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プレスリリース

2018年 11月 29日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

フィリピン・台湾沖の風系パターンが熱帯低気圧の発生分布を変える
~台風等の季節予測に向けた気候変動研究の新たな方向性~

1. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)アプリケーションラボのYu-Lin Chang研究員、Swadhin Beheraラボ所長、宮澤泰正ラボ所長代理及び東京大学の小平翼助教は、大気状態の過去推定データなど様々な観測データを用いて、フィリピン・台湾振動(Philippine-Taiwan Oscillation、以下「PTO」という。)が熱帯低気圧発生の分布に影響していることを示しました。

PTOは、フィリピン・台湾沖において風系のパターンが数年ごとに南北で振動するように入れかわる現象です。同沖は、台風の種となる熱帯低気圧が発生する海域であることから、その関連性を調べるため、1979-2014年における同海域の風の水平渦度の差(PTOインデックス、※1)(図1)と熱帯低気圧の発生分布を比較しました。

その結果、貿易風が弱まりフィリピン沖の風が反時計回りに強く、台湾沖の風が連動して時計回りの風が強い(PTOインデックスがプラス、図1b)場合、北緯18度より南側の海域でより多くの熱帯低気圧が発生していること(図2a)、また、フィリピン沖の反時計回りの風が弱まり、台湾沖の風も時計回りの風が弱まる(PTOインデックスがマイナス、図1c)場合、北側の海域でより多くの熱帯低気圧が発生していることを明らかにしました(図2b)。さらに、PTOインデックスがプラスの場合、日本周辺に接近してくる熱帯低気圧(その多くは台風)の数が多くなることもわかりました。

従来から、太平洋における熱帯低気圧発生の年ごとの変動とエルニーニョなど様々な大規模気候変動との関連が指摘されてきましたが、本研究は、フィリピン・台湾沖における風系パターンという領域に局在した気候変動が、その領域での熱帯低気圧発生パターンをより良く説明することを示したものです。今後は、PTOとの関連が指摘されるエルニーニョもどきも含め、大気・海洋結合モデルによる総合的な予測に向けて研究を進めていく予定です。

本成果はScientific Reports誌に11月29日付け(日本時間)で掲載されます。

題名:Philippines−Taiwan Oscillations and its connection to tropical cyclone frequency in the western North Pacific Ocean
著者名:Yu-Lin K. Chang1, 宮澤泰正1、小平翼2、Swadhin K. Behera1
所属:1 国立研究開発法人海洋研究開発機構
   2 東京大学

2.背景

熱帯低気圧から発達する台風は、日本の南の赤道寄りの海域で毎年平均26個発生しており、しばしば日本の近くまで北上して日本列島に接近・上陸し、甚大な被害を与えます。台風の発生数は年ごとに違いがあり、これを説明するために様々な研究が進められてきました。最近になって、Yu-Lin Chang研究員らは、台風の種となる熱帯低気圧が発生する海域(北緯5度~30度、東経120度~180度)では数年ごとに風系パターンが南北で振動するように入れかわること(PTO)を発見しました。PTOは、黒潮や、北赤道海流、台湾沖の渦、南シナ海などその海域の海流変動に大きく影響することがわかっており、最近ではPTOとウナギの回遊の関係に関する研究を進めています。本研究ではフィリピン・台湾振動が台風発生海域における大規模な風系パターンの振動であることに着目し、熱帯低気圧の発生パターンとの関係について調べました。

北太平洋の赤道周辺海域では、平均的に東風(貿易風)が吹いています(図1a)。PTOは、フィリピン東方沖(北緯8-13度、東経130-150度)と台湾東方沖(北緯22-27度、東経155-180度)の1000mb高度での風の水平渦度の差(PTOインデックス)のプラスマイナスで特徴づけることができます。PTOインデックスがプラスの場合は、貿易風が弱まり、その北にある西風が強まります。このような風の変動は、渦度にすると南北でプラスマイナスのパターンになり(図1b)、PTOインデックスがマイナスの場合は逆転する(図1c)ので、数年ごとのPTOインデックスの符号逆転に伴って、風系のパターンが南北に振動することになります。

3.成果

PTOインデックスの時系列と、熱帯低気圧発生分布の時系列を1979-2014年の期間内で比較したところ、PTOインデックスがプラスの場合、北緯18度より南側の海域でより多くの熱帯低気圧が発生しており、PTOインデックスがマイナスの場合は北側の海域でより多くの熱帯低気圧が発生していたことがわかりました(図2)。

PTOインデックスがプラスの場合には、北緯10度付近で対流圏下層(上層)の東風(西風)が同時に弱まっていました。風の鉛直的な変化は、大気の不安定による熱帯低気圧の発生を妨げる、風の強さと向きの鉛直的な変化の構造が弱まっていることを意味しており、その結果、熱帯低気圧が発生しやすい条件が生じていたことになります。PTOインデックスがマイナスの場合には、より北側の海域で同様な変化が起こっており、熱帯低気圧が北側の海域で起こりやすい条件になっていました。これらの結果は、PTOインデックスという指標が複雑な熱帯低気圧を考察する糸口になることを示唆しています。

PTOインデックスの時系列と熱帯低気圧発生数の時系列の相関(※2)を調べたところ、北緯18度より南側(北側)の海域での相関は、0.64(-0.46)となっていました。従来調べられていた同様な相関は、エルニーニョについては、-0. 13、エルニーニョもどきについては、0.31でした。最近提案された、様々な要素を複合したGPIインデックス(※3)においても0.39-0.54であり、今回私たちが提案したPTOインデックスとの相関が上回っていました。PTOインデックスは、熱帯低気圧発生にとってもっとも重要であろう、発生海域その場所での大気状態を直接表わしていることが、比較的高い相関の理由であると考えられます。さらに興味深いことに、PTOインデックスがプラスの場合、日本周辺に接近してくる熱帯低気圧(その多くは台風)の数も多くなることがわかりました。2018年は、日本に接近・上陸する台風の数が比較的多い年でした。実際、2018年のPTOインデックスはプラスになっており、本研究の結果と一致しています。

4.今後の展望

今回着目した、PTOという風系パターンの振動が起きるメカニズムについては、まだ不明です。PTOはエルニーニョもどきとの相関が比較的高く(0.7)、エルニーニョもどきはPTOプラスの現象に先行するので、エルニーニョもどきに対する大気の遠隔影響(テレコネクション)として捉えることもできそうです。ただ、その他の気候変動メカニズムとの関連もありえるので、今後さらに研究を進める必要があります。本研究は、エルニーニョやエルニーニョもどきといった太平洋全体で生ずる大規模な気候変動メカニズムと、北西太平洋で発生する熱帯低気圧という個別の現象を、PTOという、よりローカルな気候変動メカニズムを介してつなげていくという、気候変動研究の新たな方向性を示したものであるといえます。また、アプリケーションラボなどで実施している大気海洋結合の季節予測モデルによってエルニーニョもどきをうまく予測することができれば、PTOも予測できると考えられるので、今後の季節予測活用の可能性が広がることになります。

PTOと熱帯低気圧発生の関連についても、今後、大気・海洋結合モデルによる研究などによって、そのメカニズムをより具体的に明らかにする必要があります。発生した熱帯低気圧がより強い台風に発達していくメカニズムについても、今回は着目しなかった海洋の現象との関連を含め、さらに研究を進めていく必要があると考えられます。

※1 PTOインデックス:風の水平渦度とは、風の場所による強度や向きの違いを数値で表わす流体力学の指標のひとつであり、PTOインデックスはフィリピン・台湾沖における風の水平渦度の平均との差を示す。貿易風が弱まり、フィリピン沖の風が反時計回りに強く、台湾沖の風が連動して時計回りの風が強いとき(参考左)、PTOインデックスはプラスという。一方、フィリピン沖の反時計回りの風が弱まり、台湾沖の風も時計回りの風が弱まるとき(参考右)、PTOインデックスはマイナスという。

PTOインデックス


参考.PTOインデックスがプラスの場合(左)とマイナスの場合(右)における風の強度と向きのイメージ。

※2 相関:2つの物事の間にある関連性の度合いであり、数値化したものを相関係数という。相関係数が1または-1に近いほど関連性は強く、0に近いほど関連性は弱い。

※3 GPIインデックス:熱帯低気圧の発生頻度を予測する指標(Genesis Potential Index)のこと。海域、季節、影響を及ぼす時間スケール等複数の要因を組み合わせて予測するもので、応用研究が盛んになされている。

図1

図1. (a) 地表近く(1000mb等圧面)での海上風分布。1979-2014年の平均を示す。矢印は風の向きと強さ、色影は風の水平渦度を示す。(b) PTOプラスの場合の平均からのずれ(偏差)。(c) PTOマイナスの場合の偏差。統計的に有意でない海域は色無し。

図2

図2. (a) PTOプラスの場合に生じていた熱帯低気圧の位置。赤(青)色は北緯18度以南(北)。かっこ内の数字は北緯18度、東経140度で区切った海域での総発生数を示す。(b) PTOマイナスの場合に生じていた熱帯低気圧の位置。(c) 北緯18度以南の海域における、平均発生数13.4個/年からのずれの年ごとの時系列。 (d) 北緯18度以北の海域における、平均発生数6.5個/年からのずれの年ごとの時系列。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
アプリケーションラボ
所長代理 宮澤 泰正
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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