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「マイロナイト」の縞は、海洋地殻が引き伸ばされている証拠だった!

記事

取材・構成:小熊みどり

海の底にある岩石は、地球のひみつをたくさん教えてくれます。なぜなら、海底にある岩石は、陸上のものよりもマントルに近く、地球内部の情報をたくさんもっているからです。そのような、深い海から採取した、地球のひみつを教えてくれる岩石たちを紹介します。

写真
「マイロナイト」を手に取る田村芳彦さん(撮影:市谷明美/講談社写真部)

今回、取り上げるのは「マイロナイト」とよばれる岩石です。じつはこの岩石、海洋地殻が引き延ばされている証拠だったのです!(取材・文:小熊みどり)

横に引き伸ばされた白い部分に注目

この断面を見てください。
硬いかんらん石と輝石の結晶は残っていますが、全体的にきれいな縞模様になっているのが特徴です。

横方向に白い縞などができている。ところどころ丸い部分はかんらん石の結晶(撮影:市谷明美/講談社写真部)

このマイロナイトは「変成岩」とよばれる岩石の一種です。変成岩とは、地球のプレートテクトニクスによる強い力や、地下のマグマの熱を受けて変化した岩石のことをいいます。

マイロナイトは、もとは「ガブロ(はんれい岩)」という海洋地殻をつくる岩石ですが、プレートテクトニクスの“ある運動”によって変成して、縞模様になったものなのです。

プレートテクトニクスのある運動とは?

地球の表面には、硬い岩盤でできた十数枚の「プレート」があります。プレートは地殻だけではなく、地殻の下にあるマントルとよばれる部分の一部、つまり上部マントルの一部までを含んでいます。

プレートの下にあるマントルが対流すると、それに乗っているプレートは1年間に1〜数十センチメートルの速度で動きます。

このプレート同士の境界には、「収束境界」「発散境界」「トランスフォーム境界・トランスフォーム断層」とよばれる3つのパターンがあります。それぞれを見ていきましょう。

プレート同士の境界の3つのパターン。「収束境界」「発散境界」「トランスフォーム境界・トランスフォーム断層」(図版作成:酒井春)

・収束境界

収束境界は、プレート同士が近づいていく境界のことです。

プレート同士がぶつかるとヒマラヤなどの山脈ができ、一方のプレートが他方のプレートの下に潜り込むと「海溝」ができます。その境界では地震が発生し、沈み込まれるプレート上に火山ができます。日本に地震や火山が多いのは、プレート収束境界に位置しているためです。

・発散境界

発散境界は、収束境界の逆で、プレート同士が離れていく境界です。

この場所では、プレートのあいだに隙間ができるので、地下からマグマが上がって新しい地殻をつくります。海底では「海嶺」とよばれる場所が、陸上では「地溝帯」とよばれる場所ができます。大西洋を縦断する「大西洋中央海嶺」や、「アフリカの大地溝帯」が代表例です。

・トランスフォーム境界・トランスフォーム断層

トランスフォーム境界・トランスフォーム断層は、プレート同士が左右にずれて、すれ違う境界です。

過去に何度も大地震を起こしているカリフォルニアの「サンアンドレアス断層」もトランスフォーム断層で、ここでは川がずれた跡がみられます。

ガブロと同じ場所で見つかった

このマイロナイトが採取されたのは、南西インド洋海嶺の水深約2700メートルの地点です。有人潜水調査船「しんかい6500」で、1998年に採取されました。

インド洋といってもマダガスカル島の南東で、北東には海嶺同士の交点があり、海底地形を見るとトランスフォーム断層がたくさんある場所です。

左・南西インド洋海嶺「アトランティス海台」。右・潜航調査による「マイロナイト」採取の様子(図版提供:JAMSTEC)

参考:マイロナイトを採取する動画こちらからご覧頂けます。 新しいウィンドウ 新しいウィンドウ

実はこの採取地点は、以前に紹介した海底の石「ガブロ(はんれい岩)」の採取地点と同じ場所で、「アトランティス海台」の斜面です。

ここは、玄武岩の海洋地殻を下から支えるはんれい岩が露出している場所です。
玄武岩とはんれい岩は、火山岩というマグマが浅いところで急冷された岩石か、深成岩という深いところでゆっくり冷えた岩石かの違いだけで、成分は同じなんです。

参照:海の底は何でできている? 海洋地殻にかかる圧力を支える縁の下の力持ち「ガブロ」

トランスフォーム断層のできるメカニズムとは?

マイロナイトを調べると、トランスフォーム断層のできるメカニズムを知ることができます。

マイロナイトの縞模様は、海嶺でできた玄武岩やはんれい岩が、トランスフォーム断層で横に引き延ばされてできるものです。きれいな縞模様になっているのは、断層深部の高温の場所で、強い力で引っ張られたためなんです。

マイロナイトは大西洋中央海嶺など、海嶺のトランスフォーム断層でたびたび発見されています。

大西洋中央海嶺(図版作成:酒井春)

世界の海嶺のなかでもっとも遅い動きなのに?

しかし、南西インド洋海嶺のトランスフォーム断層でこれほど強い変成作用が起こることは、これまではあまり知られていませんでした。

南西インド洋海嶺が広がる速度は、世界の海嶺の中でもっとも遅いことがわかっているので不思議です。

また、マイロナイトは、もともとマグマが固まった火成岩です。海嶺でできた火成岩が、海底で力を受けて変成したものです。そのため、火成作用と海底における変成作用を両方経験している、という点にも注目しています。

前に紹介した「アンカラマイト」はプレート収束境界の岩石です。それに対して、マイロナイトは発散境界の岩石です。

どちらも海底2000〜3000メートルから採取された岩石ですが、見た目も成因もまったく異なります。

「海洋地殻は玄武岩でできている」と理科の教科書にはありますが、玄武岩の中でも「アンカラマイト」だったりや「マイロナイト」だったりであったり、海底の岩石は多様で、そこから地球の謎を教えてくれるのです。

撮影:市谷明美/講談社写真部

取材協力:
海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター 田村芳彦
付加価値情報創生部門 地球情報科学技術センター 研究データ公開技術グループ
イラストレーション:酒井春
撮影:市谷明美・講談社写真部

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