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平成16年度(独)海洋研究開発機構委託事業
「海洋調査観測活動に伴う海洋環境に対する配慮(取り組み)の調査・分析」報告書
(平成17年3月 社団法人 海洋産業研究会)

4. 環境マネジメントシステムおよびHSE(健康・安全・環境)方針

環境マネジメントシステム(EMS:Environment Management System)は、事業者が自主的に環境保全に関する取り組みを進めるに当たり、環境に関する方針や目標等を自ら設定し、達成に向けて取り組んでいくことである。このような取り組みは、ISO14000※1(全世界)、EMAS※2(欧州が中心)、JIS Q14001(日本のみ)といった環境マネジメント規格の取得および運営が中心となっている。これらの規格は、国際市場で企業の環境責任を主張する道具として、多くの事業者が認証を受けている。

環境マネジメントシステムの特徴としては、事業者自身が環境方針を決定するため、各事業内容を網羅した取り組みを実施する事が可能な点である。海域で事業を行うものは海洋環境に関する環境方針を出し、目標達成のマネジメントシステムを作成すればよい。しかし逆に、事業活動による環境影響に見合った内容であることが求められる。また、この環境方針を達成するためのフィードバックシステムが組まれていることが多いのも特徴である。

具体的には、「理念」→「理念を達成するための具体的目的と方針」→「方針の実施状況、目的の達成状況のモニタリング」→「モニタリング結果の次回目的および方針に対するフィードバック」という流れがある。

日本では、日本適合性認定協会がISO14000をJIS Q14001(JIS規格)として認可を出しており、平成16年9月までに合計16,899の事業者が認定を受けている。環境省は、環境マネジメントシステムが事業活動を環境にやさしいものに変えていくための、効果的な手法であるとして期待している。


さらに、環境のみならず労働者の安全衛生も考慮した方針を打ち出している事業体もある。これは、HSE(Health、Safety、Environment)と呼ばれ、国内外の鉱物採取に関連する企業や、オーストラリア科学省などで多く見られる。ここで挙げるHSEのうち、E(Environment)に関する運営には、ISO14000が用いられている事が多い。

  • ※1 ISO14000:スイスに本部を置く民間の国際規格認証機構(ISO: International Standardization for Organization)が1996年9月に発行した環境マネジメント規格。ISO14001(環境マネジメントシステム規格)が認証登録制度となっている。環境マネジメントシステムを経営システムの中に取り入れていることを意味し、環境に配慮した経営を自主的に行っている証明になる。ISO14001を取得した企業は、その成果を環境報告書として公表することや取引先に対してグリーン調達を求めるようになってきている。(http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=16
  • ※2 EMAS(Eco-Management Audit Scheme):1995年4月に発効したEC(欧州共同体、現在の欧州連合、EU)の環境管理制度のこと。この制度は、企業活動を生態学的に良好なものにしようというエコ監査の考え方と、イギリスのBS7750(環境管理・監査システム規格)がベースとなっている。環境方針の作成、環境管理システムの導入、環境監査の実施、環境声明書の公表などからなる。特に、環境声明書は公認環境監査士の承認を受けなければならない。EMASの発効は、日本に於いては環境審査機関の設立を、国際的にはISO14000シリーズの制定を促すこととなった。 (http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=105

4−1. 海外におけるHSEの取り組み

4−1−1.オーストラリアの国立科学研究機関(CSIRO)によるHSEの取り組み

オーストラリアでは、HSEへの取り組みに力を入れている。例えば、オーストラリ科学省の連邦科学工業研究機関(CSIRO:Commonwealth Scientific and Industrial Research Organization)では、Healthy Safe Clean Scienceのスローガンの下、HSEに取り組み報告書を作成している※1

例えば2002-2003年のHSEの報告書※2では、以下のように記載されている。 


健康・安全方針として作業場所の安全と健康を維持するために、作業者や一般市民を守れるような施設運営の水準を維持する。環境方針として、人の生涯を考慮した資源の有効利用と持続的発達を行うために科学研究を行うことを掲げている。そして、具体的に調査・研究中における事故発生状況についても詳細に調べて報告を行っている。この報告書においてCSIRO海洋調査部門では、HSEに対するリスクとして、船上活動やダイビングなどのフィールドワークにおける事故を想定しており、これを防ぐためにダイビング訓練を継続することや健康状態に関する厳しい要求があり、フィールドに出る人間についても海洋での生活の安全に関する訓練を実施していることを報告している。


また、CSIRO 鉱物部門ではHSEに関するページを作っており、HSE関連のwebリンク※3を掲載して普及啓蒙を行っている。

● 関連するウェブサイト

4−1−2.サハリンエナジー社のHSE方針

サハリン2の事業主体であるサハリンエナジー社では、2001年よりHSEを導入し、次のことを表明している※1。すなわち、人に害を加えない、環境保護、商品やサービスのため、効果的に資源とエネルギーを使用する、エネルギー資源、製品、そしてこれらに関係するサービスの開発などである。

次頁以降に、同社のHSE方針に関する概要をホームページから転載する。

● 関連するウェブサイト

しかし、このサハリンエナジー社が行う環境配慮に対しては、環境影響評価書をめぐる日本側研究者の反発(例えばオオワシの評価)※2や、地域住民との訴訟問題※3がある。


〜環境影響調査書(EIA)と相違するオオワシの営巣木を確認〜

サハリン2事業者が提示している環境影響調査書では、開発が行われているチャイボ湾において5つがいのオオワシが生息しているとありましたが、我々の調査では、少なくとも15組が今年繁殖行動を行ったこと(失敗を含む)を確認しました。調査はチャイボ湾の一部でしか行えなかったことから、湾周辺全体では、さらに多くの繁殖ペアが生息していると推察され、さらに繁殖に関与していない若鳥も数多く生息していることが判明しています。これまでの調査で、サハリン北東部の湾周辺には、約80組が繁殖していることがわかっており、200個以上の巣も見つかっています。繁殖に関与していない成鳥や亜成鳥、幼鳥を含めると、少なく見積もっても250羽以上のオオワシが生息していると思われます。サハリン1・2の開発の中心であるチャイボ湾においては約30組が生息していると推察しており、亜成鳥や幼鳥も数多く確認しています。 これらのワシは、湾や河川の魚類を餌としています。

本地域での油流出事故などは、オオワシの存続に重大な影響を与えることが明らかです。

開発工事は、大規模な森林伐採や湿原の破壊を伴っています。道路の拡張のため、表土が削り取られ赤土がむき出しになっています。降雨時には大量の泥水が森林や湿原に流れ込むのを目にしました。現在の開発行為はオオワシの営巣環境や餌環境を破壊し、多大な影響を及ぼしています。

また、騒音、夜間の照明、人や車両の立ち入りによる繁殖妨害といった影響も挙げられます。現状のまま開発行為が進めば、オオワシ個体群に壊滅的な打撃を与えることは明らかです。これまでサハリン北東部で発信機を装着したワシの約80%もが、冬期の北海道で 確認されています。オオワシの保全には、繁殖地:ロシアと越冬地:日本の両国が協力する必要があるのです。


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4−2. 国内におけるHSEの取り組み

4−2−1.(独) 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)のHSE活動の取り組み

JOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)は、労働安全衛生・環境(HSE)に関し、各事業に内在するリスクの低減に努めており、HSE方針を作成し、2004年1月に公開している※1。以下に引用する。

独立行政法人「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」(以下、資源機構という。) は、我が国の資源・エネルギー安全保障を確保するため、石油・天然ガス・非鉄 金属鉱物の探鉱・開発支援、石油・石油ガス・希少金属鉱物の備蓄等の事業を 推進しています。資源機構では、これらの事業が労働安全衛生・環境(以下、HSEという。)に関する著しいリスクを内在していることを認識し、人身事故、健康障害、環境汚染等の回避のため、直接業務のみならず、出資・債務保証先等の企業が実施する間接事業についてもこれらの企業と協働してリスクを低減します。

1)法規制の遵守
  • HSEに関する法規制とその他の要求事項を遵守するとともに、業界のベストプラクティスに基づき自主基準を設定します。
2)自主管理と関連企業との協働による負荷の低減
  • HSEマネジメントシステムの継続的改善と同システムに基づく活動の実施により、事業や業務に内在するHSEリスクを低減し、環境汚染、人身事故等を防止します。また、事故が発生した際は、迅速且つ的確な対応が可能となるよう、緊急時対応計画を整備します。
  • 環境維持に貢献するため、天然ガスの有効利用に関する調査・研究を継続します。
  • 出資・債務保証先、業務委託先等に対し、本方針に従い事業活動・作業が実施されるよう要請し、ともに取り組みます。
3)方針の周知と教育訓練
  • 本方針を役職員に周知し、方針の実行を確実にします。
  • 教育訓練の実施により、HSE活動に関する役割と責任を自覚させ、役職員のHSEに関する意識の向上と主体的なHSE活動への参加を促し、効率的なHSEマネジメントシステムの運用を目指します。
4)情報の公開
  • 利害関係者と相互理解を築くため、本方針、HSEマネジメントシステムの運用結果等を公開します。
5)HSE活動の継続とサイトの拡大
  • 本年度は、春日事務所と技術センターにおいてHSE活動を継続的に実施すると共に、川崎本部においてもISO14001・OHSAS18001認証サイト拡大のための準備作業を開始します。

なお、石油の探鉱・開発事業は、事故や環境汚染などの危険性を伴うじぎょうであることから、HSEマネジメントシステムの導入がメジャーをはじめ世界的に進められている。わが国のJOGMECでも、自ら実施する海外地質構造調査や国内基礎物理探査等について独自にGS−HSEマネジメントシステムを構築している。また、民間プロジェクト支援事業でもHSE審査を実施している。今後、さらに詳しい内容を調査して参考点の整理が求められる。

● 関連するウェブサイト

4−2−2.メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムの環境に対する取り組み

メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム※1は、環境影響評価グループを設置し、メタンハイドレート資源フィールドのベースライン調査(環境、生態系)を実施するとともに、環境に調和したメタンハイドレート開発に関る課題について調査、研究開発に取り組んでいる。すなわち、メタンガスの生産に伴い発生する低温水の環境に及ぼす影響については、これを評価する手法、メタンガスの漏洩と地層変形については、モニタリング技術の要素技術開発に取り組むとともに、地層変形を予測するシミュレータの開発に取り組んでいる。

また、HSEマネジメントシステムについては、フェーズ2以降の海洋産出試験に備え安全面を中心に調査研究を行っている。具体的には、HSEに関連して海外掘削企業に対して掘削作業安全上の問題点について、聞き取り調査を行っている。また、メタンハイドレートが環境中に放出された場合の問題点の聞き取りおよび文献調査も行っている。

環境影響評価グループのフェーズ1での目標※2

  1. メタンハイドレート資源フィールドにおいて、ベ−スライン調査を実施し、併せて、試錐に伴う環境への影響の有無を基礎試錐前後に調査する。
  2. 温水の放流の環境に及ぼす影響を評価する手法として、既存モデルを最大限活用しつつ数値モデルを開発し、評価する。
  3. タンガスの漏洩検知、地層変形をモニタリングする技術については、前者については、既存溶存メタンセンサーの改良等により検知する直接方式及び溶存メタン濃度により微生物の変化量を検出、モニタリングする間接方式について要素技術開発に取り組み、後者についても各種既存センサー(地震計、加速度計等)の深海への適用のための改良、海底下に設置する方法(格納容器、設置方式等)等の要素技術開発を行う。
  4. HSEマネジメントシステムについては、安全面を中心に調査研究し、フェーズ2で予定されている海洋産出試験を対象に安全管理システムを策定する。
  5. 地層変形を予測するシミュレータを開発するため、解析用パラメータに関する感度解析により各要因の地層変形に対する影響度の大きさを把握するとともに、海底面から生産対象となるメタンハイドレート堆積層までの各種地盤の力学特性の試験およびその評価技術を開発し、物性の把握と併せて、これらの研究結果を踏まえ、地層変形予測プログラム(プロトタイプ)を開発し、室内モデル実験を主対象にプログラムの評価・検証を行う。
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4−2−3.JAMSTECにおけるHSEの取り組み

JAMSTEC(独立行政法人海洋研究開発機構)※1では、地球深部探査船「ちきゅう」を所有し、最大水深 2,500m(最終目標4,000m水深)の海域で、海底面下 7,000m の掘削可能能力を持っている。この事業を扱う地球深部探査センター(CDEX)は、全ての事業実施にあたり事故の防止や環境保全に努めることを明言化している。

CDEXの目標は、労働安全衛生および環境保全(HSE)に関する法規則の遵守、基準、指針や規格の適用にとどまらず、可能な限りより高度なHSEの業務実行を目指している。この件に関する効果的な組織管理を行うため、その統括管理システムであるHSE-MS(Health, Safety and Environment-Management System)の構築を現在目標としている。そのマニュアルの作成を現在行い、基本となる骨格部分を作成、現在は主要業務の詳細マニュアル(例えば、緊急時対応要領、教育マニュアル等)の作成を進めている。また、同時に保安に対する啓蒙を促進し、安全文化を浸透するために、基本項目の教育をマニュアルの作成と平行して進めている※2

 以下に、地球深部探査センター(CDEX)において定めている、「労働安全衛生および環境保全に関する基本方針」を次に示す。英文版も作成されており、先駆的に制定されているものとして評価できよう。

● 関連するウェブサイト
労働安全衛生および環境保全に関する基本方針
労働安全衛生および環境保全に関する基本方針

4−2−4.民間産業界における取り組み

(1)昭和シェル石油の環境対策(HSEマネージメント)

昭和シェル石油※1は、シェルグループのシステムに基づいた健康・安全・環境に対するそれぞれのリスクを包括的に管理する「HSEマネジメントシステム(HSE-MS)」※2を構築・運用している。このシステムは、いわゆるPDCサイクルのメカニズムを応用し、自主的継続的にパフォーマンスの改善を行っている※3

昭和シェル石油※1は、シェルグループのシステムに基づいた健康・安全・環境に対するそれぞれのリスクを包括的に管理する「HSEマネジメントシステム(HSE-MS)」※2を構築・運用している。このシステムは、いわゆるPDCサイクルのメカニズムを応用し、自主的継続的にパフォーマンスの改善を行っている※3。

1.リーダーシップとコミットメント

【経営方針】の中で『環境保全、エネルギーの安定供給と安全操業をはじめとする社会的責任を遂行しつつ会社の発展を図る』ことを表明。

2.方針と戦略的目標

10項目からなる『安全、健康および環境保全に関する基本方針』を定め、具体的に施策に関する方針を示している。

3.組織・役割・責任

社長を委員長とするHSE委員会以下、各層、各部門の役割を明確化している。

4.計画と手順

HEMPによって指摘された問題点について、その対応策が検討され、計画が策定される。

5.実行とモニタリング

HSEに関するそれぞれの取組みの結果についてモニタリングされ、必要なフィードバックが行われる。

6.監査

定期的に監査部門によるHSE監査が行われ、是正に向けた改善が検討される。

7.マネジメントレビュー

監査結果等がマネジメントに報告され、戦略目標の見直しが行われる。

図4-1. 昭和シェルのHSEマネジメントシステム

図4-1. 昭和シェルのHSEマネジメントシステム

図4-2. 昭和シェルの環境負荷低減に関する取り組み

図4-2. 昭和シェルの環境負荷低減に関する取り組み

● 関連するウェブサイト
(2)コダック社におけるHSEの取り組み

コダック社※1は、自主的環境目標のひとつとして、また会社の企業理念に則したものとして、主要製造施設のすべてがISO 14001認証を取得することを目標とした。現在、世界中にあるコダック社の主要製造拠点とHSE管理システムがISO 14001の認証を受けている。

さらにHSE管理システムでは、「環境」「健康」「医療」「安全」の分野で29項目について活動基準を定めている※2。この基準は、「予防医療サービス」、「地下水の保全」、「電気の安全」、「化学物質の管理」といった項目について、より細かいガイドラインを設けている(表4-1)。

HSE の実効性を持たせ、管理を徹底するために、健康・安全・環境評価プログラムを1988年に開始。このプログラムは、世界中に広がるコダック社の組織が、健康・安全・環境に関する企業方針、手順、管理体制に従って適切に運営されているか、国、地域、地方自治体の規則や規制を遵守しているかを査察するものである。2003年には、工場、事務所、現像所、物流拠点に対して100回以上の査察を完了している。

表4-1. コダック社によるHSE活動基準
HSE活動基準
環 境 大気排出物
排出報告
廃棄物の少量化
地下水の保全
排水の管理
廃棄物管理
健 康 製造責任
健康障害の調査
人間工学
HSEトレーニング
化学物質の管理
暴露限界
医 療 職場での健康監視
医療記録
緊急医療
仕事への適合
予防医療サービス
医療施設とスタッフ
海外出張用医療プログラム
安 全 緊急時の準備
従業員の安全
化学・製造工程・機材の安全
防護具
原料の保管・取扱い・配送
契約者と来訪者のHSE
装備の安全
施設の安全
電気の安全
製品の安全・返品・回収
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