JAMSTEC|海洋研究開発機構|ジャムステック

トップページ > プレスリリース > 詳細

プレスリリース

2018年 8月 14日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

海底堆積物がマントル深部を巡る大循環をしていたことが判明
~地球表層-マントル炭素循環の解明に向けて~

1. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)地球内部物質循環研究分野の羽生毅主任研究員らは、南京大学のリーフイ・チェン教授らと共同で、南太平洋のピトケアン島とラロトンガ島(図12)から採取した火山岩の組成分析を行い、海底堆積物がマントル深部まで沈み込み、溶岩として地表へ戻るという大循環をしていることを明らかにしました。

ハワイやアイスランドをはじめとした海洋島火山(※1)は、マントル深部から上昇してきた物質が融解してできた玄武岩質マグマにより形成されています。海洋島火山のうち、ピトケアン島やラロトンガ島の玄武岩は特徴的な化学組成を示すことから、その玄武岩のマグマの源となる物質は普通のマントル物質とは異なります。その起源については世界中の研究者に着目され調べられてきましたが、いくつかの仮説が提示されるのみでよくわかっていませんでした。

本研究では、ピトケアン島とラロトンガ島から採取した海洋島玄武岩を精密測定した結果、今まで知られている海洋島玄武岩の中で最も低いマグネシウム同位体比(δ26Mg;※2)を持つことを発見しました(図3)。これは、採取した火山岩が海底堆積物に由来することを示しています。つまり、過去の海洋で生成した海底堆積物がプレートの沈み込みによりマントル深部まで運搬されて蓄積し、マントル上昇流(以下「マントルプルーム」という。) によって再び地表下まで運ばれ、それが融解することでピトケアン島やラロトンガ島の玄武岩質マグマを生成したということが言えます(図4)。

本研究は、地球表面にあった物質が数十億年続くマントル対流によって地球内部に運ばれて循環し、多様なマントル物質を形成してきたという地球進化史の描像に、新たな知見を与え、またマントルと地球表層の炭素循環の理解に近づく重要な成果です。

本研究成果は、米国科学アカデミー紀要電子版に8月13日の週(日本時間)に掲載される予定です。

タイトル:Recycled ancient ghost carbonate in the Pitcairn mantle plume
著者:X.-J. Wang1, L.-H. Chen1, A. W. Hofmann2, T. Hanyu3, H. Kawabata4, Y. Zhong1, L.-W. Xie1, J.-H. Shi1, T. Miyazaki3, Y. Hirahara5, T. Takahashi5, R. Senda5, Q. Chang3, B. S. Vaglarov3, J.-I. Kimura3
1. 南京大学、2. マックスプランク研究所 3. JAMSTEC地球内部物質循環研究分野、4. 高知大学、5.研究当時JAMSTEC所属

2.背景

海洋島火山の玄武岩質マグマの源は、マントル対流によりマントル深部から上昇してきたマントルプルームと考えられています。マントル深部の物質を直接採取して研究することはできませんが、マントルプルームに由来する海洋島玄武岩を研究することにより、マントル深部がどのような岩石でできているのか、マントル深部はどのような物質的進化を経てきたのかを調べることができます。

世界中の海洋島玄武岩の同位体組成を調べると、大洋中央海嶺玄武岩に代表されるマントル物質の組成とは明瞭に異なるものが存在します。これは、マントル深部には普通のマントルとは異なる物質が存在することを意味し、固体地球の物質的進化を反映するものと考えられてきました。マントル深部は、地球が誕生した時から変化せず残っている物質の他に、後から作られた3つのタイプの物質で構成されるとされていますが、そのうちの一つにEM1(※3)と呼ばれる物質があります。従来から用いられてきた化学指標である鉛、ストロンチウム、ネオジム等の同位体組成から、EM1は20~30億年前に沈み込んだ海底堆積物、大陸下マントル物質、下部海洋地殻等の仮説が提示されてきました。しかし、どの仮説が正しいのかを示す決め手となる証拠は見つかっていませんでした。

本研究では、近年になって堆積物の研究に用いられるようになってきたマグネシウム同位体に着目し、EM1の同位体組成を持つ南太平洋のピトケアン島とラロトンガ島から採取された火山岩を用いて、マグネシウム同位体比(δ26Mg)を測定しマグマ源の特定を試みました。

3.成果

測定の結果、これらの海洋島玄武岩は普通のマントル物質由来の大洋中央海嶺玄武岩と比較してδ26Mgが低く、またこれまで測定された海洋島玄武岩の中でも最も低いδ26Mgを持つことを発見しました。また、鉛、ストロンチウム、ネオジム等の同位体比とδ26Mgには相関があり、低いδ26MgはEM1に固有なものであることが示されました。

このような低いδ26Mgを持つ天然の物質は、堆積物の中でも炭酸塩のみであることが知られています。以上から、EM1の起源は過去に沈み込んだ炭酸塩を含む堆積物であることを明らかにしました。

ただし、ピトケアン島とラロトンガ島の玄武岩は他の海洋島玄武岩に比べてカルシウムの含有量が低くなっています。炭酸塩はカルシウムに富んでいるので、EM1の起源が炭酸塩を含んだ堆積物と考えると、一見矛盾します。これは、沈み込むプレートに乗った堆積物がそのままの形でマントルへ運ばれているわけではないことを示しています。20~30億年前のマントルは現在よりも熱く、沈み込むプレートに乗った堆積物は高温のために分解しやすくなります。この分解反応により脱炭酸化が起こり、残存した堆積物成分が低いδ26Mgを保持したままマントルへ運ばれたと考えられます。

4.今後の展望

本研究では、マントルに存在する物質のうちEM1と呼ばれるタイプの成因に海底堆積物由来の炭酸塩が関与していることを明らかにしました。また、マントル深部を構成する別のタイプであるHIMUと呼ばれる物質には、海底熱水変質で海洋地殻の中に生成された炭酸塩が関与していることを以前の研究から明らかにしています(2016/09/06既報)。これらの炭酸塩は海水に含まれていた炭素が元となっており、マントルの進化に地球表層起源の炭素が重要な役割を担っていることを示唆しています。昨今の地球温暖化の原因として、地球表層の二酸化炭素を含む揮発性成分の挙動が注目されていますが、一方長期的な時間スケールで見ると揮発性成分は地球表層とマントルの間で循環し、マントルが表層環境に影響を及ぼしてきた可能性があります。例えば、白亜紀にはマントルプルームの活動が活発であった結果としてマントルから大気へ二酸化炭素濃度が放出され、そのため現在よりも温暖であったと考えられています。今後は炭素(二酸化炭素)のみならず、水素(水)や塩素等の揮発性成分にも着目し、固体地球と地球表層の物質的な関わりを明らかにしていく必要があります。

[用語解説]

※1 海洋島火山:地球上に存在する3種類のタイプの火山の一つ。大洋中央海嶺火山や島弧火山はプレート境界上に発生するのに対し、海洋島火山はプレートとは無関係に存在する。地震波トモグラフィーによると海洋島火山の下には高温の領域がマントル深部まで続いている場合が多く、マントル深部から発生した高温の上昇流(マントルプルーム)によりマグマ生成が起こっている。

※2 マグネシウム同位体比:マグネシウムには三つの同位体が存在する(図4)。沈殿や堆積等の作用において、同位体のモル比が変化することが知られている。本研究では質量数が24と26のマグネシウム同位体のモル比を測定した。なお、同位体比の変化は小さいので、以下の式で定義されるδ26Mgを同位体比の指標として用いている。
 δ26Mg = {(26Mg/24Mg)分析試料/(26Mg/24Mg)標準試料 - 1}×1000

※3 EM1:マントルを構成する物質の一つで、EMとはEnriched Mantleの略。マントル由来の玄武岩の鉛、ストロンチウム、ネオジム等の同位体組成によって定義される。マントル深部由来の海洋島玄武岩の研究から、マントル深部には地球が誕生して以降ほとんど変化していないマントル物質(PM; Primitive Mantle)の他に、EM1、EM2、HIMU(High-μ;ハイミュー)と呼ばれる物質が存在していることが分かっている。

図1

図1. ピトケアン島とラロトンガ島
これらの海洋島の玄武岩は、マントル深部から上昇してきたマントルプルームが融解することで生成された。ピトケアン島の玄武岩はEM1の特徴を強く持つことで知られ、ラロトンガ島の玄武岩はそれよりもやや弱いEM1の特徴を持つので、両者の化学組成を比較することによりEM1の成因を明らかにした。

図2

図2. ピトケアン島の写真
斜面の下部には、ピトケアン島の主活動期に噴出した玄武岩が露出している。斜面の上部は晩期活動の玄武岩で覆われている。

図3

図3. ピトケアン島とラロトンガ島のネオジム同位体比(143Nd/144Nd)とマグネシウム同位体比(δ26Mg)を示した図。ネオジム同位体比が低いのがEM1の特徴の一つであり、ピトケアン島の主活動の玄武岩がそれに相当する。これらの玄武岩は、上部マントル由来の大洋中央海嶺玄武岩よりも有意に低いδ26Mgを持つことが明らかとなった。また、ピトケアン島の晩期活動とラロトンガ島の玄武岩は、ネオジム同位体比と相関して上部マントルの値に近いδ26Mgを持っているが、これはマグマ源に含まれるEM1物質が上部マントル物質と混合した効果で説明できる。

図4

図4. 本研究で提案するモデル
(1)海洋由来の炭酸塩を含む堆積物は低いδ26Mgを持ち、沈み込むプレートに乗ってマントルへと運ばれる。
(2)沈み込むプレートは高温高圧状態にさらされ炭酸塩は分解するが、低いδ26Mgを持つマグネシウムは別の鉱物(単斜輝石)に受け継がれる。
(3)そのような堆積物はマントル深部まで運搬され、約25億年もの間貯蔵される。
(4)マントルプルームに乗って、マントル深部に貯蔵されていた堆積物が地表付近まで運搬される。
(5)高温のマントルプルームの中で融解が起こり、堆積物起源の低いδ26Mgを持つマグマが生成され、ピトケアン島の玄武岩を生成する。図の右寄り下部には、マグネシウムの三種類の同位体を模式的に示す。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球内部物質循環研究分野 主任研究員 羽生 毅
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛 
お問い合わせフォーム