平成30年度活動報告

平成30年度の観測航海活動について

1. 西部・中部太平洋

(1)みらい航海(MR18-04 Leg.1: 2018/7/19-8/10)スーパーサイト観測網の構築

KEOにおけるセジメントトラップ係留系の回収・再設置、KEO, K2ほか観測点におけるルーチン観測、大気観測、基礎生産観測、色素観測など

(2)みらい航海(MR18-06 Leg.4: 2019/3/5-3/25) 海洋大気バイオエアロゾルの起源解明

大気観測、海表面有機物分析など

2. 日本海

(1)おしょろ丸航海(C053 Leg.2 2018/4/24-5/1)温暖化に伴う物質循環変化の検出

基礎生産観測、色素観測など

3. 東インド洋

白鳳丸航海 (KH-18-06 Leg.2: 2018/11/6-2018/12/3)ベンガル湾における物質循環

大気観測、基礎生産観測、色素観測、粒子観測

トピックス

(1)貧栄養海域の栄養塩供給における台風の貢献度評価

貧栄養海域の低次生産を支える栄養の供給メカニズムを明らかにするために、2014年夏以降、NOAAの表層ブイを使った観測定点KEOにおいてセジメントトラップ実験を実施してきた。昨年度まで同地点を通過する低気圧性渦の影響を評価してきたが、今年度は台風の影響について評価した。
2014年〜2016年の2年間の観測期間中、KEO付近を5個の台風が通過した。これまで台風の通過に伴う低次生産力の増加も報告されており台風による栄養塩の供給が予想された。しかしKEO表層ブイの水温鉛直分布データ解析の結果、前述の低気圧性渦の通過時に見られたような亜表層水の湧昇は観測されなかった。一方、2014年9月の台風T1414通過後約10日間にわたって水深50m付近に近慣性内部波が観測された。そこで同水深の栄養塩濃度勾配と近慣性内部波により増加したと考えられる拡散係数を鉛直1次元乱流クロージャーモデルで数値シミュレーションし、拡散による栄養塩の供給と潜在的な一次生産力・沈降粒子の増加量を試算した。その結果、本台風による潜在的な沈降粒子の増加量は、観測された沈降粒子増加量の5%程度であった。よって本観測研究からは、少なくとも今回の観測期間中は台風は重要な栄養塩供給メカニズムになっていない、と結論づけられた。 詳細は以下の論文を参照されたい。

Honda M.C., Y. Sasai, E. Siswanto, A. Kuwano-Yoshida, H. Aiki, M. F. Cronin: Impact of cyclonic eddies and typhoons on biogeochemistry in the oligotrophic ocean based on biogeochemical / physical / meteorological time-series at station KEO. Progress in Earth and Planetary Science 5:42, https://doi:org/10.1186/s40645-018-0196-3 (2018)

数値シミュレーションによる台風1414号(T1414)の通過後の観測点KEOの水深50m, 60m, 70mにおける(a)拡散係数の変化(b) 累積硝酸塩供給量(ΔNO3)推定値(Honda et al. PEPS 2018)

(2)東インド洋(ベンガル湾)観測航海の実施

東インド洋北半球側のベンガル湾は陸ー海洋相互作用、大気ー海洋相互作用、人間活動ー海洋相互作用研究におけるホットスポットであり、“人新世”における人間活動の海洋への影響を把握するためのモデル的な海洋である。そのため国際的な研究組織IIOE-2や SIBERで注目されている海域である。しかし観測密度は極めて低い海域でもある。そこで大学研究者と協力して物理学的、海洋・大気化学的、生物学的総合的なデータを収集するために2018年11-12月、白鳳丸でベンガル湾内から南緯10度までの南北横断的な海洋観測を実施した。



(3)無人表層観測船(USV)の試用

係留系に代わる次世代時系列観測手法の可能性がある無人表層観測船(USV)であるセールドローン(SD)の試験運航計画を立案し、KEO周辺付近の海洋物理・化学データおよび気象データを取得させ、そのデータの品質に関する検討を開始した。



(4)日本海ブルーム期観測

日本海の海面水温上昇率は、世界全体の平均海面水温の上昇率よりも大きく、顕著な温暖化傾向になっている。日本海では水温の上昇に伴う成層化によって、海洋生態系に影響が及ぶことが懸念されている。

日本海では、春と秋に顕著な植物プランクトンの増加(ブルーム)が発生している。特に春は大規模なブルームが発生し、その時期の一次生産量は年間のおおよそ4割にも達する。春季ブルーム期の船舶観測に参加し、ブルーム終了直後の現場観測データを取得した。その結果、ブルーム期に卓越する大型植物プランクトン(珪藻)は成層による栄養塩枯渇に伴い速やかに減少し、小型の植物プランクトンへと群集組成が変化することを捉えた。他の海洋に比べて極めて顕著な水温上昇が検出されている日本海では、温暖化による植物プランクトン群集構造の変化に伴い、食物連鎖へ影響が現れることが懸念される。

(5)衛星海洋学

5.1 2010年夏季の揚子江希釈水の異常分布 (Siswanto et al., 2018)

2010年夏、東シナ海における低塩分で高低次生産の揚子江の希釈水の分布は、他の年と大きく異なっていた:南東方向へ大きく張り出し、東シナ海中央部から九州南沖合までに広がっていた(a,b)。この揚子江希水の異常な分布は、異常な南西風(d)と高降水量(cの黄色線)により揚子江流量(cの白線)が増加したことに起因していると推定された。この異常南西風と高降水量・流出量はエルニーニョ現象(負のNino3.4、cの黒線)と関連していたことが明らかとなった。

5.2 黒潮続流域における低気圧性渦の植物プランクトンへのインパクト

人工衛星観測の結果、KEO海域(32.5N / 140E-160E)において負の海面高度偏差(SSHa)域でクロロフィル濃度(Chl-a)が増加することが明らかとなった(図a,b)。これは低気圧性渦による供給された栄養塩が植物プランクトンを増加させたためと推察される。さらに、人工衛星データ解析と3次元物理―化学モデルによる数値シミュレーションの結果(図c,d)、冬季に低気圧性渦が多い年には、表層混合層が浅化し植物プランクトンにとっての光環境が良くなるため春季ブルーム開始が早期化する効果があることも示唆された。

5.3 その他の衛星海洋学関連の活動

(1) 第6回アジア海色ワークショップ2018を開催した。

(2) アジア-太平洋域の低次栄養生物データベース(LowTroMAP)を公開した。