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  3. 地球史で最も長い周期の海水準変動が、海洋底の「平坦化」の効果で説明できることを大陸移動の理論モデルにより解明
    ―地球内部変動と表層環境変動との関係の理解に向けて―
2023年 7月19日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

地球史で最も長い周期の海水準変動が、
海洋底の「平坦化」の効果で説明できることを
大陸移動の理論モデルにより解明
―地球内部変動と表層環境変動との関係の理解に向けて―

1. 発表のポイント

地球史における大陸の離散集合や超大陸の形成の繰り返し(超大陸サイクル)のさまざまなシナリオを考慮した理論モデルを用いて、超大陸サイクルが数億年スケールの海水面の高さの時代変化(海水準変動)に与える影響を推定した。
超大陸の分裂から再形成までの海水準変動を解析したところ、海水準の復元には、海洋プレートが海嶺で生成されてから十分な時間が経つと、海洋底(水深)が一定の深さに緩やかに推移する「フラットニング(平坦化)」の効果が重要であることが分かった。
海洋底の「フラットニング」はマントルの対流運動が影響している可能性があり、また、この地球内部の大規模な変動が、海水準を通じて、間接的に地球表層の環境変動に大きな影響を与えることを示唆している。

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)海域地震火山部門の吉田晶樹主任研究員は、大陸の離合集散や超大陸の形成の繰り返し(超大陸サイクル)を考慮した理論モデルにより、地球史で最も長い時間スケールの海水準変動の原因を調べました。

その結果、地質学的研究から推定されている、地球における約2~3億年周期の海水準変動を復元するためには、海洋底観測で古くから知られている、海洋プレートがある年代(海嶺で生成されてからおおよそ6000万~8000万年)より古くなると海洋底(水深)が一定の深さに緩やかに推移する、いわゆる「フラットニング(平坦化)」の効果が重要であることがわかりました。

いくつかの先行研究から、海洋プレートのフラットニングはマントルの大規模な対流運動によって、海洋プレートそのもの、つまり、海洋底が持ち上げられるために起こっている可能性が指摘されているため、本研究の結果は、固体地球の内部変動と地球表層の環境変動との関係について新しい研究の枠組みを与えるものと考えています。

本研究は、日本学術振興会科研費・基盤研究(C)(課題番号:JP22K03787)の支援により実施されました。本論文はエルゼビアが発行する学術誌『Gondwana Research』に2023年7月19日付(現地時間)でオンライン掲載されました。


タイトル:
Effect of the supercontinent cycle on the longest-term sea-level change from a simple conceptual and theoretical model
著者:
吉田 晶樹1
所属:
1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター
DOI:
10.1016/j.gr.2023.06.015

3. 背景

過去の地球では、約3億年前から2億年前に超大陸「パンゲア」が存在していました。大陸の離合集散によって、地球の歴史で超大陸が繰り返し形成されることは「超大陸サイクル」(※1)と呼ばれ、その周期は約6~7億年とされています。

超大陸が分裂すると、新しい海洋底が形成され、「内海」(※2)が誕生し、大陸が離散する過程で拡大し続けます。その一方で、超大陸をもともと取り囲んでいた「外海」(※2)は縮小し続けますが、ある時代から一転して、内海が縮小に転じ、外海が拡大に転じることも考えられます。超大陸サイクルの対極的なパターンとして、内海が拡大、外海が縮小し続けて、地球のほぼ反対側に次の超大陸が形成されることを「外転」、逆に、内海の再縮小と外海の再拡大によって、もとの超大陸とほぼ同じ場所で次の超大陸が形成されることを「内転」(※3)といいます。しかし、現実の地球の大陸移動は、三次元的に複雑であるため、このような二つの対極的なパターンに加え、内海と外海がそれぞれ部分的に縮小して次の超大陸が形成される「複合」パターンも提唱されています。古地磁気学的な解析や、マントル対流の数値シミュレーション(※4)による最近の研究からは、未来の地球に誕生する次の超大陸は、理想的な外転パターンに近いというよりも、複合パターン、つまり、太平洋と大西洋が部分的に閉じることによって形成されると予想されます。(2016年8月4日既報; https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20160804/

いずれにしても、大陸の離合集散は、地球上でプレートの生成や沈み込みが繰り返されることによって地球史を通じて継続して起こります。海嶺で生成される海洋プレートは、海嶺から離れるにつれて海水からの熱伝導による冷却で重くなりつつ、やがて海溝で沈み込みます。このとき、海洋は地球全体で繋がっているため、海洋プレートの地球平均の年代が時代変化し、平均的な水深(※5)が深くなることがあると、海洋の「容積」が増加して地球の平均的な海水面は下がります。逆にその平均水深が浅くなることがあると海水面は上昇します。

このような地球史スケールでの海水準変動(※6)は、1970年代後半頃から、地質学の一分野である層序学(※7)や堆積学に基づく研究によって復元が試みられ、特に、顕生代と原生代の境界(約5億4000万年前)から現在までの海水準変動は、現在も多くの研究者によって調べられています(図1)。個々の文献で提供されている海水準変動曲線は、依然、ばらつきが大きいものの、パンゲアが存在していた約3億年前から2億年前の海水準は、現在と同じ程度に低いことは共通しています。これは、基本的には、超大陸が存在する時代は、現在の地球と同様に、海洋プレートが海嶺で生成されてからの経過時間の地球平均が、ほかの時代よりも比較的長いためと考えられます。つまり、その分、密度が大きくなり、よりマントルの上に沈みこむことで、その時代では地球の平均水深が深く、海洋の「容積」が大きかったことを示唆しています。

図1

図1.(a)地球史における超大陸サイクルの概略図。濃い橙色と薄い橙色はそれぞれ超大陸(パンゲア、ロディニア、コロンビア)と、超大陸が形成される前の「巨大な大陸」が存在していた時期を示す。Yoshida(2023, Gondwana Res.)による。(b)層序学的、堆積学的研究に基づく、顕生代(約5億4000万年前から現在まで)の海水準変動曲線。曲線の違いは文献の違いによる。横軸は左端が現在。現在の海水準を0メートルとしている。van der Meer et al.(2017, Gondwana Res.)による。


地球史において海水準変動の最も長い約2~3億年の周期は、「第一次海水準変動」と呼ばれています。この第一次海水準変動によって、海水面の高低差が±数100メートルも時代変動すると(図1)、大気中の二酸化炭素濃度や海洋・大気の循環が変化し、やがては気候や生物種など、地球の表層環境に大きな影響を与えます。したがって、超大陸サイクルと第一次海水準変動との周期の関係性を深く調べることは、過去の地球のみならず未来の地球表層の長期的な環境変動を予測する上でも重要です。


図2

図2.(a)本研究で扱った超大陸サイクルのシナリオのうち、複合パターンの概念的(理論的)モデル。超大陸の分裂、離散、再形成までの時代変化を地球の赤道断面で示している。最も外側の円弧の青色は海洋プレート、赤色や橙色の領域は大陸プレートを表す。(b)と(c)はそれぞれ、外海の縮小と内海の拡大を示す概念図。水色と橙色はそれぞれ海洋プレートと大陸プレートを表す。Yoshida(2023, Gondwana Res.)による。

【用語解説】

※1
超大陸サイクル:地球史において、地球上の大陸の離合集散により、超大陸が繰り返し形成されることを「超大陸サイクル」という。過去の地球では、約3億年前に形成された「パンゲア」以前は、約9~10億年前と約17~16億年前にも、それぞれ、「ロディニア」、「コロンビア」と呼ばれる超大陸が形成されたことが、多くの地質学的、古地磁気学的研究から確実視されているが、超大陸の形や形成場所は諸説ある。現在の地球は超大陸サイクルの谷間にあり、約2~3億年後の未来にも「次の超大陸」が形成されることが予想されている。
※2
外海と内海:本研究では、超大陸が形成されていた時代に、その周囲を取り囲む広大な海(超海洋、あるいは、スーパーオーシャン)を便宜上、「外海」と呼ぶことにする。超大陸「パンゲア」を取り囲んでいた外海は一般に、「パンサラッサ」と呼ばれている(古代ギリシャ語で「すべての海(all of the sea)」という意味)。一方、超大陸が分裂した場所に新しく形成された海を「内海」と呼び、海洋底の拡大や縮小によって、外海同様、その面積は時代変化する。現在の地球では外海は太平洋、内海は大西洋に相当する。
※3
内転:超大陸が分裂した後、いったん拡大した海洋底が再び縮小に転じて再び地球のほぼ同じ場所に超大陸ができるまでのサイクルは、著名なカナダの地質学者ツゾー・ウィルソン(1908-1993)にちなんで「ウィルソンサイクル」と呼ばれる。ウィルソンサイクルは、概念的には、「内転」と呼ばれる超大陸サイクル(※1)の一つのパターンであり、超大陸サイクルと同義ではない。
※4
マントル対流の数値シミュレーション:地球のマントルでは、コアからの加熱やマントルを構成する岩石に含まれる放射性元素の壊変による発熱を駆動源として、地球の歴史を通じて絶えず熱対流運動が起きている。プレートの沈み込みはそのマントル対流の一過程で、固体地球内部の熱を効率的に宇宙空間に逃がす役割を担っている。マントル対流は、熱対流運動を記述する質量、運動量、エネルギーの保存則、および、物質の応力と歪速度の関係式に基づいて、計算機シミュレーションで再現することができる。
※5
水深:海洋プレートは海嶺で形成された時点ではマントル最上部の温度(1,300~1,350 ℃)を持っているが、低温の海水で熱伝導により冷却されながら地球の表層を水平移動するため、海嶺から離れるほど、つまり、プレートが生成されてからの時間が古くなるほど密度が重くなり、滑り台のようにマントルの上に沈み込む。本研究では、「水深」は海嶺から海洋底までの高さをいう。海洋底を海水で満たした容器の底と考えると、その容器の底が深くなると海洋の「容積」も大きくなり、水深は深くなる。
※6
海水準変動:地球の平均的な海水面の高さの変動は「海水準変動」と呼ばれ、いくつかの時間スケールの周期が重なっている。最も長い「第一次海水準変動」の周期は約2~3億年である。一方、それよりも短い数百万年から数千万年の周期は「第二次海水準変動」と呼ばれ、地球上のプレートの生成や沈み込み、また、個々のプレートの運動速度の変化に関係があるとされる。さらに短い周期は、そのような固体地球の変動に伴う海洋の「容積」の時代変化ではなく、大陸氷床の消長や地球の気候変動等によるものである。
※7
層序学:地層ができた順序を研究する学問。地質学の一分野。層位学ともいう。地層の上下関係や並び順を調べ、堆積物の変化や化石の分布を分析することにより、過去の地球の海水準の上昇や下降を推定することができる。

4. 成果

そこで本研究では、超大陸サイクルを考慮したマントル対流の簡単な理論モデル(図2)を用いて、海水準変動との関係を一般化して理解することを考えました。その際、現実の地球では約2億年前に超大陸パンゲアが分裂を開始し、また、約3億年後までには次の超大陸が形成されることが地質学、古地磁気学的研究や、「3.背景」で紹介したマントル対流の数値シミュレーション研究から予想されていることから、過去2億年前から未来の3億年後まで5億年間の海水準変動を解析することを試みました。

本研究の理論解析では、約2億年前と現在の海水準が同程度であるという層序学や堆積学に基づく観察事実(図1)に基づいて、2億年前の海水準を0メートルとし、その基準からの相対的な海水準変動を計算しました。そして、その「相対的海水準変動」を、モデルに組み込んだ海洋プレート上の平均水深(地球全体での平均)の年代変化から解析しました。本モデルの大きな特色は、超大陸サイクルのさまざまなシナリオで解析を行ったことですが、もう一つの特色としては、実際の地球の海底地形観測からわかっている、海洋プレートがある一定の年代より古くなると、海洋底の深さ(水深)が一定の深さに緩やかに推移する、いわゆる「フラットニング(平坦化)」(図3)(※8)の効果も解析に考慮したことです。

図3

図3.観測による地球上の(a)地形と水深、および、(b)海洋プレートの年代分布。(c)は太平洋プレート上、(d)は大西洋の北アメリカプレート上、(e)は大西洋のユーラシアプレート上に沿った、プレート年代の(1/2)乗と水深の関係(例えば、横軸の8、10はそれぞれ6400万年、1億年)。点線は「ルートt則」(※8)に従う直線。水深は年代が約6000~8000万年より古くなると一定の深さに緩やかに推移する傾向がある。Adam, King, Vidal, Rabinowicz, Jalobeanu, and Yoshida(2015, Earth Planet. Sci. Lett.)による。

図4の水色、青色、緑色の曲線は、外転パターンのモデルによる相対的海水準変動の時代変化です。ここでは、外海、内海とも海洋プレートの運動速度は時間的に一定で7 cm/yr(現在の太平洋プレートと同程度)とし、大陸プレートの速度は地球の外周距離に基づき、時間的に一定で2.4 cm/yrとしました。図4(a)、(b)のいずれも内海には海洋プレートのフラットニングの効果を考慮しましたが、(a)では外海の海洋プレートにフラットニングの効果を考慮せずで、(b)では外海にもフラットニングの効果を考慮しました。

図4

図4.外転パターンのシナリオによる相対的海水準変動の時代変化。横軸の「200」は2億年前、「0」は現在、「-300」は3億年後を表す。いずれも内海の海洋プレートにはフラットニングの効果を考慮し、フラットニングするプレート年代tmaxを6000万年(水色)、7000万年(青色)、8000万年(緑色)と変えている。(a)は、外海の海洋プレートにフラットニングの効果を考慮しない場合で、(b)は、外海にもそれを考慮した場合。補足として、(a)と(b)の黒色と灰色の曲線はそれぞれ、内海と外海の存在自体を解析に考慮しなかった場合。Yoshida (2023, Gondwana Res.)による。


その結果、(a)の場合では、内海の海洋プレートのフラットニング年代(tmax=6000万年~8000万年)にかかわらず、5億年間の海水準の高さのピークは最大で+700メートル前後と大きくなり(赤色の矢印)、しかも、現在にあたる時間(0億年前、橙色の矢印)でも+600メートル前後となりました。これは、観察事実と一致しない結果です。一方、(b)の場合では、(a)の場合よりも海水準変動の高低差が小さく抑えられ、現在(橙色の矢印)の海水準が0メートルに近くなり、観察事実に近い結果が得られました。このことは、数億年周期の海水準変動の復元には、海洋プレートのフラットニングの効果が重要であることを示唆しています。

なお、図4(a)、(b)の黒色と灰色の曲線はそれぞれ、内海と外海の存在自体をあえて解析に考慮しなかった場合で、これらの場合には海水準変動の高低差の絶対値が、時代が経過するにつれて数千メートル以上にまで大きく発散し、現実の海水準変動の高低差と明らかに合わない結果になりました。これは、本モデルの物理的な妥当性を暗に示していると同時に、地球の海水準変動が、外海と内海の平均水深に非常に敏感であることを意味しています。


図5は、図3で示した複合パターンによる相対的海水準変動の時代変化です。図5(a)の水色から緑色の曲線は、図4と同様、外海、内海とも海洋プレートの運動速度を時間的に一定とした場合です。一方、図5(b)の橙色から茶色の曲線は外海の海洋プレートの運動速度は時間的に一定ですが、内海の海洋プレートは、その拡大とともにやがて海溝で沈み込みを開始し、運動速度が時代とともに増加することを考慮した結果です。図5(b)の実線は、3 cm/yrから7 cm/yrまで比較的急激に増加する場合で、破線は、比較的緩やかに増加する場合の結果です。両方の場合を比較すると、後者の方が、5000万年前頃の海水準変動の上昇のピークが若干小さくなり、より現実に近くなりました。

図5

図5.複合モデルのシナリオによる相対的海水準変動の時代変化。それぞれのパネルで水色から緑色の曲線、あるいは、橙色から茶色の曲線は内海の海洋プレートのフラットニング年代(tmax)が6000万年、7000万年、8000万年の場合。灰色と黒色の実線は層序学的研究よる実際の海水準変動曲線。(a)は内海の海洋プレートの年代が時間的に一定の場合、(b)は内海の海洋プレートの年代が時代とともに比較的急激に(実線)、あるいは、比較的緩やかに(破線)に増加する場合。(c)は内海の海洋プレートの運動速度が緩やかに増加する場合で、海水の絶対量が2億年前から現在まで3%減少する場合。(d)tmaxが7000万年で(赤色の実線)で、現在の海水準を0メートルになるようにフィッティングした場合。Yoshida (2023, Gondwana Res.)による。

さて、現実の地球では、海洋プレートの沈み込みによって海水がマントルに取り込まれる結果、地球上の海水の絶対量が徐々に減少し続けていることが、最近の国内の岩石学的研究によっても報告されています。図5(a)、(b)の解析では、固体地球の変動が海水準変動に及ぼす影響を見るため、また、数億年のスケールではその海水準変動への影響は小さいと仮定し、海水の絶対量の時代変化は無視しました。

そこで、図5(c)の場合では、解析した5億年間にわたってその影響を考慮し、2億年前から現在までの2億年間で海水の絶対量が3%減少したと仮定しました。このとき、相対的海水準の正のピークはamaxの大きさに依存するものの、+300メートル前後となり、層序学的研究に基づく観察結果と比較的相関の良い結果が得られました。なお、図5(d)の曲線は、(c)の場合と大きく変わりませんが、amaxが7000万年と仮定したときに現在の海水準の高さが0メートルになるように調整した結果です。両方の場合を比較すると、将来の海水準は現在よりも数100メートル下がることには変わりませんが、その程度はamaxの設定に大きく依存することがわかります。

【用語解説】

※8
プレートのフラットニング(平坦化):海嶺から海洋底までの深さ(水深)は、流体力学的な理論ではプレートの年代の(1/2)乗に比例し(いわゆる、ルート(√)t則)、太平洋や大西洋で観測される実際の水深も、年代が約6000万~8000万年まではこの法則とよく一致する。しかし、水深がその年代より古くなると一定の深さに緩やかに推移する傾向がある。海山があると局所的に浅くなり、また、プレートの年代がさらに古くなり大陸縁辺に近付くと、プレートや地殻層・堆積層の厚さが乱されることで水深も大きく変動する。その「フラットニング」(平坦化)の原因は、1970年代からいくつか提唱されているが、海洋プレートの底面がマントルにより再び加熱されることによる熱的な効果や、最近ではマントルの対流運動によってもたらされる鉛直方向の力が海洋プレートを持ち上げる力学的な効果(ダイナミック・トポグラフィー)も有力である。

5. 今後の展望

1990年代中頃、あるいは、我々の比較的最近のマントル対流モデルに基づく研究(図2の説明文で引用した論文)では、プレートのフラットニングの原因の一つとして、マントルの対流運動によってもたらされる鉛直方向の力が海洋プレートを持ち上げる効果、いわゆる、「ダイナミック・トポグラフィー」と呼ばれる効果が提案され、実際の地球の水深データをよく説明する結果が得られています。フラットニングの原因がマントルの大規模な対流運動に関係がある場合、本研究の結果は、一見して関係がなさそうな固体地球の内部変動と地球表層の環境変動との間に間接的な関係がある可能性を示唆します。

本研究で扱った理論モデルは超大陸サイクルの対極的なパターンに基づく簡単なものです。しかし、例えば、過去2億年間の地球では、海洋プレートの運動速度の地球平均が現在よりも1.5倍以上大きかった時代もあり、本研究で外海の海洋プレートの運動速度を一定としたモデルでは、第一次海水準変動より一桁小さい数千万年スケールの「第二次海水準変動」(※6)の原因を議論するには不十分です。今後は、より現実的な超大陸サイクルのシナリオのもとで、本研究ではまだ扱っていない、さまざまな地球物理学的パラメータや条件を考慮したモデルに発展させる予定です。

また、これまでの研究で蓄積してきた地球ダイナミクスの知見と独自の数値計算手法を活用して、現実の地球により近い超大陸サイクルを実現するマントル対流の数値シミュレーションを実施し、固体地球の内部変動と地球表層の環境変動に関わるさまざまな課題について理解を深める必要があります。今後、JAMSTECが運用するスーパーコンピューター「地球シミュレータ」などを用いて、過去や将来の地球のプレート運動の時代変化が第一次海水準変動のみならず第二次海水準変動に及ぼす影響について、さらに詳しく調べることを計画しています。

さらには今後、この研究を進めることで、プレートテクトニクスが地球表層の環境変動に及ぼす影響に関する理解が高まり、地球環境変動の歴史や将来予測をより確からしく説明することへの寄与も期待されます。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター
主任研究員 吉田 晶樹
(報道担当)
海洋科学技術戦略部 報道室
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