻変動のようなゆっくりした動きまで様々な海底の動きを観測することができる。 DONET は、DONET2 の完成をもって2016 年4 月に国立研究開発法人防災科学技術研究所へ移管し、現在運用されている。DONET で取得したデータは、気象庁等にリアルタイムで配信され、緊急地震速報や津波警報にも活用されている。

※2、3、5
ゆっくり地震
(スロー地震)

低周波微動、超低周波地震、スロースリップなどに代表される、通常の地震よりゆっくりとした断層滑りの総称。

低周波微動 通常の地震とは異なり数十秒~数分以上継続する微動状の波形として観測され、10Hz程度以下の低周波成分が卓越する。沈み込む海洋プレートに沿って、プレート境界近傍の浅部および深部で発生することが知られている。
超低周波地震 通常の地震よりもゆっくりとした断層滑りによる地震と考えられており、放射される地震波は通常の地震と比べて超低周波数の成分(数十秒~数百秒)が卓越している。紀伊半島から室戸沖ではトラフ軸近傍の付加体の下、巨大地震の震源域であるプレート境界の浅部で発生する。プレート境界の深さ30km付近の深部でも超低周波地震が発生することが知られている。
スロースリップ
(ゆっくり滑り)
通常の地震と異なり、断層が一日程度以上の期間をかけてゆっくりと滑る地殻変動現象。南海トラフでは、陸上に展開された稠密なGNSS測地網や歪計観測網によって、日向灘や四国~東海の沈み込むプレート境界の深部で発生することが知られている。プレート境界浅部での発生についてはこれまで知られていなかったが、紀伊半島沖で2011年から2016年の間に8回、8~15ヶ月間隔で繰り返し発生していたことがJAMSTECの荒木英一郎主任技術研究員らの研究によって明らかとなった(2017年6月16日既報)。

※4 長期孔内観測システム:地震・地殻変動の海底下での高感度な観測等を目的として、JAMSTEC他によって開発された掘削孔内の長期観測システム。南海トラフでは、地球深部探査船「ちきゅう」によって付加体で掘削した孔内に、これまでに3か所設置された(本研究実施時は2か所)。DONETに接続することによって、長期のリアルタイム連続観測が行われている。

※6 付加体:南海トラフでは、フィリピン海プレートが陸側のプレートの下に沈み込んでいる。海洋プレートの沈み込み時にプレート上の海底堆積物が上盤側にはぎ取られるため、沈み込み帯に沿って堆積物が付加し、付加体が形成される。この付加体内部の構造や沈み込む海洋プレートとの境界断層の性質は、プレート境界やその近傍で発生する地震活動や地殻活動に大きく関連すると考えられている。

図1

図1  DONET観測点分布(グレーの▲)と長期孔内観測点(ピンクの□)。ビーチボールのような〇は過去の浅部超低周波地震の分布であり、その大きさがマグニチュードを示す(緑は2003年と2004年、赤は2009年、紫は2015年)。オレンジの○は2016年4月1日に発生した三重県南東沖地震の震央。

図2

図2 浅部超低周波地震の記録の例(観測点KMD13、場所を図1に示す)。(a) グレーの線はDONET広帯域地震計の速度波形(オリジナル)、赤の線は周期10-30秒の成分を取り出したもので、浅部超低周波地震のシグナルを表す。下の波形は、浅部超低周波地震のシグナルを10倍に拡大したものを示す。グラフの左にある縦線は縦軸のスケールを示す。 (b) 観測波形のランニングスペクトル、すなわち波形記録に含まれる周波数成分の時間変化を示したもの。色が薄い方がシグナルが強い。浅部超低周波地震には数十秒から10Hz程度までのシグナルが含まれている。

図3

図3 2016年4月に熊野灘で発生した浅部超低周波地震(sVLFE)の断層面解。発生日に応じて水色~紫色で示す。青および緑の●は三重県南東沖地震の本震および余震の分布。浅部超低周波地震の発生域は、時間の経過とともに相対的に沖側へ(プレート境界の深部から浅部へ)移動している。プロットの範囲は図1に示す点線の範囲。

図4

図4 浅部超低周波地震活動と長期孔内観測システムによる間隙水圧の比較。赤線は浅部超低周波地震の累積モーメント(断層滑りの総量)を、青線は孔内観測点で計測された間隙水圧(浅部スロースリップの断層滑り量に比例)を表す。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地震津波海域観測研究開発センター 地震津波予測研究グループ
特任技術研究員 中野 優
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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