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プレスリリース

2019年 11月 8日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

海底資源開発における環境影響評価に音の活用を提案

1. 発表のポイント

海底資源開発の対象海域は生物多様性のホットスポットとして注目される一方、開発に伴う人工音が深海底の音風景(サウンドスケープ)を大きく変化させ、深海生態系に大きな影響を与えることが予想される。
深海における海底資源開発には、サウンドスケープを活用した環境影響評価を推進すべきであると提案した。
新たな海洋環境ガイドラインの策定に貢献するものと期待される。

2.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 松永 是)地球環境部門のTzu-Hao LIN Young Research Fellowや超先鋭研究開発部門のChong CHEN研究員らは、現在の深海底における音風景(soundscape/サウンドスケープ)、海底資源採掘によって生じる海中騒音およびこれが生物に及ぼす影響に関する知見をまとめました。これに基づき、海底資源開発に伴う生態系のモニタリングおよび環境影響評価の手法として、環境の音風景を活用することを提案しました。

本成果は、海底資源開発および海洋保護区管理などでの新たなモニタリング手法として環境ガイドラインに採用されるものと期待されます。

本成果は、「Trends in Ecology and Evolution」に11月8日付け(日本時間)で掲載されました。

タイトル:Using soundscapes to assess deep-sea benthic ecosystems
著者: Tzu-Hao Lin1*, Chong Chen2*, 渡部裕美2, 川口慎介2, 山本啓之1, 赤松友成3
所属: 1. 海洋研究開発機構 地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター 生物多様性研究グループ、 2. 海洋研究開発機構 超先鋭研究開発部門 超先鋭研究プログラム、 3. 水産研究・教育機構 中央水産研究所
*両著者はこの研究に同等に貢献しています。

3.背景

海底資源開発は、レアアースをはじめとする鉱物資源に対する世界的な需要の高まりから注目され続けています。一方で熱水鉱床が形成される熱水噴出域やコバルトリッチクラストが形成される海山といった開発の対象となる海底資源が分布する海域には、未知の生物を多数含む特異な生物群集が分布していることも知られており、生物多様性の「ホットスポット」とも言われています。このような生態系を壊すことなく持続的に環境と資源を人類が利用するためには、そこに生息している生物の分布や生息環境条件、環境変化に対する生物群集の反応などを十分に理解し(生態系モニタリング)、影響を最小にするための作業(環境影響評価)が不可欠です。深海生態系については、深海探査機を用いた試料採取やビデオ映像観察などによる調査で知見が集まりつつありますが、たとえばビデオ映像では視程が20mほどしかなく調査範囲が限定的であり、地球の半分以上を覆う広大な深海の全容を十分に理解したと言うには至っていません。間近に迫った海底資源開発と、深海底に棲む未知で特異な生態系の保全を両立するためには、深海という高圧・暗黒・広大な環境で利用可能な生物モニタリングおよび環境影響評価の手法を確立することが急務となっています。

4.成果

本研究チームは、深海における環境影響評価の新しい指標として、音を活用することを提案しました。音は、海水中では空気中の4倍以上の速度で伝わり、また光と異なり水中でもほとんど減衰しない特徴があります。特定の音が発生する位置を遠く離れた場所からでも確認できる優れた手段となりえます。実際、深海生物にとって音の知覚が重要な役割を果たしていると考える研究もあります。深海底に生息する動物は、海底を這い回るものであっても、卵あるいは卵から孵った子供(幼生)がプランクトンとして数百から数千キロメートルの距離を海中輸送されると考えられています。そして、大人として生息するのに適した環境を見つけ、個体群の維持や新しい生息地へ移入することが知られています。これまで生物が察知する環境として水温や塩分などが検討されてきましたが、近年、浅い海に生息するサンゴや二枚貝のプランクトン幼生が海水中の様々な音響が作り出す環境(音風景:サウンドスケープ)を察知して大人になる場所を決めていることが報告されました。

たとえば深海熱水噴出活動域では、背景音に比べ10-50dB程度高い音圧レベルの自然音が生じています。一方、海底資源の採掘によって海洋中に生じる人工音は、熱水活動の音をはるかに凌ぐ音圧レベル(背景音より100dB程度高い)であり、海底資源開発はサウンドスケープを大きく変化させることが予想されます。海底資源が分布する深海底の生物多様性ホットスポットを構成する生物群集も、浅い海の生物と同様、音風景を利用して生息に適した環境を認識している可能性があります。つまり、海底資源開発に伴うサウンドスケープの変化は、生物多様性ホットスポットを構成するはずだったプランクトン幼生が環境の察知に失敗するといった影響を生じ、生態系全体の頑健性あるいは復元力が低下することが予想されます。サウンドスケープは、深海底における資源開発による環境影響評価において不可欠な指標と言えるでしょう。

5.今後の展望

音は、世界海洋観測システム(Global Ocean Observing System; GOOS、※1)の必要海洋変数(Essential Ocean Variables)の一つとして示されています。一方、海底資源開発の環境基準では、国際海底機構(International Seabed Authority; ISA、※2)による公海鉱区における海底資源開発に適用される開発規則(Mining Code)のガイドラインに組み込まれていない状況です。本研究グループは、海底資源開発に伴う生態系モニタリングや環境影響評価にサウンドスケープを活用できるよう、深海におけるサウンドスケープの基礎データの蓄積を目指して、世界中のサウンドスケープに携わる研究者ならびに海洋の環境影響評価に関わる専門家が連携して研究開発を進めることを呼びかけています。こうした基礎データの蓄積をおこなうことによって、どのようにサウンドスケープを変化させているか、またどのような変化が生態系に起こっているかを、観測に基づく客観的事実として明らかにすることが重要であると考えます。海の恵みを持続的に享受するためにも、私たちは未知で広大な深海の探査と保全に、もっと取り組んでいくべきではないでしょうか?

【補足説明】

※1 国際海底機構(ISA):国連海洋法条約が規定した深海底の鉱物資源の管理を主たる目的として1994年に設立された組織。

※2 世界海洋観測システム(GOOS):全球的に地球環境変動を捉える観測システムの構築を目標とした、ユネスコの政府間海洋学委員会が進める国際協力計画。

図1

図. 海底資源開発によって変化するサウンドスケープを示した概念図。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球環境部門 海洋生物環境影響研究センター 深海生物多様性研究グループ
Young Research Fellow LIN, Tzu-Hao
超先鋭研究開発部門 超先鋭研究プログラム
技術主任 渡部裕美
(報道担当)
海洋科学技術戦略部 広報課
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